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一人、ゲームな魔術学園  作者: 結城 睦月
第一章 : 新年祭編
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第三十六話 朝の葛藤

「起きてお兄ちゃん。早くしないと始まっちゃうよ」


 いつものようにスペアキーを用いて、俺の部屋に勝手に侵入してきた我が妹のノア。

 それにしても随分とおかしなことを言う妹だ。一体何が始まるというのだろうか。

 そもそも昨日話し合った結果、今日は休養を取るということになっている筈だ。

 細目で妹を見ると、溜め息をこぼし再び暖かく俺を包み込む布団の中へと顔を埋める。

 やはり朝は嫌いである。それは前世から変わらない。そうは言っても前世ではまだ苦手のレベルで留まっていた。それが異世界で甘やかされてしまって、朝が嫌いというレベルになってしまった。

 まったく、毎朝毎朝起こしてくれる母さんまたは妹のせいで、俺がダメ人間に戻ってしまうではないか。生きる世界が変わって心も心機一転と意気込んだのに、無駄になってしまうではないか。


 俺は目覚ましの呼び覚ましを無視して眠り続ける。しかし、そうはさせじとノアは必死に俺の身体を揺する。強く揺する。頭が揺れる程。


「なんで起こすんだよ。今日は一日休みにするって昨日決めただろ?」

「そうは言ってもお兄ちゃん。時間を見て」


 ノアにそう言われて結晶端末(タブレット)の電源を付け、時刻を表示させる。

 現在九時前。

 朝と昼との境目に俺を起こして何の用事があるというのだろうか。


「まだ九時じゃん。もっと寝かせろよ」

「だーかーらー、お兄ちゃん。何時まで寝るつもりなのって?」

「最低でも三時までは寝てたい」


 冗談半分に答えると、ノアは布団を取り払って怒鳴る。

 いいぞ、俺を甘やかすのはダメだ。と他人事のように思いつつも、身体は意に反して寝ようとする。

 すべて俺の意思なのだが。


「寝過ぎ!良いから起きて、本当に早くしないと始まっちゃうから」


 今朝、朝一番に聞いた台詞をここでもう一度言ってきた。

 ノアは一体何が始まると言いたいのだろうか。

 今日は何も予定を入れていない筈だ。強いて言えば、三時まで眠る予定くらいだ。


「さっきから『始まる始まる』ってそう言ってるけど、一体何が始まるんだよ」

「何って剣術学科の新年祭だよ」


 その答えを聞いて思考が停止する。

 自分やノアたち以外の魔術学科の生徒の試合ですら、さほど興味を持っていないのに、学科が違うβ組の試合なんかどうして見ないといけないのか。

 武器を所持して闘う剣術学科なんて、戦い方の参考にもならない。

 そういった考えに至った瞬間、再び眠気がやって来た。


「……あっそう。俺は興味ないから、寝るわ」

「あれれ、お兄ちゃん知らないの?」


 瞼を閉じた瞬間、嘲笑うかのようにして言うノア。

 俺を寝かせまいと、さまざまな手を用意してきたのか。


「何が?」

「新年祭の最終日、魔術学科の優勝者と剣術学科の優勝者とのエキシビションマッチがあるんだよ?」

「知ってるよ」

「え?知ってるなら情報を集めるために試合を観戦しようと思わないの?」


 悲しいことに俺は実の妹にも“三度の飯より戦闘好き”と思われているのだろうか。確かに闘うことは好きではあるが、そこは否定しないが、断じて戦闘狂というレベルではない。

 いや、でもそう思われても仕方ないのかもしれない。屋上に現れたカラス型のガイストを新入生ながら一人で退治。昨日のシターナとの戦闘でも相手の全力の魔法攻撃を防御無しで食らい、ヘラヘラとしてた。

 本当にそれだけ聞くと、戦闘狂と思われても仕方ないな。


「考えがまだまだだよノア。今日から始まったんだったら、誰と最終日まで残るか分からない。だとしたら今見るより、最終日に近くなった観戦すればいいじゃないか」

「あ、そっか」


 勝った。

 いや、勝ってしまった。このままでは俺が寝てしまうぞ。どうする、我が妹よ。


「じゃあ仕方ないかなー」


 それでいいのか?

 ノアは身体の向きを一八〇度回転させて、ドアノブに手をかける。


「でも、三時まで寝てると身体が(だる)くて、戦闘でも本領発揮出来なくなるかもよ?そうなったら、エキシビションマッチに出るのはノアになっちゃうかもねー」


 なるほど。

 俺はベッドから起き上がり、ニヤリと笑う。


「それは仕方ないな。今日は俺の負けということで起きておくよ」

「早く着替えてね。ノアは外で待ってくれている()()のところにいるから」


 アリスたちをこんな茶番で待たせてしまったのか。

 あとで謝っておこう。

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