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母を求めて3000年  作者: 三木叶
1章
11/14

8話

 明らかにフラグが立っていたというのに、なぜか何も起きることなくついにクインリッジ到達。ヴェルヌに頼んだ調べものも結局必要がなくなった。


《言っておきますけど、宇宙空間での船上通信のスペックじゃ大規模なデータ通信が出来ないんですよ。おまけに通信拠点から離れた場所では星間ネットワークに接続できないから何も出来ないんですから》

《いや、仕方ないのは分かってるって》


 宇宙空間において、極小の重力特異点を利用して電波のみを送受信することで十分小さなラグでの通信が可能である。しかしこれもまた励起状態を保つよう整備と管理が必要なため、標準航路上でも飛び飛びにしかネットワーク接続はままならない。ここまでで接続可能だった場所は黒点周辺宙域のみ、滞在時間は10分もない。流石に無理があるのは百も承知している。


《一応分かったこともあります》


 その時間で探らせていたのはクインリッジへのP.A.Lユニオンの派遣人員。クインリッジ内部の情報をかなり漁ってくれたことで、どうも例の長兄がクインリッジに帰還し、結構な人員をこっそりと連れ込んだらしき痕跡を発見した。しかし情報はそこ止まり、連れ込まれた人員が何を目的にしているのか、そして今どこにいるかは分からずじまいである。


 通信画面にヤマトさんが映る。これからクインリッジへと降下するのだろう。


『……皆、ここまでついてきてくれてありがとう。家の愚兄が悪かったわね、彼はクインリッジで待ち構えているそうよ』

『随分と舐め腐ってくれていますな』

『そうね。でも僥倖よ、兄が私の帰還を知って間抜け面をさらすのを一番に拝めるのだから!降下、行くわよ!』

『『「了解!」』』


 2番艦を先頭に、俺たち、コウノトリ級、その他4隻の密集陣という順で降下する。空港滑走路もすでに開いている、そこを目掛け秒速10kmから大気の密度にあわせ速度を落としつつ向かう。30分程度かかる降下、さすがに大気圏内では仕掛けてこられないらしく周辺に危険な反応はない。


『そろそろ誘導が入るわ!順に滑走路に入って!』


 指示の通り、まずテッセンさんが機首を上げる。続いてこちらにも管制塔からの通信が入ってきた。


『フレイリー級ですね、軽巡用降下滑走路7番に入ってください』

「了解です、護衛中のため誘導は不要です」

『かしこまりました』


 何かがあった場合船体で射線を遮る必要がある。大気圏内であれば高出力の砲撃は重罪となるから、社会的地位のある仮想敵相手であればフレイリー級の紙装甲でも盾になるのだ。

 周辺の索敵を怠らず、そして1番艦とこの船の位置関係に気を配る。そして、そのまま着陸。最後まで砲撃の類はなかった。


《周辺の索敵を》

《やっています……迎えに来ているのは職員のようですね、制服を着ています》


 小型トレーラーに乗った空港職員の先導に従い、格納庫へと向かう。船体下部のタイヤでゆるゆると向かう先は7番格納庫の2-11、念のためトレーラーの職員を急かす。


「すまない、もう少し急いでもらえると助かる。割と船の中に飽きてきたんだ、早く降りて娑婆の空気を謳歌したい」

『はは、皆さんよく言いますよ、気持ちもわからないでもないんですが、規則なんでね。まあ面倒な手続きも醍醐味だと思って、我慢してくださいな。一応これでも精いっぱい急いでるんですよ?』

「まあ仕方ないか……」


 格納庫の入り口もそう多くはない。そしてこちらは団体客、纏めて格納をしようというのならさらに入り口が混み合うだろう。


《ヴェルヌ、通信》

《はいはい》


 通信を開いてもらって、ほかの船に格納庫の位置の確認をとる。


「お聞きしたいんですが、皆さん格納庫のどこに案内されてますか?此方は7番の2-11です」


 帰ってきた答えは0番、1番艦を除き7番格納庫2階の南の一角にまとまっていた。コウノトリ級は中型とはいえ輸送艦、駆逐艦や巡洋艦向けの格納庫には入らないから不思議ではない。そしてもう一つの除かれた1番艦はというと。


