第十九話 試験の前のひととき
今回は短くなってしまいました。すみません
コンコンコンコン!
朝早くからルイの部屋の扉を叩く者がいた。お兄ちゃんぞっこんメロメロ少女こと、ノア=エルフォードだ。
「お兄ぃちゃ〜ん、起きてる〜?もうあと二十分で朝の会始まっちゃうよ?」
扉の外から中で寝ているルイに聞こえるように大きな声で話し掛ける。その際には周りの目なんて一切気にしない。
「お兄ちゃ〜ん!!もぅ……」
ガチャ
また暫くすると今度は部屋の扉を開ける音がした。ノアが部屋に入ってきたのだ。そして小さく頬を膨らまして、未だに気持ちよく寝ているルイの元へ近付いた。
「ねぇお兄ちゃん、いつまで寝てるつもり?」
「んんっ……?」
昨日の疲れも残っているのだろうと、ノアは理解しつつもそれとこれとは別物であると考えていた。朝ご飯は食べれなくても遅刻は絶対にしないと。二日目から遅刻なんてしたらクラスのいい笑われ者だ。
「起きてっ!」
「……おはよ、ノア」
「おはよ。じゃなくて、もうだいぶ時間ないよ?」
と笑顔で言う。その笑顔には何か他の意味も含んでいそうだが、ルイはまだ寝ぼけているため問題を問題として見ていない。部屋にある時計は一秒ずつ、止まることなく進んでいく。――朝の会まで残り十五分。
「なんでもうちょっと早く起こしてくれなかったん?」
「実は私もさっき起きたばかりなのっ」
「ノアもか……」
急いで着替えるルイを一人掛けのソファーから眺めるように見る妹。その膝にはまるで自分のペットのように宝物のみーたんが座っている。
「今日体力テストあるだろ。身体は休めれたか?」
「うん。私は大丈夫だけど、お兄ちゃんこそ大丈夫なの?昨日一日お兄ちゃんだけドタバタしてた気がするけど」
「俺はまぁー気にするな。さ、飛んで行くぞ」
「うんっ!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「さてさて、皆さんおはようございます……ってあれれ、エルフォード兄妹がまだ来てませんね。遅刻なんでしょうかね?誰か聞いてますか〜」
「……。」
セルティア先生が出席を確認したところまだルイとノアは到着していない。結局間に合わなかったのだ。それもそのはずルイたちが部屋を出た時、始業まであと二分だったのだ。いくら空を飛べる重力魔法が使えるルイでさえ、この広い学園の中では寮と教室までも遠く感じる。
「そうなんですか〜。誰も見てないのですね。まったく入学した次の日にいきなり遅刻なんて好ましくありませんね」
と言いながら手に持っている出席名簿にチェックを付けようと羽根ペンを紙に押し当てた丁度その時、教室の前の扉が勢いよく開いた。
「おっはようございま〜す!」
「おはようございます」
とノアは元気よく挨拶をしたが、ルイはと言うと全速力で飛んできたことで魔力を消耗しやや疲れ気味だった。
「おはよう、……じゃないですよ!五分の遅刻ですよ?」
「先生たかが五分ですよ」
「されど五分なんです。……せめて初日くらいは間に合うようにしてくださいよ。ちなみにですが理由はなんですぅ?」
「お兄ちゃんが寝過ごしかけたところを出来る妹がサポートしたの。出来る妹がねっ」
「要するにただの寝坊ですね」
その平凡でつまらないような理由にセルティア先生は思わず深いため息を吐く。書きかけだったチェックを丸に書き直し、再度ルイの顔を見た。
「今回は妹の顔に免じて――」
「先生違うよ。出来る妹だよ」
その軽い訂正に先生は少し戸惑う。というよりもルイですら、そんなの訂正しなくていいだろとさえ思っていた。がしかしそこは優しさの表れか「出来る妹」と訂正してくれた。
「――少しばかり時間を取られてしまいましたが、今日はここからです!さぁ、張り切っていこ〜う!」
と天高々にその拳を突き上げる。そのテンションについてきたのはクラスでもテンションの高い部類にいる、ノアとエレミーだけだった。そして、静まり返る教室。その空気を壊すかのようにアリスは小さくくしゃみをした。