第2話 魔法界の歴史
ーーーーイルシア宮殿教育室
凛々しい身なりをした老婆が言い聞かせるように2人の少年少女に言う。
「はい、これで王族の言葉の勉強はお終い。継承の儀まで絶対にこの言葉を口にしてはいけないよ。いいわね?ジル、リリア。」
「はーい!」
「わかりましたおばあ様」
元気よく返事をしたのはリリア・フロライト、この世界を統べる王の第二後継者だ。
その見た目は金髪のロングヘアに緑色の瞳で大変美しい。年齢は小学6年生ほどで、まだまだ好奇心が旺盛なお年頃だ。
それに反してしっかりとした返事をしたジル・フロライトは王の第一後継者にしてリリアの兄でもある。容姿もリリアと似ていて美しい中にも男らしさがある。こうした目上がいる場ではしっかりとしているが、同年代やリリアの前では年相応に振舞っている。しっかり者で頭も良く、剣の腕もあり、そこに強力な魔法を注ぎ剣を《強化》する魔法剣士でもある。
「さぁリリア、このあとのソフィア先生の話を聞いたらご飯だからもう少し頑張ろう!」
ぐぅ〜。
「リリアはいいけど、お兄ちゃんこそお腹空いてるんじゃない?」
妹にそんな事を言われて恥ずかしがっている兄を見てリリアはクスクスッと笑っている。
この2人は仲が良く宮殿内では基本的にずっと一緒にいるのだ。
2人ともそれが当然だと思っていて疑わなかった。
2人は次の目的地に向かって歩き出す。
「こんにちはジル様、リリア様。ここまでご足労ありがとうございます。」
教育室から少し離れた研究室に着くとそこには礼儀正しく振る舞う白衣姿の女性がおり、2人に向かって当たり前のように跪く。
「よしてくださいソフィア先生。私達はむしろ教わりに来た側なんですから。」
ぐぅ〜。
「そうね。形式的な事はこの辺にして早速始めましょうか。ジルちゃんのお腹も我慢できないようだし。」
またやってしまったと顔を赤くするジルに女性陣2人は笑う。
王族の第一後継者をジルちゃんと呼んでいたこの女性はソフィア・ファーラント、魔法機械学の最先端を研究する本物の天才である。
魔法機械学とは人間が魔法をそのまま使うのではなく、魔道具と呼ばれる機械に魔力を送り込んで動かすという技術の総称だ。
「今日はこの国の歴史についてだったね。ジルちゃんはもう知ってるよね?だからその辺にある魔道具でも使って遊んでてもいいよ。」
「わかりました!お言葉に甘えて遊びます!」
ジルは魔道具を見たり触ることが好きで、ソフィアの言葉を聞いて魔道具に見入っていた。
そんな兄を横目にこれから始まる歴史の授業に期待をするリリアであった。
「んじゃ今日はさっきも言った通りこの国の歴史についてだ。この事は宮殿内の人間しか知らない事だから他言は無用だぞ?」
注意して言うがリリアは生まれてから一度も宮殿の外に出た事がなく今後も出る事は無さそうなので意味がない。
そして、ソフィアは続けて話していく。
ーー100年前
私たちの先祖であるセリア・フロライト様が仲間を守るために科学を進行する者たちに魔法を向けてしまったんだ。先祖様は余命が残りわずかで焦りもあったんだろう。
今でこそこの場所で自由に生きているが昔はひっそりと生きていたんだ。
しかし、先祖様が魔法を使ってしまったために科学世界に宣戦布告と取られ、戦争が始まってしまったんだ。
当時、私たちにはこの世界樹はなかったんだ。今でこそこの世界樹が放出する魔力を体に受けているから多くの魔法を使えているが、先祖様の時代は魔力の回復には時間を要したために魔法を使うのは命を削るのと同じだったんだ。
そんな中勝てないと思うかもしれないが先祖様たちの魔力は底知れず、身を守るために仕方なく多くの都市を破壊していった。
しかし、それでも魔力は無限ではない為に下手に攻撃できない時が続いた末に科学世界がある新兵器を作り出した。しかし、その兵器は私たちを標的にすることなく暴走科学世界の人口を大幅に減らした。その後改良された新兵器で次々と私たちの仲間は殺されていった。ここで先祖様は思った。このまま戦い続ければ世界は滅びてしまうのではないかと。
そこで先祖様は科学世界に停戦を要求したが、科学世界は人質を多数取り、私たちを元いた世界から追放した。そこで当時、魔力が桁違いだった人たちがいたの。これが九賢者様たちね。彼らは残る力を全て使い、この魔法世界を作り出した。
「そして今に至るって感じだね。」
「九賢者様たちすごいなぁ。でも私科学なんて迷信だと思ってたのになー。」
リリアは不思議そうに言った。
この世界ではこの話を聞かされるまで科学なんて迷信だと思うのも無理はない。
ソフィアは言う。
「それもそうだよ。この話を知っているのはあなたたち王族と私たちのような一部の人間だけだからね。」
「そうだったんだ。」
「さて、私の授業はこれで終わりだよ。はいかいさーん」
そう言ってソフィアは手を叩いて自分の仕事に戻ろうとする。
その時ジルがソフィアの方を向いて言う。
「あの!また見に来ていいですか?」
「もちろん。」
こうして2人は研究室を後にした。
道中、この宮殿に通っている見習い騎士の少年とあった。
「あっジル様!リリア様!今日はこの後お時間ありますか?」
「うん。昼ご飯食べたら空いてるよ。」
ジルがそう言うと見習い騎士の少年は目を輝かせて言う。
「わかりました!では頃合いを見計らってお迎えにあがりますね!」
「あぁ。待っているよ。」
そう言ってジルはその場を後にして歩き始めた。
その場に残った見習い騎士の少年はガッツポーズをし、自分もその場を離れた。
次回は魔法の原理や魔法界の生活に触れていこうと思います。
本格的に物語として始まるのは第4話からとなります。
どうぞご期待ください。