第十四話 結晶端末サプライズ
なんだか今回はいつもより少し長くなってしまいました(文章的に)
【ノアside】
ノアたちがα組の教室に戻ってくると、教卓の上でセルティア先生が干されているかのようにぐったりと俯せになって寝ていた。
初日からこんなにリラックスした先生が目の前にいるのにみんな平然としている。
「遅いよぉみんな〜。あれだけアナウンスで“今すぐ”って言ったでしょ?」
「先生こそ急に招集をかけないで頂きたい」
まだリラックスしているのか、ゆっくりとした行動で教卓から降りた。その時に地味に大きな胸を強調していた。
「真面目だな〜。オーギュスト君は」
「セルティア先生が不真面目なのでは?」
「先生に向かって失礼な子ね」
ノアにはこのセルティア先生が不真面目なのかどうかは判断出来なかったが異世界の知識もあるお兄ちゃんだったら、オーギュストと同じくこの先生は不真面目だと言うだろう。
「そもそも急に呼び出すとはいったい何の用ですか?」
「もうみんな気付いてると思うんだけど、この学園で私達α組だけ結晶端末を持ってません」
みんなが気付いていないと思っていたのか。そもそも持っていない原因はセルティア先生にある。先生が学園案内ツアーをする前に結晶端末を配っておけば平穏だったのだ。今まさにクラスの男女の心が一つとなって怒りの矛先が先生に向いている。
「みんなそう怒らないの。余計にお腹空いちゃうよ?」
「セルティア先生〜!お昼ご飯は心優しいお兄ちゃんがみんなの分を作ってくれて食べました」
「そっか〜……だけどそのお兄ちゃんの姿が何処にも見当たらないんだけど、何処へ行ったのかしら?」
「私のお兄ちゃんの料理があまりにも美味し過ぎて学園の料理長さんに大層気に入られて、今食堂で秘蔵のレシピを伝授している頃じゃないかな。でね!その味が――」
「ノアさん」
ノアはいつまでも素敵なお兄ちゃんの話をしたかったが、超真面目なオーギュストに止められた。これが正解だ。ノアは好きなお兄ちゃんについてを語らせたら留まるところを知らないのだから。ただ無理やり話を遮られた方のノアは少し機嫌が悪くなるのだが。
「私も食べたかったな〜。生徒手作りの料理」
「セルティア先生早く本題の続きをしてくれませんか?」
「はいは〜い。もうオーギュスト君は真面目なんだから。よっと」
一人で掛け声をあげて足元に置いてあった非常に重そうな木箱を教卓の上へと持ち上げた。その木箱にはエクシード魔術学園の校章以外何も描かれてはいない。
そしてセルティア先生が木箱の蓋を開けると、中には水色をした結晶端末が大量に入っていた。とはいってもクラス分であり、それぞれに名前の書かれた紙が貼られていた。
「一人一個あるからそれぞれの名前が書かれた物を取ってね〜」
お兄ちゃん不在のノアは責務であるかのように、ルイの結晶端末も取った。
「じゃあ使い方の説明をするね。この結晶端末っていうのはエクシード魔術学園の中で学生証よりも大切なアイテムですよ。えーっと素材は魔力結晶で出来てますけど、それはどうでもいいかな。この主な機能の中に学園内で使える“次元通貨”っていうポイント機能が入ってるんです。次元通貨は“ガイスト”の撃破数などで増えますよ。そして!驚くべきことにガイストの撃破数は結晶端末が自動的に記録してくれるのです!」
「あれ?ちょっと待ってくださいセルティア先生」
テンションが上がってバンザイをしているセルティア先生に横槍を入れたかのようにオーギュストが立ち上がり話を遮った。それにびっくりした表情を見せるセルティア先生。思わず「わっ!」という声まで上げてしまった。
「な、何ですか?オーギュスト君」
「食堂で会ったんですが、剣術学科の生徒とは結晶端末の色は違うものなんですか?」
「そうですよ。魔術学科の結晶端末の基本の色は水色。剣術学科の基本の色は黄緑色なんですよ。そもそも右肩に付いている長方形のバッチの色も青は魔術学科、緑は剣術学科という分け方になっているので、それに合わせた感じですよ」
「そういうことですか。ありがとうございます」
説明を受けると礼儀良く一礼をし、席に着席した。
セルティア先生はというと他に質問はないかと生徒の顔を一人一人見渡してる。
「じゃあ操作方法の説明などしますね。右側面の上らへんに四角いボタンがあると思いますけど、それが電源のボタンです。付けてみると初期設定のままですので画面が浮き上がってきます」
言われたとおりにクラス中の生徒は一斉に電源を入れた。すると画面が浮き上がったことにみんなして驚いている。
この世界で結晶端末はとても高価な物で一般市民が簡単に手に入れれる物ではない。それに加えてとても数が少なく大量生産出来るものでもない。買い手が貴族だとしても売るということはまずないと言っても過言ではない。そもそも職人の手で作られた結晶端末はすべて魔術学園に回される。その入手ルートは一切明るみに出ないのである。
「――という感じが初期の基本設定です。後は自分で使いやすいように設定を弄ってもらっても構いません。が、これだけは言わせてもらいます。絶対に、ぜーったいに!落とさないように肌身離さず持ち歩いてくださいね。では、解散♡」
セルティア先生のその一言でみんな席を立ち、それぞれの行動に移った。
「ねぇねぇノアちゃん」
立ち上がったノアの肩をポンポンと叩いて呼び止めたのは実に困った表情をしているアリスだ。
「どうしたの、アリスちゃん?」
「先生の説明を聞いても使い方がよく分からなかったんです。別に寝てたとかそういう理由ではなくてですね、あの えーっと――」
「じゃあ、俺が分かりやすく教えてあげるよ、アリスちゃん」
二人の会話に突然割って入ってきたのは、額に赤い丸の跡が付いているフェデルだった。
「フェデル、さっきまで寝てたでしょ」
「お、ご名答。何、俺のこと見てたのノアっち?」
「そんな訳ないじゃん。おでこだよ。お、で、こ」
と、ノアは自分の額に指を差し跡が付いていることを教えた。
フェデルはそれを慌てて手で覆い隠した。
「そんなことよりルイに早く会いたいんだろ?」
「え!?何で……そう思うの」
「表情に出し過ぎ。ばればれだよ」
「嘘!?」
「行ってきたら」
と言われたノアは、その言葉に甘えるかのように二人に背を向け宝物のクマのぬいぐるみを抱き直し「ありがとう!」と一言言ってから走りだした。
「俺に感謝しろよー!」
「その一言で今までのが台無しー!」
手を振っていたフェデルは手を振るのを止め小声で呟いた。
「あちゃー、俺余計な事言っちゃったかな」
「最後のは余分でしたね」
優しいアリスにまで言われたフェデルは頭の上に手を当て、「あ〜ぁ、失敗したぜ」とまた小声で呟いた。
一言だけ:ノアはめちゃくちゃいい子ですよね