『10番格納庫の55番よ』


 通信の後、ちょっとしたやり取りの後いわゆるVIP御用達の場所へと案内されているらしい。いつものことだと言うが、しかし安全なのかは非常に気にかかる。


「一応、警戒をした方が良いのではないかと思います」

『此方の人員がいるわよ?通信も来ているし』

「その人員は信頼できるのですか?」

『通信に出たのは護衛部門責任者のグレンよ、顔も知っているし長兄の派閥ではないわ』


 なるほど、ならば大丈夫だろうか。念のため、ヴェルヌに急いで確認をとってもらう。


《確認を頼む》

《はいはい……グレンさんの確認が取れました、本物なのは確かでしょう。最近の行動を洗いますか?》

《よろしく、頼りにしてるよ》

《全く、AI使いが荒いんですから……》


 ならば、問題ないか。少なくともブラックキャット商会の内部事情については俺よりもレオナさんの方が詳しいはず、なら彼女が大丈夫だと判断したなら問題ないだろう。

 案内に従い、格納庫に船を入れる。職員の急いでいるという話も嘘ではなかったのか、護衛のハヤテ級の姿は見えなかった。念のため護身用に小型ビームブラスターを腰に下げて降りる。マイクロチップの通信は繋げっぱなしだ。


《……まずいですね、武装した集団が10番ターミナルに向かっています。身元は不明です》

《はあ!?やってくれる!何そんなのを通してるんだよ!》

《武器も抜いていないし犯罪歴もないならば、護衛で通ります。たぶんどっかのお偉いさんの身分保障も確保したんでしょうね。あと10分程度でグレンさん率いる護衛部隊と衝突しそうですよ、戦力的には護衛組圧倒的不利といったところですね》


 まずい、とにかくまずい。これだけの強硬手段に出ているんだ、勝算も揉み消しの手段も用意してあるんだろう。せめて奇襲だけは避けなければ!


《あー、クソ、通信で警告を送って!秘匿、ヤマトさんに直通で!》

《……情でも移ったんですか?》

《貸しもある、大っぴらには話さないだろ!とにかく戸籍は何としても欲しいんだ、ここでぽしゃられてたまるか!》

《ならいいですが》


 警告はヴェルヌに任せ、道案内も頼んで全力で走る。ターミナルは格納庫に直結して円状に10個と中心に1つの11個、この7番格納庫から10番格納庫へと向かうには7番、メイン、10番とターミナルを経由するのが本来の道だ。しかしメインターミナルから10番ターミナルに向かうのには許可が必要、そしてそれはかなりの社会的信用と金が要る。


 ならば地続きの地面を走り、非常口から侵入する。幸いなことにヴェルヌのクラッキング能力は1級品、非常口の電子ロックも小型端末から接続すれば開けてくれるだろう。

 7番格納庫非常口に到着。此処は10番とは違い内側からなら手動で開けることが可能だ。非常口のハンドルに手をかける。


《と、いったん止まってください……良いですよ》

《……どうした?》

《どうしたって、……あのですねぇ、非常口が開けられるなんて緊急事態なんですから警報が鳴るに決まってますからね?》

《……助かった》


 前世含めセキュリティの高い建物の非常口などとんと縁のない生活を送ってきたため、全く想像もつかなかった。非常時ならば警報が鳴っても問題ないし、非常時でないなら非常口が開けられるのはセキュリティ的に問題がある。考えてみれば合理的だ。ヴェルヌには頭が上がらないな……。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆




《開けてくれ!》

《了解です》


 電子ロックを内部回線からもぐりこんで開錠してもらい、10番格納庫の非常口を開ける。ブラックキャット商会の護衛は突破され死人こそいないものの重傷者多数、警備員も応戦しているが戦力が足りていない。もともとVIP向けである10番ターミナルは出入り口の防備は固くとも内部には殺傷性の戦力が余り配置できないため、その入り口を突破されると足止めもままならない。つまり出入り口を権力で突破されると非常に脆いのだ。


《格納庫に10人程突入したようです》


 とはいえ常駐の警備員も商会の護衛部隊も凄腕、倍近い戦力差でも15分もの時間を稼いだのは間違いなくその実力故だろう。おかげでこちらの移動が間に合いそうだ。

 レオナさんはハヤテ級の中に立てこもっているはず。敵は恐らく彼女が出てきて護衛に合流した辺りを狙うつもりだったのだろうが、10分前にヴェルヌから警告が行ったために彼女が出ていくことはない。流石に人間では駆逐艦といえども船には勝てないし、安全と言えるだろう。無論、そこも読んで何かしらの手段を用意してこられる可能性もあるが。


