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一人、ゲームな魔術学園  作者: 結城 睦月
第一章 : 新年祭編
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第三十三話 耐え難い空腹感

「いよいよ今日の試合も残るところあと二つか~」

「次、お前じゃねぇの?」


 次の対戦者は事前に知ることができる。抽選番号何番と何番のやつだと、学園掲示板に書かれるからだ。そして俺は気になったから先程見た。そこに書いてあった番号は十三番と十四番だ。

 だが、俺の隣には未だに背伸びをしてリラックスしているフェデルがいる。そう、こいつが抽選番号十三番のやつだ。本人はそのことを完全に忘れているのか、それとも緊張を(はぐ)すために落ち着いてリラックスしているのか。

 残念ながら当の本人は「え?」という間抜けな顔をしている。恐らく、いや確実に前者だろうな。本当に大丈夫かこいつ。


「お兄ちゃんが知ってるのになんでフェデル本人が知らないの?」


 正論だ。妹の言う通り。せめて自分のことは自分で管理してくれと言いたいな。心の準備とかどういう作戦にしようとか色々考えても良いはずだが、フェデルは手を頭の後ろに組んだまま静止している。


「もうそろそろ待合室で待ってないと不戦勝で相手の勝ちになるかもしれんぞ」

「それはダメだ!うぉぉぉ!」


 最悪の事態を想像したのかフェデルは全力疾走で第一体育館の待合室まで走っていった。

 残された俺とノアとアリスはまだ試合開始時間まで時間があるので、ゆっくり歩いて行くことにした。


「お兄ちゃん、なんか小腹が空かない?食堂で何か買ってこうよ」

「買ったとしても体育館の中は飲食禁止だぞ。それにもうすぐ夜ご飯になるし」

「えー、でもお腹空くじゃん。それまで待ってられないよ」


 突然小さい子供のように駄々を()ね出した。昔からたまにこういう時があったが、こうなるとノアは誰の言うことも聞かない頑固になる。甘やかし過ぎたのか?父さんが。


「じゃあホットドッグくらいにしておけ」

「ホットドッグ?何それ。お兄ちゃんたまに今分かんないこと言うよね」


 しまった。これは失言だったな。この世界は地球と違うからホットドッグというもの自体ない。それはあの有名なカレーを知らないところからも判断できたことだ。


「ん~どう説明すればいいか……。細長いパンの真ん中を開いてそこにソーセージとかの具材を挟んだものだな」

「それ美味しいの?」

「また前のカレーの時みたいに食堂のキッチンをお借りして作ったらいかがですか?」

「それでもいいだが、アリスよ。この後フェデルの試合があるんだぞ。俺には友達を見捨てることは出来ない」


 アリスがノアの意見に賛同してきた。これではホットドッグを作ると言う流れになってしまう。本音を言うとホットドッグの詳しい作り方なんて知らない。じゃあなんでカレーの作り方は知っているのかって?それは中学校の家庭科の時間に作ったことがあったから。


「そうですね。大切な友達を見捨てることは私にも出来ません!ノアちゃんここは諦めましょう」

「う、うん」


 昔はあんなにも頑固だったはずのノアがアリスのたった一言で折れるとは。


「お兄ちゃん、ノアそんなに頑固じゃないもん」

「おいおい、俺の心の声に話しかけてくるなよ。それ以前にどうして考えていることが分かった」

「何年一緒にいると思うの?十五年だよしかも片時も離れないでべったりと」

「本当に仲が良いんですね」

「まぁーな」「まぁーね」


 綺麗に声が揃った。俺ら二人とも“仲良いね”なんて故郷の町で何度も聞いた。特に近所のおばちゃんたちの間ではいつも話題になっていた。何度も聞いていたらこう返すというのが定例になってしまったのだ。



 第一体育館はあと二試合で終わるということで熱気に包まれていた。座席はどこもかしこも座られていて、空いている場所が一つもない。俺らを含め座れない人たちは壁際で立って見るしかなかった。


 くぅ~ぅ


 と可愛らしいお腹の音が鳴った。反射的にノアの方を見たが、「ノアじゃないよ」という顔をしていた。一瞬怪しいなと思ったがそれは違うとすぐに分かることになった。隣に俺の制服の裾を軽く引っ張る子がいた。銀髪の髪の長い少女。アリスだった。


「あ、あのごめんなさい。さっきの私です」


 その言葉を告げるアリスは何処か声が震えていた。


「いや、謝らなくても。それに攻めてるんじゃないし」

「お兄ちゃん女の子を泣かしたからダメなんだよ?」

「本当。怒ってる訳じゃないから!むしろこの可愛い音色は何処から聞こえたんだろうって気になっただけで」

「ごめんなさいっ」

「お兄ちゃん、今のフォローになってないよ」


 そういえば体育館に来るまでの間ずっとお腹を擦りながら歩いていたな。あの時アリスはノアの意見に賛同したんじゃなくて、自分も食べたかったのか?


「もしかして、お腹空いてる?」

「ねぇお兄ちゃん、ノアもお腹空いてるんだけど」

「私はそんなことありません!」


 くぅ~ぅ


 二度目のお知らせ。たぶん彼女は我慢してるんだな。


「フェデルの試合が終わったら食堂に行こうか」

「はい。出来ればそうしましょう」

「お兄ちゃんアリスちゃんだけ優しくな――!」


 ノアが良からぬことを言おうとしたのでその口を咄嗟(とっさ)に塞いだ。


「おっとそれ以上は言わないように」

「あんえ?」通訳:(何で?)

「何でもないから。特別な感情とか抱いてないから」

「んーん。あんおーえ」通訳:(ふーん。なるほどね)

「後で美味しい物ご馳走してやるから」

「んーお?」通訳:(ほんと?)

「勿論。約束な」


 これにて秘密の会議は終了。何もなかったかのようにノアを解放し、フェデルの応援をし始めた。アリスは俺たちのやり取りを見ておらず空腹の際の音についての恥ずかしさを必死に堪えていた。そのレベルだったんだ。ごめん、と心の中で謝っておく。

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