第8話 宣戦布告
どうも!いやーやっと動き出しましたねーw
戦闘シーンまだかよ!って思うかもしれないですがもう少しお待ちください。
アルカタワーの65階に位置するそこはビル、いや塔とは思えないほどの開放感があり、居心地の良さそうに見えたが、人数のせいか少し物々しい雰囲気だった。
「おっとすまない。まだ付けていなかったかな。彼にあれを渡してくれ」
男がそう言うと、部屋の両脇になっていた女性が何やら機会を渡してきた。
トラスターだ。
「これを耳におつけ下さい」
ジルは手探りで自分の耳に取り付け、リリアは女性に付けてもらった。
「よし。これで私の言葉がわかるかな?」
「はい!ご配慮感謝します!」
ジルがそう返すと男は微笑んだ。
そしてジルが言った。
「私がジル・フロライトです。この度は急な訪問にもかかわらず、快くここまで通して頂いたのを大変嬉しく思います。こちらはリリア・フロライト。私の妹で、まだ幼くはありますが、王族の者です。私たちは手違いでここに飛ばされて来ました。魔法世界に帰りたいのですが何ぶん方法がわかりません。ご教授のほどをお願いします」
「飛ばされて来た、か。」
「本当に手違いなのか?」
「まさか魔法世界が...」
ハルシオン委員会の面々は怪訝そうな顔をして話を始めた。
「パンッ。 静かに。」
「議長...」
議長と呼ばれる男が手を叩いたことにより皆が静まる。
「本当に手違いで来たのだね?」
「はい。王宮で不思議な部屋に入ったのですが、そこで妹のリリアが黒く濁ったクリスタルに触れ急に呪文のように言葉を放つとクリスタルに吸い込まれるようにこちらのせかいに来てしまいました」
「.....そうか。それならばこちらとしても君たちを返さなくてはいけないね」
その言葉を聞いたジルとリリアはお互いに軽く目を合わせ、頷いた。
「このような急な訪問を快く了承してくださるだけでなく、助力を頂けるとは、寛大なお心に感謝いたします」
「いえ、当然のことだよ。今すぐにでも帰りたいよね。案内するよ」
「はい!感謝します!」
「議長。私が2人をお連れしてもよろしいでしょうか。」
「そういえば、あれはあなたの分野でしたね。わかりました。朱春麗、あなたに任せます」
「では御二方、こちらへ」
春麗は2人の護衛とジル達を連れ、再びエレベーターに乗った。
彼女がエレベーター内のタッチパネルに手をかざすと、通常のボタンとは別に70という数字が表示され、ボタンを押すとエレベーターは67階に向かった。
「本来ここで働いている人間のほぼ全てはアルカタワーは65階までで、それより上はただの電波塔だと思っていますが、それは違います。65階より上は世界各国の屈指の研究者達の研究施設となっており、もちろんハルシオン委員会自体が研究者の集まりなので私達も基本はここで研究を続けています。電波塔だけなら今の技術だと1階層分で済みますしね」
「そうですか。それでは先ほどコンラッド議長が言っていたあなたの分野というのは?」
エレベーターは67階で止まり、全員がエレベーターから降りた。
そこに広がっていたのは白に統一された研究者達や機械の数々だった。
「私の分野というか、今は私が研究しているのが物体を別の場所に転移させる技術です。言葉の通りこれは遠く離れた場所に一瞬で行くための装置です。研究中と言いましたが、転移する範囲にどうしても誤差が生じてしまうこと以外に問題はありませんし、仮に誤差が生じても地形設定が間違っていなければ安全に転移する事ができます。これを使ってあなた方を元の世界に帰します」
「ご厚意、感謝致します」
「いえ、当然のことです。それではこちらへ」
春麗が2人をポッドような装置へと促す。
するとリリアがジルの上着の裾を掴んで言った。
