第三十二話 忍び寄る陰
【ルイside】に戻ります。
「お疲れ様、アリス」
「アリスちゃんの先天性能力って凄く強いね」
試合は終わってここは食堂。相変わらず俺らはここを休憩所にしていた。飲み物だってあるし。
三人から称賛の声を浴びせられ照れながら謙遜するアリスの姿がそこにあった。
「みんなありがとうございます。でも、まだ一回戦ですよ?」
「これで自信着いたでしょ?」
「……そうですね。試合の最初と比べるとだいぶ変わりました」
試合が始まるまでのおどおどとしたアリスはもういない。自分の力に自信を持ちちゃんと前を見据えているのだから。
「あとは終わってないのはフェデルとノアちゃんですね」
「そうだな。俺は今日の七試合目にあるけど、ノアっちは?」
俺とアリスとフェデルはAブロックなのに対してノアだけはBブロックと一人だけ違うブロックにいる。それはつまり、試合の日付が違うのだ。
ノアは結晶端末をポケットから取り出して調べ出した。
「ノアは明後日だってさ。いいな~。なんでノアだけ違うブロックなの~」
とノアは机に突っ伏した。ノアからしたら自分だけ仲間外れにされている感があるのだろう。けど俺らにはどうも出来ない問題なんだけど。
「ノアよ、こう考えてみろ。決勝戦まで仲良しの友達と戦わなくていいと」
「……?クラスみんなを友達だと思ってるけど?」
「なっ!?」
何だと!いつの間にそんなに友達が増えているんだ。俺の知らないうちにクラス全員が友達と呼べるほどに。こ、これがかつて引きニートだった俺と純粋な少女との差だと言うのか。
なんだか悲しくなって俺まで机に突っ伏した。
「おいおい、なんでお前ら兄妹二人とも顔を伏せるんだよ」
「ノアちゃんはまだしも、ルイくんはどうしてなのですか?」
「お前らには分かるまい。この俺の敗北感を!」
「あぁ、さっぱり分からんわ」
「ですね」
この世界には“引きニート”の概念はないから、分からないのも無理はない。ひょっとしたら何処かに引きニートもいるかもしれないけど。
クソーっ!友達が多いとか羨ましいわ!
その後、アリスに一人で来てと呼び出され俺は学生寮の入り口にやって来た。一人で来てというのが意味深だが、もしかして愛の告白か?なんとなく、襟を正し制服の裾を整えてアリスから話を聞く。
「どうしたんだ?話って」
「えぇ。さっきの試合のことでね」
試合のことか。やはり愛の告白ではないよな。分かってたけど。
俺らも観客として応援していたけど、何かあったのだろうか。外からだと戦っている人たち同士の小さな声は聞こえないからな。
「私と戦ったリュームって人がね、私の先天性能力で魔法を食べたのを見て『そんなの聞いてないぞ、エギルめ……』って小声で言ってたんですよ。どういう意味なのかなって疑問に思いまして、こうしてルイくんに話を聞いてみようかなと思った訳です」
「なるほど、リュームってやつがそんなことを……」
「何か心当たりであるのですか?」
「さっぱりだ」
その言葉を聞いてアリスは俯きがっかりとしたようにため息をついた。俺はさっぱりとは言ったものの頭を中で過去を振り返っていた。前にもこうやって過去を振り返ることがあったな。
そうだ、あれはトイレの中だった。
「ソレか!」
「ひゃっ!」
俺が急に大声を出したものだからアリスは目を丸くして驚き肩をびくっとさせた。
「ごめんごめん。でも心当たりはあった。前にエギルに『調子乗ってるんじゃねぇ』って絡まれたことがあったんだ」
「柄が悪いですね~」
「まぁーそうだな。その時に新年祭のことも言われたんだけど、俺はあいつらに怒ったんだが、それが今回のようなことになったのかもしれない」
「仲間を作って私たちを潰そうとしてきたということで合ってますか?」
「たぶんな。だとしたらこれからも同じことがあるかもしれん。ノアとフェデルにも伝えないと」
「その必要はない。今聞かさせてもらったからな」
フェデルの声がして後ろを振り向くと、ポケットに手を突っ込み格好付けるフェデルと、にこにこと笑っているノアが奥から歩いてきていた。
「お前らいつから聞いてたんだよ」
「ごめんねお兄ちゃん。で、でも最後の方だよ?」
「というと?」
「『さっきの試合のことについて』のところからだな」
「フェデルそれ。一番最初の方なんだけど」
「あれ~おかしいなこれ最初の方だったのか」
と音の出てないのに口笛を吹き、手を頭の後ろに組みだした。あからさまに白を切っている顔だ。
俺がこんなに明るく学園生活を楽しめるなんて、前世では到底考えられなかった。それもこれもこの世界に招いてくれた神様と賑やかな仲間たちがあってこそだ。そんな仲間に危害を加えようとするやつらは危険だ。だが相手の同じクラスメイト、つまりは仲間といっても過言ではない。
この問題出来るだけ穏便に事を済ませるには――
「何難しい顔してんだルイ。一人で悩まず俺にもどんどん相談してくれよ」
「お兄ちゃんは何でも一人で解決しようとしないでよ」
「まぁー、そう……だな」
この俺の返事に対して小首を傾げてくれたのはアリスただ一人だけだった。