《開きました》

「よし……!?」

「こんにちは、早速だけど脱出するわよ」


 扉を開けた先に目に入ってきたのはやたらと贅沢な内装。非常口でさえ紅いカーペットが敷かれ埃すら感じさせない、掃除にいったいどれだけの金をつぎ込んでいるのか。天井の明りもシャンデリアになっており、LEDだろうが蝋燭のように揺らめく光を放っている。此処だけ世界が違うとしか。そしてそこに立つ見覚えのある女性……まさか今現在命を狙われているであろう女性がこうして安全な船内から出てくるはずもなく。


「ほら、惚けてないで。案内して頂戴、エースさん?」

「なんでここに居るんですか!」


 ……現実逃避は許されなかった。レオナさんがまさかのご登場、茶目っ気たっぷりにウインクして見せる様子は余裕綽々で状況を理解しているとは思えない。


「なんでって、船の中に引きこもっていてもジリ貧よ?脱出して本部で人員を掌握して、この事態を引き起こした連中を叩き潰すのよ。このクインリッジで私に喧嘩を売ったことを後悔させてやるわ。あとここに来れたのはヴェルヌさんが教えてくれたからよ」


 やだ、このお嬢様、アクティブ……。後ヴェルヌもせめて一言伝えてくれよ!


「……わかりましたよ、目的地はどちらで?」

「そうね、取りあえず此処から離れましょう」


 取りあえずメインターミナルへと向かい、移動を開始する。また非常口からメインターミナルに入ることになるだろうか、とにかくメインターミナルから地下通路へと向かうしか脱出の手段がないのだ。

 密輸の警戒からか滑走路と格納庫を纏めて囲うように2重の柵があり、両方の柵の間は上空20mまで赤外線センサによって警戒され検知した物体を即座に10メガワット出力の遠赤外線レーザーが襲う危険地帯である。しかもこれはシステムが完全に独立しており、クラッキングはほぼ不可能なんだとか。数週間に一回程度哀れなスズメやカラスが焼き鳥になる場所でもあるそうだ。


「ヴェルヌさん、襲ってきた連中の特徴を教えてくれる?」

《そうですね、武装から辿ってみましたが全体的に殺傷力より制圧力に重きを置いた装備です。そして丁度都合の良いことにP.A.Lユニオンからいくつかのダミーを経由してブラックキャット商会にクインリッジ宛てでその手の武器の配送が。あと彼らのうち数名は先日の宙賊討伐を目的とした遠征の参加者です。雇い主はゴウキ・ヤマト、ご長兄ですね》

「……なるほどね。ちなみにその遠征で『猩々』を狩った報告は?」

《戦果なし、取り逃したとしています》

「……ふーん」


 つまり、あれか。宙賊狩りを名目に人員を引き摺りこんだと。というかもしかして俺を『猩々』の残党扱いする気だったりしない?


「とすると本部に行っても無駄かしらね、今頃クーデターが起こっていてもおかしくないわ。最低限の戦力をかき集めて総督府に向かうのが丸いかしら」

《本部に探りを入れますか?》

「それは後でいいわ、それより敵の動きを探って頂戴。いま敵がいるのはどのあたりなの?」

《続々とターミナルに増援が集結しています、メインターミナル以外は制圧されてますから10番ターミナル下の出入り口周辺から抜けるのは無理でしょうね》

「……どの辺りなら抜けられるかしら?」

《そこのネモは陸戦でもそこそこやります、非常用通路の中でならまあ何とか突破できるかと。メインターミナル非常口から一番近い4番が狙い目ですかね》


 確かに一応いろいろと肉体にも改造が入っているし、陸戦の訓練も行っていた。視界の利かない通路であればヴェルヌによる索敵込みで結構な人数相手でも突破は可能かもしれない。


「それは本当かしら?」

「そうですね、ヴェルヌの索敵があればまあ。先手は恐らく取れるでしょうし、全方向から囲まれるとかでなければ何とかなります」

「……そうね、出来るなら、お願いするわ」

《では、メインターミナルで警備隊と合流しましょう》

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