第一話 憂鬱な日々の最後の試練
初めましての方は初めまして。
今回から新しい物語を書いていきます。毎日投稿するのは辛いので更新が遅くなるかもしれませんがすみません
十話までなら頑張って毎日投稿したいものですけどね
感想で頂いた気になる点を修正していきます。
――世界はつまらない。
いつから考え始めたのか忘れたが、この少年は近頃そんなことを考えている。
神様も魔法も非現実だと言い、つまらない事に必死になっている大人が嫌いだ。
これなら、遠い昔の宗教戦争していた頃の方がよっぽどマシだと思っている。
少年は少しでも世界を、いや日常を変えるために今は、高校最後の“勝負の夏”と言われる時期に自主休校している。……残念ながら『引きこもり』である。
既に受験勉強を放り出して、ネットにのめり込んでいるところからして、廃人だと自分でも自覚している。親や学校の先生に何度注意されても、まったく心に響いてこなかった。
【世界か自分、変えるならどっち】と聞かれた際には迷わず、【世界】と回答するほど、性格が捻くれている。
そんな少年、瑠偉は平成生まれの少し中二病気質の高校生三年生で、考え以外は至って何処にでもいるような少年だ。黒髪に黒い瞳と普通の日本人である。ヒキニートと化してからと言うもの体を動かしていないため、高校指定のジャージを着ていても運動が出来ない。
しかしそんな引きこもりの彼も今、夏休み中の一つ下の幼馴染みの女子と家が隣同士だからという理由で、家族ぐるみで川へと遊びに来ていた。
少しでも気を紛らわそうという配慮だろう。瑠偉は放ておいてほしいと思っている訳だが、なんとなく付いてきてしまった。
今回の家族ぐるみのバーベキューでは瑠偉の家の大黒柱であるお父さんは仕事のため不参加である。そのため、移動は綾音の方のお父さんに頼んでここまでやって来た。
「ねぇ、なんで瑠偉くんはここまで来てもジャージ着てんの?暑くない?」
「別にいいだろ」
「いいけど、見てて暑苦しいわ〜。てか、高校行かなくなったのに、高校のジャージは着るんだね」
この人の気持ちを考えて発言しない女子が、瑠偉の幼馴染みである。瑠偉が、いや、瑠偉だけではなく人が突かれたくないと思っているところに平気な顔でズカズカと物を言ってくる。
「お前、学校でも友達少ないだろ……」
「ん、何か言ったー?」
「いや、何にも」
最初にジャージについて絡んできた後、少し離れた場所まで歩いて言ったというのに、瑠偉の独り言のような小声に反応してきたのだから、地獄耳かと思わせるような聴力だ。
「綾音もこっち来て魚釣れよ」
「嫌だよ、瑠偉くんがやればいいやん!うちはあっちで遊んでるからさ」
一つ下というのにこの口の悪さである。大体、一つ上の先輩である瑠偉を敬うという気待ちが一切ない。小さい時から一緒に遊んでいたというのもあるかもしれないが。
まだまだ、書きたい悪いところはいっぱいあるが、それを書いていると一話が終わってしまいそうで止めておくことにしよう。……後から幼馴染みの綾音がこれを読んだら、殺しにかかってきそうで怖い。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
暫く経って必要な分の五ひきは釣れたから、魚を入れたバケツを持って綾音と一緒に家族の元へと戻った。
戻ると、親達がバーベキューの準備をいそいそと行っていた。戻ってきた瑠偉に気が付くと瑠偉の母親は手を振った。
バケツに入った魚の量を見るなり、頭を撫でてくる。
「るー、こんな特技があったのね、今度パパと釣りでもしに行ったら?」
「嫌だよ、疲れるから。極力家から出たくないんだってば」
「だからって、高校へは行かないとダメでしょ?」
「そうよ、瑠偉くん?綾音なんて瑠偉くんと同じ学校がいいって行ってあの学校に入学したのよ?」
「ちょっ、何言ってんの!?」
親の話を横で聞いてきた綾音が飲んでいたオレンジジュースを吹き出して顔を赤らめている。
その後は瑠偉を抜いて皆は楽しく和気藹々と話が弾んでいる。瑠偉は食べかけの焼き鳥を一本だけ持って、皆のいる場所から少し離れて川辺まで移動し、岩の上に座り込んだ。
「はぁー……何のために来たんだよ」
