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母を求めて3000年  作者: 三木叶
1章
13/14

10話

「……手ごたえがないわね」

「いえ、レオナ様には手ごたえがある敵と戦っていただいては困ります。しかし、おっしゃる通り」

「「手緩い」」


 そう、4番出口の突破に成功して以降、増援らしき小部隊と交戦こそしたもののそれも1個小隊、正直なところ異常としか思えないほどあっさりと脱出できてしまった。


「此処まで大きな騒動を起こしたからには兄には後はないはずよ、なのに異様に手緩い」

「この程度の戦力しか集められなかったという可能性は?」

「ないわ。確かにターミナルの制圧に踏み切れる戦力には驚いたけれど、その程度しか動員出来ないならクーデターに成功しても先細りよ。おまけにあれは見たところ借り物、子飼いの部隊ではないわ」

「とすると……本部制圧にだいぶん手間取っている?」

「そうなるわね。なら総督府経由で戦力を集めて一気に鎮圧してしまうべきね」

「仰る通りかと」


 やはりレオナさんもオルクスさんも不審に思っているようで、その結論には一応筋が通っている。気になるのはヴェルヌが沈黙を保っていること、何かを探っているのだろうか。あれだけのクラッキング能力があってなお手間取る情報とは一体。


「あなたはどう思う?」


 レオナさんから話題を振られる。どうやらヴェルヌの能力を隠しておきたいこちらの気持ちを汲んでくれたのか、一瞬俺の手元の端末に視線を遣った後すぐに戻す。


「そうですね……」

《ふふふ、素敵に有能なヴェルヌ様が素晴らしい情報を持ってきてあげましたよ。ゴウキ・ヤマト、なかなかやりますね》

《ヴェルヌ!?》


 しばらくぶりに聞いたヴェルヌの声はびっくりするほど上機嫌だった。


《ええ、大丈夫です、このクーデターもどきはもうすぐ首謀者捕縛によって終了します。まあ、相手にも弱みがあったとそういうことでしょうね。P.A.Lユニオンで先ほど取締役3名が罷免されました、今回の襲撃の大本です》

《はあ!?おい、どういうことだよ!おい!》

《まあ知り過ぎていても不審ですしこのくらいで。とりあえず向こうにも何かあったのではと言っておきなさい》

《あー、もう、絶対後で聞かせてもらうからな!》


 全く意味が分からないが、つまりP.A.Lユニオンも一枚岩ではなかった?しかしターミナル襲撃に踏み切れるほどの人間だろう、少なくともそうあっさり身元にたどり着かれるようなへまは……。

 まあ、とにかくレオナさんに返答を返さねば。


「ええと、あちらにも何かしらのトラブルがあったということは考えられませんか?」

「ほう?」

「案外失敗を悟って撤退しているのかもしれませんよ、なんて」

「そんなわけがあるか。ターミナル襲撃だぞ?ゴウキ様も並の覚悟ではないはず、そうそう諦めるはずがない」

「……なるほど」


 ちらりと手元の端末に視線を向ければレオナさんは何かを察したように黙り込む。


「エース級パイロットの直感を馬鹿にしたら駄目よオルクス、それで?ならあなたはどうする?」

「な、お嬢さま!?」


 正直何が何だかさっぱりなんだが。


《ヴェルヌ?》

《さっさと総督府に向かって黒点発見を申請してしまいなさいと伝えましょう》

《了解》


「そうですね、取りあえず総督府で黒点発見の申請手続きを済ませてしまうべきかと。公的機関に認証されればまず此方の勝ちです、商会内でもレオナさんに付く者が増えることでしょう」

「な、貴様どこまで……!」

「私が話したのよ、現状使える人間は喉から手が出るほど欲しい」

「な、ぐ、……貴様覚えていろよ」


 なんか思いっきり睨まれた気がしないでもない。どうしようか。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆




