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送還2

『残り時間がなくなりました。これより、送還を開始します――』



『3……2……1……』



 ピッ。




 ログが流れ、アナウンスされた通りに元の世界、あの公園の隅に戻っていた。


 目の前にあるダンジョンの入り口は、未だ消えておらず、送還された理由に到ってはさっぱりわからない。


 視覚にマスクされたステータス表示も、当初のままのように思える。


 ……いや、変ったことが、一つだけあった。



 【境界の回廊】 

 

 難易度: ☆☆

 

 推奨レベル: レベル15~


 クリア報酬: 550ポイント


 残り時間: 112:55:11



  残り受付(・・)時間が、残り時間に変っていること。



「ご、ご主人様。これは、一体……?」



 振り返れば、クリスティーナの姿見えた。


 どうやら、一緒に戻されたようだ。


 正直、わけがわからない。

だからといって、考えるのをやめて放置するのは、いささか抵抗がある。



「……俺にも、どうして戻ってきたのか見当がつかない」


 本音、まるっと、そのままお伝えする。



 俺が持つ、常識で考えてはダメな気がする。


 ここはもっと、ゲーム的な思考で考えてみればどうだ。

ステータスにマップ、レベルなんてものは、まるでゲームそのものじゃないか。

だとすれば、そう考えるほうが正解な気がする。


 そして、自分が行なったことを順に思い出してみる。


 すると、一つの考えが浮かびあがった。



「クリスティーナ、ちょっと確認したいことがある」



 リュックに入ったクリスティーナを背負い、向かった先は【始まりの洞窟RE】があった場所。


 俺が考えていた通り、その洞窟(ダンジョン)は完全に消えていた。


 入り口があった場所は、なんの変哲もないビルの壁。


 さわってみても、見たまんまコンクリートの冷たい感触が伝わってくる。


 なるほど……これは、わかってしまったかもしれない。


 洞窟(ダンジョン)に表示されている残り時間とは、そのまま洞窟(ダンジョン)がこちらの世界に存在しつづけていられる時間を表している。


 その時間がゼロになると、洞窟(ダンジョン)その物がこの世界から消えてしまい、クリアフラグを立てていた俺達もまた、異世界から強制的に元の世界へと戻されてしまった。


 つまり、洞窟(ダンジョン)をクリアすることで、残り時間を異世界の滞在(・・)時間として使えるのではないのだろうか。

 そうだとすれば、二つ目の残り時間が余っていたことにも納得がいく。


 そして、残り受付時間は文字通りに受けとれば、洞窟(ダンジョン)攻略開始までの猶予だと思う。

クリスティーナが一緒に戻されたことも、システム的にパーティーを組んだ状態になっているのかもしれない。


 何がトリガーで、パーティーメンバーになるかはわからないが。

まぁ、その辺はふわっとしてても良い気がする。


 直接的な害は、なさそうだしな。


 真相はわからないけど、物証が足りない今の状況で考え続けたところで。

俺の頭では、これ以上の仮説が思いつくとも思えない。


 とりあえずは、アレだ。帰るか。


 レベルアップでその都度、体力は全快になってはいるが。


 丸一日以上、動きっぱなしある。


 精神的に、休息がほしいところだ。


 帰る途中、俺が考えついた仮説をクリスティーナに説明する。


 もちろん、洞窟(ダンジョン)のステータスについてもだ。

共に行動する以上、共有しておきたい情報である。



「さすがはご主人様。洞窟(ダンジョン)の情報まで読み取れるのですねっ」



 と、感心をしていたのだから。


 きっと、俺の説明を理解してくれたことだろう。


 などと、説明も終えた頃。


 我が家が見えてきた、築35年の日本家屋。


 もちろんこれは、俺の持ち物ではない。

厳密に言えば、祖母の所有物である。


 いい歳なっても、未だフリーターをしている俺に、管理を任せられているのだ。

簡単にいえば、いい加減に実家から自立して世間の風を知れとのこと。


 これは年末の親族会議で決まったのだが、俺に拒否権なんてなかった。

まぁ、家賃なしで住めるのだから、文句はないのだけど。


 ただ、その中でも一番心配してくれていた叔父さ……もとい、よしえさんが親戚会議の場まで、女装で来たことが一番の心配だった。


 フリーターの甥っ子に心配されるって、どうなのよ。



 鍵を開けて、いつも使っている部屋へ。


 リュックを降ろすと、中からクリスティーナ出てきた。



「ここが、ご主人様の家……」



「何もないけど、くつろいでくれ」



 ここで一つ、思い出す。



「そうだ、これ渡すのを忘れていた」



 そうそう、これだ。


 アイテムパックから、ある物を取り出してクリスティーナの首に巻く。



「これは……ご主人様?」



 俺がクリスティーナの首に巻いたのは、屋台で買ったピンク色のリボンだ。


 決して、高価なものではないけれど、

その可愛らしさに、ついつい買ってしまったものだ。


 それにもし、他のスケルトンに出くわしたときも、これがあれば一目で見分けがつくと思うんだ。



「クリスティーナには世話になったからな、プレゼントだよ」



「あ、ありがとうございます……ずっと、大切にします」



 巻かれたリボンを、まるで宝物のように触れるクリスティーナ。


 すると、突然クリスティーナが輝きだす――


 眩いほどの光を放ったかと思うと、


 スケルトンだったはずの、クリスティーナが元の姿、


 聖女(・・)様の姿に戻っていた。

1/30 洞窟(ダンジョン)の説明に加筆、修正を入れました。

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