「お兄ちゃんこれ怖い、嫌な感じがするよ」
リリアが不安そうな声でそう言った。
「大丈夫さ。ほら、行こう?」
リリアは渋々であったがジルに手を引かれ、装置に近づく。
「転移装置を動かします。座標はこちらで入力するので、ケンとディーンは空間軸固定、及び搭乗者の健康チェック、及びアンビリカルケーブルの接続をお願いします」
「わかりました!」
「了解しました」
2人の若手研究者達がそれぞれ仕事を始めた。
「ディーン・マルチネスです。転移前に健康チェックをするので、こちらのパネルに手を置いてください」
ディーンはそう言いいくつか検査をした後、春麗の元に駆け寄り、報告をした。
「それでは転移の準備が出来ましたのでこちらへ。おっと、ジル様何か懐から光が漏れていますが?」
「え?なんでひかっ......」
ジルが言いかけた時、彼がソフィアからもらった艶麗なペンダントが赤く光った。
刹那、アルカタワー上層は轟音と共に炎に包まれた。
──
「こちら新都速報HJCです!現在アルカタワー上層から火の手がありました!『アルカタワーは現在の技術の全てを使った最高の建造物だ。決してテロ行為などあり得ない』と、そう言われていましたが、どういうことでしょう!」
女性リポーターがマイクを持ち、カメラに向かって現状を伝えていた。
アルカタワーの上層からは、煙が立ち上り、まだ炎に包まれていた。
「あっ!あれは最近になって導入された消防機です!救助しています!消防機が一台降りて来ました!近くのビルに着陸した模様です!」
オスプレイのような見た目をした機体が2機3機とアルカタワーに集結していった。
「みなさんご覧ください!あちらはハルシオン委員会第6議席の朱 春麗 です!先ほどのビルから降りて来たようです。次々と消防機がビルに着陸していきます!」
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2時間後─
「こちらNCT通信です!現在、あのアルカタワーテロ事件を生き延びた4人のメンバーが緊急会見を開くということで、ここに多くの記者団が集まっています!」
円卓を半分に切ったようなテーブルと4つの椅子が並べられた部屋に多くの記者が集まっていた。
テーブルの後ろには都市区のマークが描かれた紋章があり、それを囲うように現存する各国の国旗が壁にかけられていた。
「見てください!今ハルシオン委員会の方々が壇上に現れました!」
「カシャ、カシャカシャカシャカシャ。」
記者団がマイクやカメラを持ち、次々と壇上に押し寄った。
それと同時にハルシオン委員会の面々は席に着いた。
「みなさま静粛にお願いします。」
そこで、スーツを着た司会役の男が言った。
「皆様、本日はハルシオン委員会の正式な会見です。それでは議長代理お願いします。」
議長代理と呼ばれれた、金髪で長身の男が立ち上がり言った。
「私はハルシオン委員会議長代理ルベルト・シュタインです。本日はこの新都内全ての人々に聞いていただきたい話があります。全報道メディアの方々をお招きしたのはそのためです。」
ルベルトが落ち着いた面持ちでそう口にすると記者たちに動揺が走る。
「これからする話はにわかには信じがたい話です。しかし、今後の人類の存続が関わる話です。静粛にお願いします。」
記者たちが息を飲む。
他の委員会メンバーは顔色を変えずにルベルトの声明を聞いた。
「まず、議長代理と聞いてお気づきでしょうが、先ほど、第25代ハルシオン委員会議長コンラッド・クラーク氏の死亡が確認されました。
ご冥福をお祈りします。
これは今までこの都市区運営を担ってきた長を失ったということです。
しかし!我々は前を向いて進まなければいけません!
