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一人、ゲームな魔術学園  作者: 結城 睦月
序章 : 異世界新生活編
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第十八話 忠告の後の安らぎ

「お兄ちゃんおかえり〜。ガイストってどうだった?」

「う〜ん……言う程大したことないな。もはや普通のカラスだぜ、あんなの」


 先程あったことを自慢げに、実に誇らしげに語る。周りの生徒も「凄い!」などと尊敬の声を上げる。しかし、ただ一人先生だけは頬をぷくっと膨らまし、少し怒った表情を見せる。


「ルイくん!ちょっと話があります!後で学園長の部屋まで来てください」

「りょーかいです」

「返事は“はい”でしょーっ!」


 この人は他人にしっかりと注意できないのか、それとも本気で怒っているわけではないのか。ルイを含めみんなが分からないままだった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 太陽が傾きを増し、廊下の窓からは夕日が照らす。まもなく夜がくるのだ。本来ならばみんなと同じく寮の部屋でくつろいでいるはずなのだがルイだけはそうはいかなかった。


コンコン

「失礼します」

「どうぞ」


 学園長の部屋の扉はとても重厚感の溢れる木製の扉だ。その扉をゆっくりと閉めるととてもしんみりとした様子で二人のいる方を振り向く。

 奥の椅子にはアルフレッド学園長が座っていた。学園長の職についているが年齢はまだ二十代後半の男性であるからとても若い。その手前には腕を組むセルティア先生が半ば仁王立ちで立っていた。そして少し低い声をして口を開いた。


「どうして呼ばれたのか自分で分かっていますね?」

「……どうしてですか?」

「もう、ふざせないでください!さっきのことですよ。別にルイくんが危険を犯してまで(ガイストを)倒さなくても良かったんですから」

「あ〜。そのことですか」

「その事しかありませんよ。……え、他に心当たりがあるんですか?」

「いや、何も」

「ですよね。って、そもそも小物とはいえ実践経験のない一生徒がガイストと戦うのはかなり危険過ぎるんだから。何かあってからじゃ遅いんですよ?」


 我らがセルティア先生は終始真っ当な意見を述べている。しかし世界を楽しむことにしか脳がないルイにとってはそんなこともどうでもいいようにしか聞こえていない。完全に右から左に言葉が流れているだけだ。


「――ちょっと!聞いてるんですか?」

「いえ」

「素直に言ったらいいという問題じゃありません」

「まぁまぁセルティア先生も落ち着いてください。ルイ君といったね。クラスのみんなを守るために行動をとったのは実に素晴らしい。だけどもっと言えばみんなで協力して倒していたら完璧だったな」

「善処します」

「あぁ。そうしてくれたまえ。じゃあもう下がっていいぞ」


 ルイは学園長に言われたとおりに静かに部屋を後にした。扉が自然に閉まるのに任せてルイは学園長室の目の前で(たたず)む。


 ガチャン


「しゃぁーっ、終わったー!」


 完全に扉が閉まった瞬間ルイのテンションが弾けたかのように最高潮に達し、特に意味もなくただ叫んだ。

 部屋の中にいた担任の先生は呆れ果てため息を一つ吐いた。


「元気だな。あのルイという生徒は」

「元気というか……何を考えているかまったく分からないって感じで」

「そういう生徒ほど面白いことをしてくれるさ」



 そんな話が繰り広げられているとは知りもしないルイは高いテンションのまま寮まで重力魔法で一飛び。浮遊の術で空を泳ぐように、滑るように飛んでいった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

「ここか」


 ルイの目の前には扉が一つある。今日から数日のみ使用する仮の自室だ。先程、寮に入ってくる時に一階の管理人のおばさんから渡された503号室の鍵をポケットから取り出す。

 ちなみにだが、夕食を食べようと食堂に行った時には既にみんなはいなかったから、一人で済ました。


 ガチャリ


「ん、なんで部屋の電気付いてるんだ?」


 ルイは初めてこの部屋に入った。しかも、寮の鍵はどの部屋も管理人から渡された鍵と管理人のマスターキーしか存在しない。


「おいおい、マジかよ。一体誰が部屋侵入の完全犯罪をやってのけたんだ!?」


 ルイは割と急ぎ足で奥のリビングルームまで来た。部屋の作りは地球ではよく見かけるホテルの内装と同じく、リビングルームとユニットバス、ちょっとしたベランダと至ってシンプルな作りである。


 部屋の角に置かれた二人がけのソファーにはバスタオル一枚のみを身体に纏い、艶やかな黒い髪を丁寧にタオルを押し当て乾かしている少女がいた。


「ノアかよ。一瞬ガチで侵入者かと思ったわ。ってか、ノアの部屋はここじゃないだろ」

「そだよ」

「そもそもどうやって入ってきたんだ?」

「管理人のおばあさんに『お兄ちゃんと片時も離れたくないの』ってお願いしたら、あっさり開けてくれたよ」

「セキュリティ弱っ!」

「大丈夫、お兄ちゃんの部屋は私が守るから!」

「あー、頼もしいね。じゃあ俺はノアの部屋でも守りに行こうかな」

「ダメーっ!それじゃあずっと一緒にいれない」

「そもそも一人用の部屋だからな。離れたくはなかったら、一週間後の新年祭でいい成績を出すことだね」


 その言葉にあからさまに肩を落とすノア。幼い時からルイと一緒に魔術についての勉強をしてきたが、それは他の生徒も同じことである。何しろ別の魔術学園だったら学年一位も取れるレベルだ。


「……っと、そういえば」

「ん、何?」

「お前みーたんは?」


 凄く大切な宝物であるクマのぬいぐるみの“みーたん”がノアの傍にない。ノアがそのぬいぐるみを放すなんて滅多にない。それこそお風呂以外はずっと腕の中に収めているくらいだ。

 ノアはみーたんがあると思って机の下やベッドの上なんかを必死になって探している。



「嘘……。あ、私の部屋だ!取ってくる!」

「ちょっと待ったぁぁあ!!」


 走りかけたノアを大声で呼び止めるルイ。ノアは突然怒鳴られて少し飛び上がった。


「な、何?」

「何じゃなくて服を着てけ」

「……?」


 その言葉を聞いて隣に立て掛けてあった鏡で自分の身体を見る。そこに映るのは未だにタオル一枚のみの格好であった。


「危なかった〜。もっと早く言ってほしかったよ」

「ノアがいきなり走り出すから俺も焦ったわ」

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