第十六話 この世の嫌われ者
「お待たせノア。……とフェデルも」
「おい、待てよ。なんで俺が次いでみたいな言い方されなきゃならねぇんだよ!」
「お待たせいたしましたフェデルくん」
「そのアリスちゃんの一言でルイに受けた傷が癒えるぅ」
「馬鹿か」
「馬鹿ね」
フェデルは自分を抱きしめるポーズをとりくねくねと悶えている。やはり最後は兄弟息が揃ってしまうようで、考えていること口に出すことがまったく同じであった。
ルイたちがノアとフェデルと合流するまでは料理長から新作料理の報酬として次元通貨を貰っていた。てっきりルイは一人800pt前後だろうと予想していた。その800ptでも少しは他人より多いという気持ちの充実感などが得られる。しかし実際は違った。彼らが予想していたポイントより多かったのだ。一人1500pt。これがルイとアリスとオーギュストの手に渡った。その額を教えてもらった時、優しい性格のアリスと超真面目なオーギュストは『そんなの多くてとてもじゃないですよ』などと謙遜していた。一方でルイは素直に貰ったものだから、少し気まずさを感じていたくらいだ。
「あ〜ぁ。俺も手伝っておけば良かったぜ」
「今更そんなかと言っても後の祭りだよフェデルくん」
などとオーギュストに肩に手を添えられ慰められている。
「そろそろみんなのところに戻るとするか」
みんなのところ。それは今日から泊まることになる寮のことを指している。この学園はとても広い。その広大な土地はまるで一つの町と言ってもさほど変わらない。そのくらい広い土地の上に密集するように学園施設や商店、娯楽のための施設などがある。一つのテーマパークと言っても納得してしまう。
ルイは前世でもこの世界でも地図を覚えるのが苦手だ。それは妹であるノアも同じである。この五人の中で唯一地図を見るのが得意なのはアリスだけである。
「アリス。寮まで道案内頼む」
「了解です!」
と明るく返事をして可愛らしく敬礼をした。その仕草に今度はフェデルだけでなくルイも心を射抜かれた。そんなお兄ちゃんの姿を見て不機嫌になるのはノアであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
迷路のような学園内をあみだくじのように進むアリス率いる仲良し組。無事、寮の手前の階段までやって来た。階段は全部で二十段とそこまで多くはないのだが、普通ここまで来るだけで疲れるものだ。
ルイは最後の一踏ん張りと色々と疲れた身体に鞭を打つ。
「地図が見れるなんて、やっぱりアリスちゃんって凄いよ」
「え!?全然そんなことありませんよ」
「またまた〜」
(地図が読めることに凄いと感心いていたらダメだ)
と、ルイは心の中で思ったがそれを前を歩くノアに実際に口に出すほどの気力が残っていない。
フェデルとオーギュストはルイに合わせて少しゆっくりと階段を登っている。
「おいおいルイ。お前体力無さすぎじゃね?そんなんだったら明日の体力テストヤバいだろ」
「体力テスト?」
「あの巨乳先生が言ってただろ」
「まぁー疲れていても無理もないよ。今日一日だけで入学式やら学園案内など色々あったんだから」
「そう……だな」
(それも理由に入るかもしれないが、昨日は夜遅くに寝たということもあるだろうな。今日は明日のために早く寝るか)
階段を上りきると魔術科の一年生の寮の入り口に何やら人集りがあった。ちなみに剣術科の寮は今ルイたちが上ってきた階段の反対側に建っている。
みんな中に入らないというよりは、入れないと言った方が正しい。
群衆の外側で飛び跳ねる人影が二人。妹のノアといつもテンションが高いエレミーだ。
「何してんだ?ノア」
「あっお兄ちゃん遅いよ。なんかね寮の鍵が無いから開かないんだってさ」
「ふ〜ん」
ルイは何気なく木製の寮の扉の方に目を向けてみた。するとそこには大袈裟に頭を抱えるセルティア先生の姿があった。それは一見構ってほしいと言わんばかりだ。
「うわあああぁぁぁー!!」
「……どうかしてるんですよね、先生」
「良いところに来てくれたねルイくん。実はねさっきまで持ってた筈なのに――」
「先生が鍵が無くて寮に入れない。さっきノアから聞きました。これも先生の仕業ですか?」
「仕業ってひど〜い!」
(いったいどんなキャラで生きたら、この先生みたいになるんだよ)
「この出入り口の扉のスペアキーを取ってくるというのはどうですか?」
ルイの後ろから提案が聞こえてきた。ずっと円の外で話を聞いていたオーギュストだ。
「スペアキーを持っているのは管理人なんですけどね、その人今この寮の中でお祝い用の料理を作っているんですよね〜」
「だから?」
「だから、集中して結晶端末にも気付かないんだよ〜。まったく困ったものやね」
(そもそも無くした方が悪いだろ)
呆れて物も言えずため息をつく。しかしル的にはこれもまた楽しいと思っていた。前世でルイの周りにはこんな愉快な人たちはいなかった。
そんな中また新たな人物が大急ぎでやって来た。魔術科の女子 クリスティーンだ。しかしルイは彼女の、いや、クラス中の生徒の名前を覚えていない。覚えているのは三十二人中たったの四人である。
「セルティア先生、大変です!早く来てください!寮の屋上にガイストが」
ガイストとは主に何か他の生物または物質に取り憑いて悪事を働く黒い霧のような存在である。そして取り憑かれた存在の総称を“魔物”という。ルイをこの世界に送り込んだあの神様が言っていた魔族のことである。
ルイはそんなことはエクシード魔術学園に入学するよりも昔、家の近くの図書館で調べていた。ポケットに手を突っ込んでもう一度にため息をついた。
「やっと世界を楽しめる」
「え?」
「何言ってるの、お兄ちゃん?」
今回の【第5回ネット小説大賞】にこの作品を応募します。
これからもよろしくお願いします。