そして、もう一つ、皆様に伝えなければならないことがあります。
2時間ほど前、我々の元に魔法世界から使徒が来ました」
「おい、聞いたか」
「魔法って、そんな。まさか....」
記者たちは慌ただしく話し始めるが、ルベルトは気にも止めないといった様子で続けた。
「彼らはアルカタワー上層にある我々ハルシオン委員会の会議室に訪れました。その後、彼が何かを言い放つと、轟音とともに爆発しました。あとは皆さまも知る通り、私達4人が生き残り、現在ハルシオン委員会の復興に勤めています」
「........」
先ほどとは違い、皆信じられないという顔で話を聞いていた。
「我々、は議長であり、尊ぶべき存在であるコンラッド・クラーク氏を失いました。しかし、だからと言って、ここで負けるわけにはいけません!魔法世界側の暴挙、これを宣戦布告と捉え、彼らを討ち果たします!そして再び都市区に平和をもたらすことを誓います!」
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──新都・山間部
ここ新都には豊かな自然を復興するため、土を洗浄し、種子を育て、現在では森、あるいは山になっている地帯がある。
ここでは奥に行くほど鹿や熊、鳥たちがいる。しかし、人里には降りてこないように徹底管理されているため、立ち入り禁止の奥部からは出てくることはない。
奥部をさらに行くと、2区へと続く門が姿を現す。
そんな森の中を2人の男女が走り抜けていた。2人ともやけに豪華で絢爛な服を着ていた。
ここは山間部森林奥部。
彼らの後ろには熊の影があった。
「ハァッ!」
男が鞘に刀を納めた時、すでに熊の上半身は
地面に転がっていた。
「お、お兄ちゃん!大丈夫!?血が....」
「大丈夫。これは返り血だよ。少しペースを落とそうか」
「うん」
2人は疲労していた。
あの爆発から逃れ、情報も少なく、そしてなぜ爆発が起きたのかも知らずにいた。
(どういうことなんだっ!なぜだ!俺たちはただ帰りたいだけなのに!だが、リリアのおかげで命だけは救われたな)
「リリア」
「なーにお兄ちゃん?」
「ありがとな」
「え?ああ!うん!」
ジルはリリアの頭を撫でてやり、微笑んだ。
リリアもそれが嬉しくてジルに笑顔を向けた。
(絶対にリリアを家に帰すんだ。どんな壁が立ち塞がろうと全て切るまでだ!)
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「何が起こったんですか!あそこには僕の友達が!」
「機密事項だ。君たちは寄り道せずに家に帰りなさい」
アルカタワー南口で新太と詩音、そして警備員が言い争いをしていた。
「嫌です!私たちには知る義務があると思います!」
「お前たち!警察に突き出すぞ!」
「........」
詩音が珍しく芯のある声で言ったが、警察に突き出すと言われてしまえば終わりである。
2人は仕方なく踵を返した。
しかし、彼らの行き先は家ではなかった。
「あの2人なら大丈夫、だよね?」
詩音が不安そうに新太に聞く。
「うん。今は信じよう」
新太も詩音も2人が生きてるとは思えなかったが、諦めることもできずに迷っていた。
「じゃあ一度あんみつのお店に行って落ち着いてから情報を集めない?あそこならテレビもあったし、ちょうど良いと思うの」
「そうだね。行こうか。」
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あんみつのお店、諏訪の餡蜜堂で情報を集めていた2人は驚愕した。
「なに、これ.....。」
「宣戦布告?なんで...。」
2人が目にしたのは魔法世界の生き残りがハルシオン委員会を3人殺害し、宣戦布告、そしてハルシオン委員会が魔法世界と全面戦争をすることを決めたというニュースだった。
『それはいずれは徴兵令もあり得る。ということですか?』
『そうは言ってないでしょう!向こうが宣戦布告をしてきた今、私達がただ見ているだけでは平和が崩れるということです!』
『じゃあなぜ全面戦争を支持し、あの悪魔の兵器エニシアを再開発するんだ!あれを使えば平和など訪れない!話し合いもあり得るのではないか?』
そして、その討論番組はどんどん熱を上げていった。
そんな番組を見ていた2人は不安で押しつぶされそうだった。
「徴兵令なんて怖いよ。エニシアも嫌!」
「詩音....。」
不安によりパニックになってしまった詩音を新太が慰める。
「僕たちはこれからどうすれば良いんだよ....。」