第二十話 かなりハードな四日間の終わり
体力テストを行うため学園指定の運動着またはジャージに各々が着替え、昨日は入学式として使用された第一体育館へと集合した。ルイの前世の体育館とその広さを比べるとこの体育館は無駄に広く感じた。
余談ではあるのだが、今だけはノアは“みーたん”を持っていない。着替える前にルイがそう言ったからだ。これがもし言っていなかったら、何食わぬ顔で抱いてきていただろう。
「じゃあこれから体力テストを始めるね!まずは……」
セルティア先生は腕に抱き抱えていた名簿帳に挟んである紙を見た。順番を覚えていないところからして二〜三個で終わりということはないのだろう。
「まず最初の種目だけど、1000m走をやるね」
そのワードにクラス一同は驚愕した。セルティア先生は100mと同じような、準備運動をする感覚で事を発言した。
1000m。それはルイの前世からするとかなり長く、その間ずっと全力で走るのはきついと思う。だがこの世界は前世とは違う、魔法がある世界。
「あと分かってると思うけど、先生が指示したところ以外での魔法の使用は禁止だからね。もし、使ったりでもしたら……」
セルティア先生はそこで言葉を濁らせると生徒一人ひとりの顔を見て、目で訴えかけた。ルールを破った人には何が待つのか自分の想像力が恐ろしい方へ働かされる。その優しそうに笑う顔が怖いと思ったのはルイの思いすぎだが。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「さぁ、どんどん行こ〜!!」
「「……」」
「みんなどうしたの?体力テストはまだまだ始まったばかりだよ?たった三種目やっただけでへばってたら、この先エクシード魔術学園ではやっていけないよ?」
と半ば脅すかのようにみんなを元気付けた。その言葉を聞いて闘志が燃える者もいれば、心が折れかける者も少なからずいた。
1mも走っていない先生はあの通り普通に元気である。しかし、朝から1000mも全力で走り、50mのシャトルランをし、どれだけ遠くまで魔法の効果があるのか測定した彼らはまだ息が上がった状態である。それだけでなくすでに弱音を吐くものまでいた。
「先生、ちょっと休憩しませんか?ほら、みんなもこんな状況ですし」
「あれ〜オーギュスト君。それはリーダーシップを発揮しての発言?だったら休憩はなし。疲れてない人がいるんだからこのまま続けますよ」
「どうして!?」
「下の人に合わせていたらいつまで経っても向上しない。つまりはそういう事よ。さ、次は重力魔法適正検査ですよ」
重力魔法を使えるか使えないかを調べるしかテスト。重力魔法は他の魔法よりも使いこなすのがかなり難しい。……らしいのだが、今年の魔術学科の生徒は例年では類を見ない程優秀であった。なぜなら、重力魔法を扱える者が二人もいたからだ。 一人はルイ=エルフォード。もう一人はエギルという男子生徒だった。彼はルイと違って少し浮くのが精一杯だが、それでも他の生徒と比べると評価に値する。
次の種目から水中になったため学校指定の水着に着替えた。水はルイの大の苦手な種目であり、前世のトラウマである。最初に行ったのは水上歩行のテストだ。水魔法を使える者ならなんの努力も無く普通に地面を歩くかのように余裕なことである。たとえ水魔法が使えなくとも無属性魔法を上手く使いこなせれば簡単なことである。だがそれは使いこなせればの話である。結果この試験で優秀な成績を出したのはノアの方であった。さすがは昨日の自己紹介の時に『得意な魔術は水魔法です』なんて言っただけはある。水上を歩くだけではなく、走ったりジャンプしたりなんて朝飯前のようにこなしている。一方ルイはと言うと水に触れたくないからか、無属性魔法で必死になって防いでいる。
だが、それも最後の種目で無意味と化した。
「体力テストもいよいよ大詰め。最後は無呼吸持久力を計ります。みんな準備はいい?……ってルイくんまだ始めと言ってませんよ」
先生の合図もなしにルイはすでに顔を付けていた。というよりかは力尽きていた。
一応ブクブクと泡を吐いているところまだ死んではいない。
「じゃあみんなも始め!」
翌日は学力テストが行われた。法律のことから魔術のことまで幅広い範囲で出題された。前日の体力テストで疲れそのまま何もせずに寝てしまった人と、疲れてでも勉強した人とではまた大きく差が開けてしまうだろう。とは言っても基礎問題のような内容だから頭の良い人は特に勉強しなくても八割は取れるだろう。
その日の午後。職員室の廊下の掲示板に結果が張り出されてた。それを見ようと集まるのは一年α組の生徒だけではなかった。先生はもちろん二 三 四年生の先輩までも見に来ていた。
―――体力&学力テスト総合結果発表―――
学級一位:エリオル=フリークス
学級二位:ルイ=エルフォード
学級三位:オーギュスト=アルフェン
今回で長い序章と三人称視点は終わりです。