第十一話 異世界の料理を
「やっぱりうるせぇな」
心に思っていたことがうっかり口を滑って発してしまった。それを思わず言ってしまったルイでさえ、まずいと思った。当然周りの人の反応からも同じような空気感が流れている。
それを言われてガルフが激怒することは目に見えて分かるからだ。
「何だとてめぇ!」
「先に吹っ掛けてきたのはそっちだろ?」
「調子乗んなよ」
「乗ってねぇよ。というか今話し掛けてくるなよ」
「そう言うのを調子に乗ってるって言うんだよ!」
しだいに二人言い合いがヒートアップしてくる。いつ戦闘が始まっても可笑しくはない。そんな状態だが先程の騒動でもガルフを宥めた濃い紫色の髪の青年、ロンドーが再び仲裁に入る。
「まあまあ、お二人共そこまでにしておいて。ガルフくんもさっき担任の先生に怒られたばっかりでしょ」
「指図してんじゃねぇ」
せっかく唯一話し掛けてくれるような存在の友達が抑制してくれたのに、それを跳ね除けるとは呆れたやつである。
「でもまた怒られるのは嫌でしょう、ね?」
「チッ、今日のところはみのがしてやるよ。でも今度会ったらそれがお前の最後だ!」
ロンドーは怒鳴り続けるガルフをなんとか引っ張って食堂の奥への消えていった。だから最後の方は聞き取りにくかった。
そんな奴はどうでもいい。今ルイが考えないといけないのは今日の昼食のことである。一応、クラスメイトのエレミーという女子生徒が職員室にセルティア先生を呼びに行ってくれている。騒動を収めるためでなく、結晶端末を貰っていないことを伝えるためである。
ルイたちがあれこれ悩んで頭を抱えていると、先刻セルティア先生を呼びに行ったエレミーが食堂に戻ってきた。
「みんなー、職員室に先生がいなかったよ。しかも誰一人もね」
「何それ」「職員室に誰もいないって何処に行ってるんだ?」「それよりも俺らの昼食の件についてだろ!」
とみんなの不満が溜まってきている。さらに空腹感も相俟って、苛立つやつも出てきた。
そんな中、ルイは食堂の机をバンッ!と叩いて勢いよく立ち上がった。
「よし!昼食がないと言うのなら、作ればいいじゃないか!」
そう提案したら、オーギュストも席から立ち上がり、何も言わず食堂の奥へ歩いて行った。
「そうだけど、お兄ちゃん料理出来たっけ?作ってたところなんて見たことないけど」
「俺を見縊るなよ、妹よ」
「でもお兄ちゃん家で料理したことあったっけ?」
「ない。……ないけど、なんとかなるだろ」
その発言にそれまで歓声を上げていた周りの生徒が一瞬静まり返った。そして聞こえるのは、不安の声。一度も料理をしたことが無いと自分でも言っているやつに任せてもいいのか。魔女が作ってそうな得体の知れない物が出来てしまうのではないかという心配をしている。
「大人数いることだし、みんなで食べれる物がいいよな。となるとやっぱり“カレー”が一番良いか」
「かれえ?それはこの地域では有名な物なのですか?」
「いいやアリスちゃん、俺らも知らねぇよ?エルフォード家ではよく食べるんだろうな。ね、ノアっち?」
「お兄ちゃん、そんな料理見たことも聞いたことも、勿論食べたこともないよね?」
「あれ?ノアっちも知らないの?」
「うん」
少し離れた地域に住んでいたアリスはともかく、この地域に住んでいたはずのフェデルも知らない料理。況してや同じエルフォード家の妹までもが知らないとなると、かなり怪しい物という疑惑が増してくる。
そんな視線を感じたルイは必死に言い訳を模索する。
「え、えーっとだな、遠い過去のそのまた昔のかなり古い本で見たことがあるんだよ」
「それどれだけ古い本だよ」
「お兄ちゃんってそんなに古い本も読んでたんだ〜」
「ノアは料理は何も出来ないから、アリス出来るか?」
「やった事無いけど、お手伝いくらいなら、頑張る!」
「よし。あとは厨房を使っていいかの許可が必要だな。ダメと言われたら終わりだが」
「やぁ、丁度話し合いが終わったようだね」
突然ルイを背後から呼んだのは、先程食堂の奥 厨房の中に入っていったオーギュストだった。
「もう厨房を使ってもいいという許可は取ってきたよ」
「仕事が早いな。そうと決まれば早速カレー作りに取り掛かろうか」
「かれぇ?そんな料理は聞いたことないな。何だいそれは?」
「それに関してはまた説明が長くなるから、省かせてもらうぞ」
厨房に入るとそこはとても広く、エクシード魔術学園の生徒全員分の食事が作れるだけの広さを有していた。
その広いキッチンの一つを借りる事が出来た訳だが、材料や料理器具が何処に仕舞ってあるのかまったく分からない。
「オーギュスト、ちょっとここの料理人の人を一人連れてきてくれね?」
「了解した」
暫らくするとオーギュストは一人の料理人を連れてきた。
「こちらは、ここの料理長さんです」
「……え?」
連れてくるのはそこら辺の料理人で良かったのに、オーギュストはわざわざ料理長を連れてきたのだ。
理由はカレーという料理長でも聞いたことない料理を作るという生徒に興味を示したようで、それが美味しいものだった場合レシピを教えてもらった上で食堂の新メニューとして出そうと考えているということをルイに話した。




