ローズのお願い6
「ば、化け物かよ……」
俺達を囲む傭兵団リーダー、ケロノアが驚愕の表情で言葉を漏らす。
自身もまさか、空振りをした衝撃で、こんな溝が出来るとは思ってもいなかった。
しかし、これは好機かもしれない。
驚き固まったケロノアの腹部に向けて、戦斧の柄を打ち込む。
隙だらけだったせいか、すんなりと命中する。
ドゴッと、鈍い音を立ててケロノアは、錐揉みしながら吹き飛んでいった。
10数メートルは、飛んでいったんじゃないだろうか。
それを見た、他の団員が後ずさる。
リーダーがいとも簡単に倒されるのを目の当たりにして。自分達では勝てないと、判断でもしたのだろうか。誰も彼もが、ひどく引き攣った顔だ。
もう一押しと、いったところ。
適当な方向へ向けて、もう一度、戦斧を振るう。
刃が風を斬り、その衝撃波が地面を大きく抉りとる。
そして、先程と同じように、溝が地面に生まれた。
「実力の差は、明らかだっ! 退けば、手出しはしない。それでも、やると言うのであれば、容赦はしないぞ!」
と、大声でハッタリを一つ。
どうだ……、これで退いてくれないかな。
チラリ、様子を伺えば団員同士、顔を見合わせている。
すると、ここで声があがった。
「ひ、退くぞ! た、退却だっ」
鶴の一声、誰かがそう叫ぶと、一斉に傭兵団は走りだす。
かくして、傭兵団は脱兎のごとく、視界から消えていった。
その様子を見て、ローズ達が俺の元へ近寄ってきた。
「さ、さすがは、私が見込んだ男ねっ!」
と、ローズさん。
一体いつ、見込まれてしまったのだろうか。
「ご主人様、ご無事ですか?」
「ああ、この通り何ともないよ、クリスティーナ」
「あれだけの人数をほぼ無傷で、撃退してしまうとは……さすがです、ヤマダ様」
クレアさんからも、お褒めの言葉を頂戴してしまった。
心なしか、見つめる目がキラキラとしている。
もしかして、好感度上昇のお知らせだろうか。
「ローズさん、これが言っていたあの?」
「ええ、間違いないわっ。お姉様からの刺客よ」
やはり、姉からの刺客との事。
しかし、アレだ。毎度、撃退するにも限度がある。
根本的に、解決するべきなのではないのかと思う。
異母とはいえ、血を分けた姉妹だ。その辺、話し合って円満解決できないのかな。
「話し合いで、解決しないものなのですか?」
「そんなのはムリよっ、だって証拠がないのだもの。問い詰めたところで、シラをきられるに決まっているわ」
その様子をみるに、どうやら一筋縄ではいかない人物のようである。
しかし、証拠ねぇ……証拠っと……、あったわ。
「証拠なら……、あそこに転がっていますよ」
俺が指した先に、傭兵団リーダーが泡を吹いて転がっている。
どうやら、逃げる際に置いていかれたらしい。
可哀想なケロノアさん、団員の人望はそこまで厚くなかったようだ。
失神していたケロノアに、クリスティーナが回復魔法をかける。
もちろん、登山用ロープで簀巻きにすることを忘れない。
「へぇ、クリスティーナ。回復魔法使えたのね、すごいじゃない」
その様子を見て、ローズがそんな事を言っていた。
もしかしたら、回復魔法を使える術者は少ないのだろうか。
ややあって、ケロノアの意識が戻る。
「うっ……」
さて、これから尋問をして証言を得なければいけない。
相手は仮にも、傭兵団のリーダーだ。
果たして、そう簡単に口を割ってくれるのだろうか。
「雇い主を答えなさい。素直に答えるなら、生かしておいてあげるわっ」
目覚めて早々、ローズが問い詰める。
おう、答えなきゃ殺しちゃうのかよ。
ちょっと物騒ですよ、ローズさん。
「……答えたところで、どの道殺される」
口封じってやつだな、きっと。
海外ドラマとか映画で、よく見るじゃんね。
「殺しはしないわっ、だって大事な証言者だもの」
確かに、ケロノアは大事な証言者だ。
ここで、証言を得るのと、得ないのでは結果は大きく違ってくる。
なにせ、村まるごと一つ使って、罠にはめようとしてくる相手だ。
証拠の一つでもなければ、相手にされないだろう。
と、ここで。
ある物が、目に映る。
ケロノアのすぐ横に、キラッと光るコインのようだ。
ポケットからでも、落としてしまったのだろうか。
拾い上げてみると、金貨みたい。
だけど、俺が持っている大金貨よりも、一回り小さいな。
しかし、そこに彫られた意匠は凝っていて、中々の一品だ。量産品の雰囲気ではない。
俺が持つコインに気がついたのか、ローズが声をあげる。
「そ、それは……、ちょっと、見せてもらえるかしらっ?」
コインを渡し、それを持ったローズが、
「っ……!」
驚きの表情から、確信めいた表情へと変る。
「こ、これよ! これが証拠になるわっ」




