第3話 王族達だけの権利
ーーーイルシア王国城下町
「よし!これで最後にしてやる!氷結の怒り!」
男がそう叫んだ瞬間辺り一面に氷の結晶が生成され魔物を次々と串刺しにして行く。
この世界では世界樹が魔力を発生させる事により、魔法使い達は無限とまではいかないが自由に魔法を使うことができる。
しかし、その代償として空気中に漂っている魔力により魔物が生成されてしまうのだ。
「よしエッダ。これで片付いたぞ。すまんが回復を頼む。」
「あなた、ちょっと待っててね。はぁ!」
この世界には2種類の魔法がある。
1つは通常魔法といい、魔法師と呼ばれる専門家が魔法を誰でも使えるように変換したものだ。これは魔法名を叫ばなければ発動せず、オリジナルの魔法よりも少し劣ってしまうが、汎用性は高い。
もう1つは固有魔法と呼ばれるもので、世界樹の元に生まれた人間なら等しく必ず持っている力で魔法名叫ばずとも念じるだけで簡単にしようでき魔力の消費も通常魔法より少なくて済む。
今エッダが使ったのが固有魔法に当たる。
世界樹が、光合成をするかのように大量の魔力を作り出すおかげで安定して魔法を使えるためこの国は繁栄している。
そして、世界樹の周りには王族が住む宮殿が建っているのだ。
「さぁエッダ。ギルドに戻って報告しようか。」
「そうねあなた。傷は大丈夫?」
夫婦なのか2人は仲良く話しながら街に向かって歩き出す。
「あぁ!もうなんともない!お前の回復魔法は最高だ!ガッハッハッハッハッハ!」
「あなたったらもー。」
このようにおしどり夫婦なのである。
2人は町のギルドカウンターに到着すると早速報告を始めた。
「いらっしゃいアズロット夫妻。今日はどんな魔物を倒したのかしら?」
「やあシャルル、今日はアリエイロの森に行ってきたよ。」
中年の女性がそういうと男はある魔道具を中年女性の前に差し出す。
「ありがとうアルバ。はい、じゃあ解析するわね。そこに座ってて。」
「あぁ。」
「えぇ。」
エッダの夫はアルバといい、大きな斧と強力な氷魔法を得意とする魔法戦士だ。
そこに強力な回復魔法を扱えるエッダが加わり、今までに危険な状況に陥ったことは数回程度しかない。
シャルルが魔道具の解析をする間、2人はギルド内にある豪勢なソファにもたれかかる。
そこに別のカウンターから新米のギルドメンバーの声が聞こえる。
「すいません!この魔道具の使い方を忘れてしまって!」
この魔道具とはアズロット夫妻が持っていたものと同じで、ギルドメンバー全員に配られている。
「あぁじゃあ一から教えるわね。魔物との戦いの前にここに魔力を送りながらこのボタンを押すの。この状態で魔物を倒すことで大気中に飛散した魔物の魔力の一部が吸収されて、倒した数と種類、個体値などが記録されるようになっているの。」
その説明を聞き、アズロット夫婦は懐かしそうにニコニコしながら話す。
「あの魔道具には本当に困らされたなぁ。俺の魔道具嫌いはあれから始まったよなぁ。」
「あら?あなた魔道具なんて使い方分からないって全部私に任せてたじゃない。」
「ちげぇねぇ。ガッハッハッハ。まぁでも俺はこの歳までお前とこうして狩りができて嬉しいよ。エッダ」
恥ずかしそうに言うアルバの声を聞き、エッダも嬉しそうに顔を赤らめて言う。
「そういうのは家に帰ったからいってください。」
おしどり夫婦である。
今年でお互い46歳を迎えたにも関わらず現役で狩りをしている。
この世界での狩りをする者の多くは17〜30歳なため、2人は他の者からも一目置かれている。
「解析終わりましたよ。あの強力なルミアデスを6体も倒してくるなんて。流石うちのギルドの精鋭ね。でも、もう歳なんだし少しは落ち着いたら?」
「いいや、俺らにはこれが天職なんだ。俺らからしたら安定してるしな。」
アルバの言葉にエッダが付け加える。
「ずっと一緒にいれるっていうのもあるわね。」
「あんたたちは変わんないねぇ。」
そう言うシャルルもこの2人を昔から応援しており、良き理解者でもある。
「そういえば2人とも今度王様に呼ばれるんだって?」
「えぇ。そうなの。国に功労したということでこのギルドを代表してね。」
「素晴らしいわね。今後も応援しているわ。」
その後も談笑し、シャルルと食事をする約束をしてから2人は帰路につく。
一方その頃宮殿内では───
「さぁ行くぞウェイン!はぁあ!」
その瞬間ジルの指から青い炎が生まれ、持っている剣に触れて指を這わせる。
すると剣も青い炎に包まれ禍々しく燃える。
ウェインと呼ばれるのはジルに手合わせをお願いした見習い騎士の少年である。
するとウェインは慌てた表情で、
「えっちょ!普通に木刀でお願いします!」
「ん?あぁ木刀か。すまんすまん。」
危なかったと汗を拭うウェインであった。
そして勝負が始まる。
「うぉおお!」
ウェインが突進しジルに斬りかかる。
しかし、ジルは余裕を持った表情で何事も無かったかのように身をかわす。
その刹那、ウェインは体勢を変え、ありえない体制のままさらにジルに切り込む。
キンッ!
「腕を上げたなウェイン。」
そう言って又しても余裕を見せながら攻撃を弾くジルにウェインは焦りを見せ始める。
「じゃあ今度はこちらから行かせてもらうよ。」
その瞬間、空気が震え、ウェインが構えようとした刹那、ジルはすでにウェインの首元に木刀を当てていた。
「戦いの中で構えを解くなウェイン。1つの油断が戦場では死を招くぞ。」
「すいませんジル様!もっと訓練をしてジル様と一緒に戦えるように頑張ります。」
それを聞いたジルはウェインの頭を撫でニコっと笑う。
「じゃあ俺はこの後、国の会議に行かなきゃいけないからまた今度な。」
「はいジル様!」
そしてジルは王や側近たちが集まる会議に出席した後、リリアと夕焼けを見に宮殿内にある塔に歩いていた。
するとリリアが何かを見つけたようで、
「ちょっとこっち行ってみよお兄ちゃん!」
(全く。でもまぁリリアはあんまりこの塔に来たことなかったから仕方ないか。)
リリアは俺も行ったことのないような場所にどんどん進んで行く。
その中には街が一望できる場所などもあってか、ジルも段々と楽しくなっていき、リリアに続く。
「これなーに?」
リリアが入った少し広めの部屋にあったのは黒く濁ったクリスタルだった。
リリアは好奇心に勝てずそのクリスタルに触れてしまう。
「それに触ってはだめだ!」
ジルが叫ぶが、間に合わずリリアはクリスタルに触れてしまう。
しかし、何も起こらない。
「王族達だけの権利?」
そして、リリアは急に頭に浮かんだようにその言葉を口にする。その瞬間クリスタルの色が黒から青に変わって行く。
そして、クリスタルの前には誰もいなくなった。
「おっ予定通り飛んだか。あれ持たしといて正解だったなぁ。」
そう言ってソフィアはただ1人で笑う。
今回も説明が多くてすいません!
次回は本格的に物語が動き出します!
どうかそちらもご覧ください。