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屋台と幼女

「……あ」



「……あ」



 なんで、迷宮都市の屋台で飯なんか食っているんだよ。アリナリーゼさん。


 まさか、こんな所で再会するとは、夢にも思ってもいなかった。


 目が合った向こうも、そう思っていたらしく、俺とアリナリーゼの時間が止まった。


 ややあって、



「なんでやっ!」



 つい、エセ関西弁が出てしまったのは、仕方のないことだろう。


 アリナリーゼは、俺の声にビクッと体を震わす。


 それに応じて、右手に持っていたスプーンが、熱々のスープの中へポチャンと音を立てて落ちた。



「おっ、お、あちちっ……いきなり大声だすなっ、びっくりするでわないか……」



 いやいや、それ以上に、俺の方がビックリしているからね?

あんなに大物風吹かせて帰ったクセに、屋台で飯食っているって、その辺どうなのよ。


 と、思わなくもない。


 しかし、考えてみれば。これはチャンスかもしれないな。


 ケロノア、ポロロ村の村長と、立て続けに証言者を失った俺達の前に、ひょっこり現われた証言者候補。


 彼女の協力が得られれば、一気に解決へ向かうのではないだろうか。

ローズ達からは感謝をもらい、俺とクリスティーナは次のダンジョンへ向かえる。


 うん、これはわるくないな。



「……いえ、大声だしてすみません。まさか、こんな所で再会するとは思ってもいなかったもので」



「それは妾のセリフじゃ。……な、なんじゃ……その目は。

お主、再戦する気か? やるか? おっおっ?」



 両手にグーをつくって、威嚇し始めるアリナリーゼ。


 おっと、イカン、イカン。思惑が顔に出てしまったか。



「いえ、戦う気はありませんよ。それよりも一つ、お願いがあるのですが……」



 かくかくシカジカ、まるまるウマウマ。


 先程、考えていたことを丁寧に説明すること暫し。


 イメージするは、セールスマンの営業トーク。

フリーターの俺に上手く出来たかはわからないが、内容はちゃんと伝わったようだ。



「ほう……、お主は妾の助力が欲しいというワケかのう?」



 アリナリーゼは、クリクリとした可愛らしい目を細めて、俺へと向ける。


 これはアレだ、わるい顔だ。


 今、アリナリーゼは悪代官のような顔つきで、ん? わかってるよな? と言わんばかり。


 そのお手てはスープを指して、チョイチョイと。


 指す物を見てみれば、具は既に無くなり、残っているのはスープだけ。


 オーケー、わかった。

ここは一つ、大人の財力ってやつを見せてあげようじゃないか。


 魔石を売ったお金で、色々と買い物をしたが。

まだまだ、懐は温かい。円にして、50万相当は残っている。


 石油王と言っても、過言ではない財力ではないだろうか。


 『アイテムパック』から、硬貨の入った袋をとりだす。

その中から、銀貨一枚を屋台のカウンターに置いて、



「大将、お代わりを。お釣りは取って置いてください」



 と、言うと。


 プルプルと、体を震わしたアリナリーゼの目が、クワッと見開かれる。



「釣りはいらぬだと……!? お、お主は、富豪なのか……」



 ふふん、どうだ。これが大人の財力というやつだ。


 まいったか。



「へいっ、お待ち」



 お代わりが置かれてると、アリナリーゼはスプーンを手に、はふっはふっと、勢いよく食べ始めた。


 あっという間に、お代わりを食べ終わったアリナリーゼは、小さな体の割りにぷっくりと膨れたお腹を、満足そうな顔でさすっている。



「どうですか、協力する気になりましたか?」



「うぬ、協力するのも吝かではないなっ」



 もう一押し、といったところか。


 意外とチョロイな、この幼女。



「他に何かあれば、言ってもらえると用意いたしますが」



 証言者を買収しているようで、少し気がひけるが。


 ここは異世界だ、細かいことは気にすまい。



「そうじゃな、お主は強いようだし、一つ頼みたいことがあるのじゃが」



「なんでしょう?」



 もしかして、体でも要求されてしまうのだろうか。

初めてだし、優しくしてもらえるとうれしいのだけれど……。



ある(・・)ダンジョンから、ある物(・・・)をとってきて欲しいのじゃが」



 おう。全然、違ったわ。



「それを持ってくれば、証言してもらえると?」



「ああ、もちろんじゃ。妾に二言はないっ」



 どうやら、お使いイベントが発生したようだ。

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