 やはりというべきか、総督府周辺には警備の兵はいても敵兵は見当たらない。これは本当に収束に向かっていると見て良さそうだ。

 さっと周りを見渡したレオナさんはあっさりと踏み込むことを決断、正面より乗り込んだ。


「これは、レオナ・ヤマト様。如何なされましたか?」

「クインリッジ惑星総督レン・カヴァルコフに面会希望よ、執務室まで通してほしいのだけれど」

「少々お待ちください、ご用件は?」

「緊急の要件よ、とっとと通しなさい。この状況でその程度の判断も出来ないの?」

「そうは仰られましても……」

「ああ、そう。下っ端に用はないわ、とっとと判断のできる上司を呼ぶことね」


 受付につかつかと歩みよりいきなりすさまじい迫力で凄むレオナさん、率直に言って怖い。相対する受付も微妙に涙目になっている。

 と、奥から中年の恰幅の良い男性が苦笑しながら歩み寄ってくる。


「……まあそううちの受付を虐めてやってくれるな、この状況で武装した兵を通すわけにはいかんのだよ」

「でしょうね、でも少しでも状況が掴めているなら私たちを通さざるを得ないのもわかるでしょう?」

「まあどちらにせよ通さざるを得ないのは認めるが、君たちはこっち側だろう?それくらいはわかるさ」

「話が早くて何より、早く通しなさい」

「だが、護衛は1名までに制限させてもらう」


 そこで少し辺りを確認するレオナさん。此方に視線を止め、俺に意味ありげに目線を遣った後口を開く。


「オルクス、来て頂戴。指揮権はラムドに。何か異変があったら即座に突入なさい」

「かしこまりました」


 これは……。


《ヴェルヌ、中は探れる?》

《愚問です、当然出来るに決まっているでしょう》

《じゃ、よろしく》


 つまり異変があれば俺が最初に突入しろと。しかしヴェルヌ、結構高く見られていそうだが。


「手短にそちらの把握している状況を」

「ええ、まず……」


 会話しながら奥へと消えていく3名、残されたのは非常にピリピリしている護衛部隊と顔の引きつった受付、そして居心地の悪い俺。


「……名前は?」

「ネモと名乗っています」

「腕の程は確認した……が、それだけだ。我々は貴様を信用していない」

「でしょうね」

「……お嬢様はなぜこのような得体のしれない奴を……」


 信用されていないのもまあそれはそれで。刺客かもしれない俺が奥に突入したら後を追いかけざるを得ないだろう。なら俺が信用されている場合と結果は大差ない。


《どう?》

《どうもほとんど情報を把握していないようです。主犯が何処かすら。どうも市内の混乱を収めるのに手一杯であるようで》

《危険は?》

《今のところないでしょう、真っ直ぐ事務室に向かっています。周辺にはあまり武装した兵もいません》

《分かった》


 一旦辺りを見回す。受付フロアはあまり人がおらず閑散としており、途中見かけた市役所が人でごった返していたのとは対照的だ。まあもともとここは主に惑星間の物事を処理する場であり、つまりそうした厄介ごとを持ち込むターミナルが事実上閉鎖されている今は人も来ないのだろう。閉鎖が解かれた後を考えると同情するが。

 受付の殆ども人がおらず、この一般受付のみが開いている。人手不足か。そして奥ではひっきりなしに電話が鳴っており、バタバタと人が駆けずり回る音がする。

 ……ずしゃあという今の音と怒鳴り声は誰かが書類の山を引っくり返した音のようだ。不憫な。


《話が大体纏まったようです、クインリッジ総督府から公式調査員を派遣し、現地に到着し次第中央政府に申請を出すとか》

《先に申請を出す訳にはいかないのか?》

《今回に限っては中央政府も敵です、まず此方の公式調査員で抑えて根回しもしておかないと中央政府に持っていかれてしまいかねない、なにせあちらからしてみれば今まで牛耳れていた系列間交易が他所に流れてしまうんですからね》

《……なるほど》

《むしろ、今回の一件は中央政府が敵だったといってもよかったかもしれません》

《……どう違うんだ?》

《ご長兄もある意味では味方だったということですよ》


 急に聞こえてきた銃声。


「っ!」

「なんだ!?」

「……対反乱特別措置法5条2項に基づき援軍を要求します!!こちら中央政府所属第7軍、敵大部隊に襲撃され劣勢です!」

「分かった!場所は!?」

「中央区4番街です!!」


 U.S.O.F中央軍の制服を着た男が飛び込んできて総督府警備兵を連れていく。現在の状況からすればその交戦相手はP.A.Lユニオンであり、ならば当然味方だと考えるはずだ。しかし。


