第五話
あのあと俺はアリスちゃんと呼ぶ度にチョークの攻撃を受け続けた。
慣れてくればかわせると思ったけど、一向にかわせない。
もしかしたらチョークはアリスちゃんの武器で、特殊な能力がついているのかもしれない。
まあ、これで先生も俺のこと覚えてくれたはず。
職員室で制服を着替えて今はメリーと二人で教室にいる。入学式が終わるまで待機だ。
本当に俺とメリーはアリスちゃんのクラスらしく、一年B組の座先表に俺たちの名前を見つけた。
教室の席は6列で黒板に向かって右の廊下側の2列は6席ずつ、それ以外は1列が7席で40人分だ。
俺は真ん中の左側の列の後ろから二番目、メリーは同じ列の一番前だ。
今は誰もいないから俺のすぐ前の席に座っている。
「ナギ様、おでこ、大丈夫ですか?」
「まだ、ちょっとヒリヒリする…」
「うぅ…こんなに治癒魔法が使えたらと悔やんだことはありません。」
メリーは俺のおでこを心配そうに撫でててくれている。これだけでも俺にとっては十分すぎる手当だ。
女の子の手ってホントにスベスベで柔らかい…。
といってもいつまでも堪能していると男のダメな部分が出そうなので名残惜しくも手を離してもらい、話題を変える。
「もうだいじょぶ、ありがと!ところで俺たちと同学年くらいだとみんなどのくらい魔法使えるのかな?」
これはずっと俺が気なっていたことでもある。高等部からの編入でずっと屋敷の中で暮らしていた俺は、同世代の人がどの程度魔法を扱えるのか知る術がなかった。
義妹のルーシィは天才すぎて参考にならなかったし。
「そうですね。同級生のレベルですと、中級魔法をいくつか詠唱破棄、上級魔法を詠唱有りでも使えたら優秀な部類でしょうか。」
「え。うそ。」
同級生のレベルを聞いて俺は愕然とした。
お話にならない。
魔法にはまず属性があり、使える属性は生まれたときに決まっている。普通は2.3個属性を持っていて、4つ以上属性があれば魔法使いとしての期待値は高い。
属性は火・水・氷・雷・風・土の自然属性と光と闇の特殊属性で、特殊属性は少しレアだ。
属性ごとに魔法の難易度が初級・中級・上級・最上級とある。その上の難易度も存在するがそのレベルは一人では発動できない難易度らしい。
初級魔法だけは各属性一つしかないが、その他の魔法は無数に存在するらしい。
魔法によって詩のような詠唱があって、詠唱のあとに魔法名を唱えることで魔法が発動する。
さらに、その魔法を使い込むことで詠唱なしでも魔法名だけで魔法が使えるようになる。
というのは俺に勉強を教えてくれたキサラギさんに聞いた話だ。
俺には初級と中級の間、中級と上級の間にどれほど難易度の差があるのか分からない。
なぜなら、おれは中級以上の魔法を発動できたことがないからだ。
使える魔法は詠唱有りでの初級魔法とエルねぇにもらった術だけだ。
俺は同級生と比べて魔法のレベルが低すぎる…
これは魔法で優秀な生徒になるのは無理そうだな、他を頑張ろう。
「同級生のレベルはそんなものですよ。私なんて中級魔法を詠唱破棄できない落ちこぼれですけど。」
それって詠唱有りなら中級も使えるってことだよな?
これは相当やばいぞ、俺。落ちこぼれと言われるメリーより落ちこぼれだっ……!!
メリーは俺が同級生のレベルが低くて驚いてると思ったようだけど、逆だから!
早いとこ訂正しとかないと!
「あのさ、メ――」
「おい、そこ、オレの席だ」
俺がメリーの勘違いを正そうとしたとき、メリーの横に赤髪の女生徒が立っていた。
デカいな。俺より10cmは高いかな?
「聞こえなかったか。どけ。オレの席だ。」
「あ、すみません…」
突然のことで固まってしまっていたメリーは再度声をかけられてやっと席を空けた。
というより二度目は命令だったか。一人称も「オレ」だし怖そうな女だなぁ。
「メリー、入学式が終わってみんな教室に来たみたいだ。俺たちも自分の席に着こう。」
周りを見ると続々とクラスメイトが教室に入ってきて座席表を確認している。
「はい、ナギ様。それではまた後程。」
メリーが席に戻ったところでもう一度周りを見渡す。こうして見ると色々なやつがいる。
獣人族によく見れば鳥人族もいる。この国では人といえば、人族に獣人族、鳥人族、エルフやドアーフまで含まれる。
もっとも、エルフやドアーフは人の街での生活に馴染まないから、目にすることもほとんどないけど。
「お前ら、静かにしろ。席に着け。5秒後に騒いでいる奴はシバき倒す。」
あ、アリスちゃんが教室入ってきた。思った通り同級生たちは突然入ってきて偉そうな子どもにざわつき始める。
「…5秒だ。」
「イテェ!」
「ぐべっ」
「なんでっ!」
アリスちゃんは騒いでる中でも特に目立っていた数人にチョークをお見舞いした。
なぜか静かにしていた俺のとこにも飛んできたけど覚えてもらえていたということで前向きに捉えよう。