第二十九話 先天性能力者
「んで、今何処と何処が闘ってるんだ?」
保健室を澄ました顔で後にした俺たちは、その後みんなで食堂で待っているか、それとも第一体育館で他の人の試合でも観戦しておくかを廊下のど真ん中で話し合っていた。
先に言っておくが道の邪魔にはなっていないから。それ以前に擦れ違った生徒が一人もいない。それだけみんなこの前期階級戦に何かをかけているのだろう。俺はこのクラス延いてはこの学年での地位を手に入れるためだ。妹のノアは割り当てられる部屋にしか興味を示していない気がするが、それでも勝ち抜こうという意思がある。アリスとフェデルは……よく分からん。ただ、勝負には真剣に挑む筈だ。
「たぶん七番と八番のヤツじゃね?さっきアナウンスかかってた気がするし」
「と言うことは今闘ってるんだね」
「う~ぅ……。その次は私の番ですか。なんだか急に自信が無くなってきました」
たしかアリスの抽選番号は九番だ。つまり、今の試合のすぐ後なのだ。緊張して当然だろう。むしろ今の今まで平気そうな顔をしていたのは、単に俺の怪我の心配をしてくれていたからだろう。
アリスは頭を抱え込んでその場に座り込んでしまった。きっとプレッシャーに押し潰されそうになっているのだろうな。今朝だって、緊張して夜も眠っていないようだし。俺も似たようなものだが。
俺のは単なるワクワクだったんだけども。
「大丈夫か?アリス」
「えぇ、きっと大丈夫です。でも、もし勝てなかったらと思うと……」
「相手が先天性能力を使うやつじゃない限り、きっと勝ち目はあるって」
そのフェデルの何もフォローになっていない言葉を聞いてアリスがその項垂れていた顔を上げた。何かが引っ掛かったのだろう。
「先天性能力ですか?」
「あれ?アリスちゃんもしかしてギフトを知らない?先天性能力のことなんだけど。ギフトってのはさ、産まれた時から既に覚えている特別な力で、後から覚えることが出来ない能力なんだって」
「フェデルでもギフトのことは知ってるんだ~。ちなみにギフトの由来は、『神様からの贈り物』なんだよね?お兄ちゃん」
「あぁ。実を言うと俺は先天性能力持ってるんだよ」
使ったことないが。
というか使い方以前にどんな能力かすら分かんないんだけど。だけど、それは言うべきじゃない。先天性能力があるだけで凄い期待の視線が集まる。だが、それが使いこなせない物だと知った瞬間、ひどく信憑性などが無くなるだろうと思う。
「あの……先天性能力がどんな能力かは知ってます。それに隠してたって訳ではないんですけど、私もギフト持ちですし」
「「「えっ!?」」」
その返答に俺だけでなくノアもフェデルも驚いた。だが、持っていたって不思議なことではない。現に俺だってさっきまで隠していたのだから。
そういえば俺がギフト持ちだということを明かしてもノアが驚かないならまだしも、アリスもフェデルも二人とも驚きもしなかったな。ひょっとしてバレてたのか?
「私が疑問に思ったのは先天性能力を使ってもいいのかというところです。どうなんでしょうか?フェデルくん」
「良い……と思うぜ?だってどこにも使っちゃ駄目って書いてないんだからさ。普通駄目だったらルールブックにでも書いておくだろ?」
「そんな曖昧な理由で!それでもしアリスちゃんが失格になったらどうしてくれるの?」
フェデルにしたら、良い考え方かもしれないな。俺は腕を組み考察を言う。
「言い訳をすれば良いんじゃないか。今回だけは学園長の長い話とか色々聞いていたんだが、誰も“先天性能力がダメ”なんて言ってなかった筈だ」
「うん。たしかに」
「そうですね。言ってませんでした」
「アリスが言うなら間違いない。つまり使用禁止というルールはない!これで押しきれる」
「お兄ちゃんが言うなら」
「……おいおい、最初に案を出したの俺なんだけど」
と落ち込むフェデルを余所にあたかも三人で結論を出したかのように振る舞った。あまりやり過ぎるといじめに発展するから注意しないといけないが、今はまだ良い。
「じゃあ敵の観察を兼ねて七番八番のヤツでも見に行くか」
「そうだね!そのうち当たるかもしれないからね」
「ノアはまず当たることはないだろうな」
「そうかな~。もしかしたらお兄ちゃんを倒すかもしれないよ?まぁー無理だと思うけど」
「どっちの応援してんのか思えば俺かよ」
「本当、二人は仲良し兄妹ですね」
「見てるこっちが微笑ましいわ」
落ち込んでいた筈のフェデルは一瞬で元通りに戻りニヤニヤと顔が緩んでいる。こいつは本当に立ち直りが早いなと度々思う。やっぱり馬鹿だからなのか?