《来ましたね》

《これはもしかして、陽動だったりするのか?》

《現在各地においてP.A.Lユニオン側の部隊と中央軍の部隊が交戦していますが、全域において中央軍が優勢です》

《……陽動じゃないか。どっちの?》

《彼は正式な中央軍の小隊長ですよ、ついでに彼に先刻与えられた指令は総督府の警備を引きはがせ、だそうで》

《わーお……》

《もうすぐ公にできない感じの陸戦部隊が2個分隊ほど来ると思いますよ》


 かなりまずい。何がまずいって中央政府と俺なら絶対に中央政府の方が信用されているに違いないのがまずい。此方にも2個分隊分の人数は居るが先制攻撃は絶対に向こうに取られる。


《来ました》


 悪寒、絶叫、即座に伏せる。


「伏せろ!!」


 頭頂部をちりちりと焼く遠赤外線レーザー、ぎりぎり躱し切ったのはいいが見れば周囲はなかなかにひどい状態だ。ついさっきまで此方を厳しい視線で眺めていたラムドなる此方の指揮官は首から上が蒸発、炭化した肩からちりちりと煙が上がっている。無傷と思われるのは見たところわずかに警備兵2名、ヴェルヌの情報通りならこれだけで敵兵10名強を迎え撃たねばならない。


「クソ、そこの元気な2名!撤退して狭所で迎え撃つぞ!カウンター奥にさがれ!」


 カウンターは防犯上特殊鏡面加工防弾ガラスで全面が覆われている。格子間隔の異なるガラス層を幾層にも重ね間に遠赤外光反射率99.97パーセントを誇るアルミナ化合物粉を塗布したこの特殊ガラスは、可視光域の光は90パーセント程度通すが非可視光域の光は95パーセント以上反射し0.01パーセントしか通さない。この程度の反射率では昨今の大出力のライフルには気休めでしかなく、何発もレーザーを食らえばあっさり溶け落ちる、しかし透過率は十分低くそれまではばっちり射撃を防いでくれる。

 丁度ありがたいことに総合受付は何とか入れそうな感じにガラスがダメージを受けている。うしろでもう半泣きの受付にさらなる心労を掛けるようで申し訳ないがのんびりはしていられない、熱を持っている部分に渾身の蹴り。


「下がって!!」

「え、は、はい!」


 蹴り破って近くの息がありそうな3名を放り込み、応急処置を頼む。相手が突入してくる前にできるのはそれが手いっぱいで、動ける2名とともに急いで穴に飛び込む。直後にぞろぞろと特殊部隊チックな兵士11名が突入してきた。


《ヴェルヌ、レオナさんに連絡》

《もうやってます、周囲の警備兵と合流して此方へ増援に来るそうです》

《数は?》

《ほぼフロントに出していたそうで、6名ですね》

《……きっつ》


 取りあえず惚けている暇はない。


「取りあえず撃てるだけ撃って!弾切れしそうになったら報告、そしたら撃つな!」

「りょ、了解!」


 カウンターの受け取り口からおっかなびっくり射撃する横の2人。頼りないのはどうしようもない。


「……違う、そうじゃない、相手の銃口を見ろ」

「……ったく実戦経験のない奴は、どけ、ブラスターの撃ち方はな、こうだ!」


 腕なり肩なりが撃ち抜かれすさまじい苦痛に身を焼かれているはずのブラックキャット商会護衛部隊生き残りが立ち上がり応戦に加わる。正直ありがたいが動いたせいで出血している、ショック症状も起こしているのか顔面が蒼白だ。


「大丈夫なんですか?……いえ、加勢ありがとうございます」

「ふん、どこの馬の骨とも知れないガキにお嬢様を任せるなんて出来るか!」

「お前に任せてここで寝てたなんてブラックキャット商会の名折れなんだよ!」


 実に頼もしい強がりだ。なら、こっちも。


「じゃあ、ここは任せます。こっちを気にせず撃っちゃってください」

「ああ?まさかお前……」

「はい、突っ込みます。このままじゃじり貧だ」

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