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陽の差すダンジョン・アルカン2

 『陽の差すダンジョン・アルカン』は巨大な石材が連なり、複雑に入り組んできた迷宮だ。

屋根など天井を塞ぐものは存在せず、その中に入って見上げれば空が望むことだろう。


 文字通り、陽の差(・・・)すダンジョンというわけだ。


 じゃあ、ご丁寧に通路を通らなくても石材の上を行けば、最深部までショートカット出来るのではないか? 


 と、一瞬(よこしま)な考えが浮かんだが、それはすぐさま消え去った。


 なにせ、目の前の壁は優に百メートルを超える高さだ。

そんなのをよじ登って、ダンジョンの最深部に当たる中心地へと向かうことは、到底出来そうに思えない。


 見上げてみるに、その頂上部は薄っすらと(かすみ)がかっている。

例え世界的なロッククライマーであっても、これを登るのは無理ではないだろうか。


 もし、飛行魔法なんて物があれば、可能かもしれないが。

今は無い物ねだりをしていても仕方がない。


 ここは正攻法で踏破していくしかないのだろう。


 それに俺は高所恐怖症だ。できれば足を地につけて進んで行きたい。

あんな高い所ではきっと、ヘッピリ腰のうえ、生まれたての子鹿のようにプルプルと震えてしまうこと間違いなし。



「ほぇ……ご主人様、大きいですね」



 ダンジョンを覆う壁を見上げて、クリスティーナが言葉を漏らす。



「ああ、真近で見ると迫力が違うな」



 確かに、クリスティーナが言った通り大きい。


 いや、大きすぎる。とてもじゃないが、人の手で造られた物とは思えないほどだ。


 現代日本の技術力を持ってすれば、やって出来ないこともないと思うが。

それでも、国の総力を挙げた一大プロジェクトとなるだろう。


 それを日本よりも遅れた文明レベルのこの世界で、作り上げるのは絶対に無理だ。

いや、魔法なんてファンタジー満載なものがあるのだから、不可能とは言いきれないのか。


 しかし、これは人の手ではなく、もっとこう……より大きな存在の影を感じてしまうのは。

この迫力に飲まれてしまっているからだろうか。



「このダンジョンは、太古の昔に巨人族(タイタン)が造りだしたと言われているわ」



 と、ここでダンジョンを見上げている俺達にローズさんからのお声がけ。


 まるで、心を読まれたかのようなナイスタイミング。


 なにその中二心をくすぐるワードは。

ファンタジー世界では、ドラゴン、エルフに並ぶパワーワードだろう。


 そんなのを聞いてしまったら、遠い昔に封印された漆黒のナニヤラが復活してしまっちゃうよ。



巨人族(タイタン)ですか、それは一度見てみたいですね」



 滾る心を抑えながら、冷静に返す。



「それはムリよ。だって、巨人族(タイタン)はとうの昔に絶滅したと聞いているわ」



 えっ……まじで。


 全滅か……そっか、全滅しちゃったのか。


 幼少頃からの夢だった、巨人族(タイタン)の肩に乗ってキャッキャウフフは(つゆ)と消えてしまった。


 が、しかし、ここはファンタジー溢れる世界である。


 巨人族(タイタン)以外にも、まだ見ぬパワーワードがきっとあるはずだ。

もしかしたら、他に思い描いた夢は叶うかもしれない。


 よし、やる気がでてきたぞ。

山田さん頑張って、ダンジョン攻略しちゃうわ。



「さぁ、ダンジョンに潜ろう!」



 クリスティーナ、ローズ、クレアさんに呼びかける。



「はいっ」

「もちろんよっ」

「準備はできています」



 三者三様の返事だってけど、元気よく返してくれた。

それと同時に、俺たちはダンジョンの入り口へ向かう。


 迷宮都市と同じように、二人の衛兵が立っているあの場所がそうだろう。

確かあれは、ダンジョン内への立ち入りを防ぐものではなく、内部から魔物を出ないようにするものだったな。


 しかし、まぁ。二人程度の衛兵で大丈夫なものなのだろうか。


 などと、考えつつ。


 ダンジョンの入り口へその歩を進めていると、


 周りにいる冒険者の中でも、一際目立ったパーティーが近づいてきた。


 人数は五人、その全員が白銀の軽甲冑を見に纏っている。

パーティー名をつけるなら、きっと、『シルバーソード』とかナントカ。


 見るからにキラキラと輝いていて、とてもお高そう。

その装備一つで、誰かの人生が簡単に買えてしまうそんな予感。


 先頭を歩くのは、長髪に金髪の王子様系イケメン。

背景に咲くお花が見えてしまうのは、西洋系イケメンの成せる業。


 対して俺の背景には……やめておこう。

わざわざ、自らダメージを負いにいく必要はない。


 しかし、生まれ持ったデバフの解除ってどうやるんだろうな。


 当の王子様系イケメンは、俺達の前まで来て止まると。


 じっと目線を向ける。


 最初は絡まれるかと思っていたが、どうやらそうではないようだ。


 俺のことなどアウト・オブ・眼中。その目線の先にはクリスティーナが捉えられていた。


 この王子様系イケメンとクリスティーナは知り合いなのか?


 目線を向けられた方のクリスティーナといえば、きょとんとした様子。


 そして、王子様系イケメンが口を開く――




「こんな場所でまさかと思っていましたが、やはり貴方は聖女クリスティーナ様ですね」









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