川の流れを見ていると心が安らぐようだった。そして焼き鳥を食べ終わり立ち上がった瞬間足元が滑って転けた。割と浅瀬で転けたのだか、岩が水で濡れていたため、瑠偉は溺れかけた。いや、泳げないから溺れている。
「ぶふぉっ!!……おぼっ!」
はっきり言って、冷静に落ち着いて足を真下に伸ばせば普通に立てる深さである。しかし、泳げない瑠偉にとってはそんなことは考えてもいなかった。
必死に助けを呼ぼうとしても、水が邪魔してうまく喋ることすら出来ない。
一方で瑠偉以外の皆はまだ、彼が死活問題に直面していることを知らない。
手足をジタバタして無駄な体力を使ったせいで、溺死してしまった。それはその日の午後のニュースで『浅瀬で溺れた高校三年生』と報道されてしまった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「――くん、起きてください。橋宮 瑠偉く〜ん?」
耳元で誰かが彼を呼んでいる。その高く綺麗な声からして少女だろうと予測する。その少女は名前を何度も呼ぶと同時に、肩を激しく揺らしてくる。患者への接し方がなっていないぞ、と怒ってやろうか。
「どうして返事がないのかな?もしかして、名前が違うとか?……でも、合ってるよね〜」
「ちょっと、頭に響くん――」
ゆっくりと目を開くと、瑠偉は言葉を失った。てっきり自分は病室で寝ていると思っていたからだ。しかし、目の前は何処を見渡しても白色だが、壁が存在しない。
そんな空間に死んだはずの瑠偉と少女と二つの豪華な飾りが施された椅子があるだけで、他は何も無かった。
その見知らぬ少女はナース服ではなく、白いワンピースを身に纏っていて、長く神々しい金髪を靡かせていた。
よって確実に分かる事は、ここは病院ではないということだ。
「やっと起きてくれましたか」
と少女はそう言うと、瑠偉が座っている椅子と向かい合う形で置かれた椅子に静かに腰を掛けた。
「あの――」
「君は本当に起きるのが遅い!私が何回君の名前を呼んだと思ってるの?五回だよ!?ご・か・い!」
どうしてたった五回で怒っているのかは知らないけど、その前にこの状況を説明してもらいたい。少なくともここが何処なのかと、この子は誰なのか。
「いや、それは……、ごめん」
「何?」
「ごめんなさい」
「もう、口の聞き方には気を付けてよ」
凄く偉そうにしているけど、背は瑠偉よりも五センチくらい低い。いったいこの少女は何者なのだろう。
それにしても、少し怒らせてしまったかな。そうなると、この後がとても聞きづらい。けど、
「あの、お嬢さん。この状況を説明してもらいたいのですが」
「だ、誰がお嬢さんよ!!私のことは神様と呼びなさい!」
「あぁ、すみません。神様、この状況の説明をお願い出来ますか?」
もう一度、神様にお願いした。瑠偉の頭の中では神様に会えて嬉しい、と思っているけど、周りから非現実だと言われ続けたせいで、本物に会えても実感が湧かなかった。だが、少し頭の中を整理すれば、本当のことだろうと信じるだろう。
「……分かりました。君はさっき惨めに溺れて死んだんだよ」
神様は酷く端的に説明した。溺れて死んだたことくらい 瑠偉はとっくに理解していた。惨めは余計だとツッコミを入れる間もなく、神様は両手をお腹に当て足をばたつかせて笑う。
「あはははは、まさか泳げないとは思わなかったわ」
「泳げないことを笑うなよ!」
「別にそこはどうでもいいわよ。泳げない人間なんていっぱいいるんだから。ただ君の場合は足を伸ばせば届くものを勝手にもがいて、勝手に死んでるんだからいい笑い者よ。久しぶりに笑えたわ、ありがとうね」
足を伸ばせば助かっていた?それを聞いた瞬間瑠偉は自分が馬鹿らしく思えてきた。
(何が『ありがとうね』だ。俺は神様を笑わしてあげようと思って溺れてみせたんじゃねぇんだよ)
たいぶ話が逸れたが瑠偉が今聞きたかったことはどうして自分は天国や地獄に逝かないのか、ということであった。
「それはそうとあの神様、天国とか――」
「言いたい事は分かってるってば。けど、そんなことはどうでもいいの。……橋宮 瑠偉くん、君は世界をつまらないと感じていますよね?」
突然の神様からの質問に、瑠偉は一瞬固まった。しかし、瑠偉には質問の意図がすぐに分かった。