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一人、ゲームな魔術学園  作者: 結城 睦月
第一章 : 新年祭編
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第二十八話 神様の祝福

 第一試合が終わった後、俺は担架で即保健室に運ばれたようだった。


 何せ、気付いた時には既に保健室にいたのだから途中の記憶が抜けている。


「もうそろそろ起きた頃かしらね」


 ベッドの上で寝ていると、足元の方から若い女性の声が聞こえてくる。ただ、カーテンで囲まれているせいで姿は見えない。

なんだかその色っぽい声で色々想像してしまう。場所が保健室だからというのもあるからだろうな。


 バサッ


 勢い良く開けられた先には一人の人影が立っており、じとーっとした目でこちらを見ていた。


「なかなか、危ないことをしてくれましたね~、坊や?」


 そのじとーっとした目からは想像出来ないくらい感情のこもった言葉が発せられる。

 表情と声があってないなんて珍しい人だな。もっと分かりやすく例えるなら、顔は笑っているのに声は怒っているという感じに似ている。

 しかも口がまったくと言って良い程開いていない。いや、それは単に口が小さいだけなのかも知れないが。


 それにしても全てが違和感だらけだ。この目の前の人は若い女性と言うより、幼い少女という感じなのだ。


「おっ、驚いてる驚いてる」


 また一人、今度はカーテンの横から覗き込むように現れた。その人こそ若い女性といった歳だった。そして、衝撃的だったのはその声は今まで少女が発していた声と同じだったと言うことだ。



 ――つまりどゆこと?


 新手のドッキリなのか?だとしたらしょぼ過ぎるけど。少し反応に困っていると、ジト目の少女が若い女性に対して口を開いた。


「せんせー、いい加減このネタ止めましょうよ。だんだんみんな飽きてきてますよ」

「だとしても、この子は初めての――、もっと言えば一年生なのよ?飽きるも何も初見じゃない」


 このドッキリって保健室に来たみんなにやっていることなのかよ。こんなことするような保健室にはなるべく来たくないな~。ということはもしこの考えがみんなにあれば、この学園には俗に言う“保健室登校”が少ないことになる。そういう策略か?


 ――まぁー全寮制なんだけど。


「だったら直接この人に聞いてみましょうよ?」

「いいわよ。絶対驚いたって言うに決まってるわ」


 いつの間にか俺に視線が集まっていた。今度は何をされるのか、まったく分からない。それよりも安静にさせてほしいんだが。


「君、今のせんせーのドッキリをされてどう思った?」

「正直な感想を聞かせて?」

「え、えーっと……詰まんない、かな」

「つ、詰ま……」


 俺の回答に保健室の先生愕然とし、女子生徒はやっぱりと言いたそうな顔をして先生を見ていた。

 正直な感想を求められたのだから俺に非がある訳がない。訳はない筈だが罪悪感が残るのは何故だろう。


「正直に言い過ぎよ、坊や」

「いや、だって先生が言えって言いましたよね?自業自得ではないのですか?」

「まさか、悪い方を言われるとは思いもしなかったわ」

「せんせー、そろそろ本題に入ってあげてください。仕事でしょ?」

「せっかちね。そんなんだからいつまでも背が伸びないのよ?」


 その言葉に今まで無表情を保っていたジト目の少女が顔色を赤らめた。それは恥ずかしさからか、怒りからか。

 恐らく後者だろう。


「わ、私の背とそれは関係ないでしょ!?」

「じゃあ、坊やに聞いてみましょ?」


 再び俺に視線が集まった。いい加減安静にさせてほしいと思う。

 というか『こんな保健室は嫌だ』ベストスリーに入ってそうな“保健室で騒ぐこと”を先生と保健委員会の人(?)がやるか。


「えーっと、関係ないですかね」

「だよね!」

「坊やは先生の味方をしてくれないのね。もう診察してあげないっ」


 次は職務怠慢をしてきたぞ、この先生。この学園はよくこんな人を雇ってるな。性格は子供並み、だとしたらたぶん腕が一流なのだろう。


 そんなことを考えていると、ガラリと扉の開く音が聞こえた。足音からして三人。


「お兄ちゃんは?」「ルイくんはどちらですか?」

「ここで寝てます。静かにしてくださいね。他の人も寝てますから」


 妹のノアとアイスの質問に対し、ジト目の少女がカーテンから顔を出してこっちこっちと手招きをした。

 さっきまで保健室の先生と一緒に大きな声で喋っていたのによく言うわ。俺からすれば説得力がない。


 手招きされた三人は俺が寝ているベッドにやって来た。やはりノアとアリスとフェデルだった。


「結構派手に魔法を食らったな~」

「もうフェデル、ちゃんと心配してるの?」

「別に良いよ。だってフェデルだし」

「俺の扱いひでぇな……」


 みんな心配してくれていたのか。それもそうか、アレだけの本気の魔法をシールド無しで直に食らったんだもんな。俺的には演出の一部のつもりだったのだが。


「本当に大丈夫なのですか?」

「もう大丈夫だ。心配かけたな」


 俺はベッドから起き上がり横向きに座り、立ち上がる。すると、ずっとそばに黙って立っていたジト目の少女が口を開いた。


「駄目ですよ。まだ休んでないと」

「もう治ったから平気です。お世話になりました」

「でも、あの傷ですよ?すぐには治りませんよ」


 その表情から本気で心配してくれているということが伝わってきた。直に魔法を食らった箇所は腹部だ。そこには大きな火傷の痕が付いていた。


 俺はカッターシャツを捲り上げて腹の傷痕を見せた。捲り上げる一瞬ジト目の少女は赤面になったが、すぐに俺の意図を察したようだった。

 その腹を見て少女は驚いた。何故なら火傷の痕すら残っていなかったのだ。


「どう……して?」

「昔から傷の回復が早いんですよ」

「そうだとしても、あの火傷ですよ。最低でも回復するまでに一ヶ月はかかります」

「この眼のお陰ですかね」


 俺は目を指差し微笑んだ。

 この眼……銀色の瞳はこの世界では神様の祝福(かご)があるという逸話がある。ただしそれを証明する手段がない。それもその筈、銀色の瞳をしている人が滅多にいないからだ。血の繋がった実の妹、ノアでさえ銀色の瞳ではなく、綺麗な碧眼なのだ。


「初めて見ました……」

「そう言う訳で、お世話になりました」


 言い残し俺ら四人は保健室を後にした。

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