第四話
「ナギ様!ご洋服が汚れてしまいます!!私は大丈夫ですから!!」
「そんなこと言ってもメリーの制服、泥んこだしそのままにもできないでしょ。ていうか俺が口調戻してもメリーはそのままなんだね。」
「私はこちらの方が話しやすいだけですので、お気になさらないでください。」
俺のメンタルが立ち直ったところでメリーの制服が問題になった。丁寧口調は諦めることにする。
無理していたことを指摘されると死ぬほど恥ずかしかったし。
メリーはクズどもに絡まれたときに地面に転がってしまったせいで新しいはずの制服が泥だらけになっていた。
俺の上着をかけようとしたが頑なに拒まれてしまう。
どうしよう、このまま入学式にでるわけにもいかないし…
…入学式?
「メリー、今何時かわかる?」
「はい?少々お待ちください。…もうすぐ9時になるところです。」
メリーは時計を出して確認してくれる。うん、なるほど
「そっかありがと。…ところで、入学式って何時から?」
「はい、受付が8時からで、新入生の入場は8時半からだったはずです。」
…やらかした!!!!入学式から遅刻とか!!!!!
この校舎裏で一時間近く時間を潰してしまった!!
仕方なかったとも思うけど、入学初日から教師に目をつけられるのは俺の本意じゃない!!
「メリー!!とりあえず講堂に向かおう!!!」
「えっ、あっ、はい。」
制服のことは何も解決してないけど、ひとまず入学式が行われる講堂を目指した。
「ナギ様、申し訳ありません。私のせいで迷惑をおかけしてしまって…」
俺の焦りがメリーにも伝わってしまったようで、何度も頭を下げている。
「謝らないでいいよ。俺が好きでしたことだから。」
とはいえやはり気持ちは焦る。こんなところでつまづくわけにいかない。俺がこの学園に来たことには大きな目的がある。
それはエルねぇの行方を捜して再会を果たすことだ。
この学園は正式名称を「マチスブルグ王立魔法学園」といい、この国、ランティス王国最大にして唯一の魔法を中心に学ぶ教育機関だ。
マチスブルグは学園のある都市の名前で、ここは学園を中心に街が回っている。
国で随一の教育レベルを誇るこの学園には、国中から優秀な魔法使いや貴族の子息が集まってくる。
さらに優秀な生徒はこの国だけにとどまらず、早い段階で国外へ研修へ行ったり、特別な地区への立ち入りを許されたりする。
屋敷に引き取られて落ち着いてから、俺は父さん、ルドルフに俺たちが暮らした森を確認してもらったけど、そこは一面焦土と化していて、生き物の影はなかったらしい。
でも、エルねぇは絶対どこかで生きている。俺はそう信じているし、絶対に会いたい。そのためにこの国中、世界中でも探し回ってやる。
しかし、俺個人としては国も渡れなけば捜索できる範囲も限られてくる。
そこで色々な情報が集まり、行動範囲も広げられるこの学園への入学を勧められたときはチャンスだと思った。
さすがにこの国一の学園ということで入学試験はめちゃくちゃに難しかったが、キサラギさんのおかげもあって何とかパスできた。
あとはこの学園のなかでも優秀な生徒になってエルねぇを探しにいこうというところなのに…
「くそっ。入学式から遅刻とか完全に問題児じゃんか・・・」
思わず口をついてしまった言葉にメリーがまた申し訳なさそうな顔をしている。
さっきから講堂の中に入れないか様子をうかがっているけど、入口は完全に閉じられ、先生らしき人も外には見当たらない。
これはもう打つ手なしか…
「ナギ様!あれ…」
メリーの声に振り替えると講堂からドアをあけて出てくる人影が見えた。もう入学式が終わっちゃったのかな?
しかし、出てきたのはその一人だけであとは誰も出てこない。しかもその人影は小さすぎる気がする。
俺が一人、あとをおって姿を確認してみると――
「…子ども?」
講堂の入口の近く、茂みの近くに、長い黒髪を地面すれすれまで伸ばした、10才くらいに見える女の子が立っていた。
――タバコを吸いながら。
女の子は俺に気づいて振り返って――
「ほげっ!!」
チョークを思い切り眉間にぶち込まれた。
ってか痛っ!!何でチョーク!?
これはチョークの出せる威力を明らかに超えてる!!
「教師に向かって子どもというやつがあるか、たわけめ。」
嘘でしょ?この学園はこんな小さい子が魔法を教えてるの!?
「ナギ様!!今の声、大丈夫ですか!!?」
俺の無様な声を聞いてメリーも駆けつける。俺は痛みと混乱で、涙目になって額を押さえてかがんだまま立つことができない。
「貴様ら新入生だろう?何をさぼって……。なるほどな。」
半ギレだった女の子は駆けつけたメリーの姿を見て何か納得したようにうなづいた。
「お前ら、名を名乗れ。」
すごい偉そうだけどまたチョークをぶち込まれてもたまらないから素直に名乗ることにする。
「ナギ……バスカビルです。」
「?メリッサ=コーエンと申します。」
俺が名乗ったことで、よくわかっていない様子のメリーも続けて名乗る。
「やはりな。私はアリス=エッグルト。お前らは私の担任クラスだ。エッグルト先生と呼べ。」
マジでこの人が教師やってるの?しかも担任…。
先生って呼ぶのにはかなり抵抗があるね。
「何があったのかは大体わかる。とりあえずコーエンは制服を着替えるぞ。どうせ今から入学式なんて出ても大したことしないし、お前らはホームルームから参加で許してやる。」
見た目によらず、頼りになる感じだ。入学式をかなり軽視してるけど。この人途中でタバコ吸いに出てきちゃってるし。
でも今はそれがありがたい。入学式遅刻のお咎めは免れそう。
「え?ナギ様、この子、先生ですか!?」
「どうやらそうらしいよ?とりあえず、何とかなってよかったね!」
俺が笑いかけるとメリーはほっとした表情になる。
ちょっと余裕なくなってたから、メリーを不安にさせてしまっていたようだ。
「ほら、替えの制服なら職員室にあるからついてこい。」
エッグルト先生が俺たちを先導して歩き始める。…やっぱこの呼び方は違和感しかないな。
違和感ない呼び方で…よし。
「ありがとう!アリスちゃん!!」
直後、本日二度目のチョークが俺の眉間を襲った。