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オオカミ少年と嘘つきな魔女  作者: 凪
プロローグ
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プロローグ

 草木の緑に反射した光が眩しい。気を抜けば地面の木の根に足をとられそうだ。

 人里からは遠く離れた森の中。俺は白い狼と共に獲物を追っている。獲物はまだ小さい猪、狼は小さいころから一緒に育った兄弟でシロと呼ばれている。


『俺の足じゃ逃げられちゃう!二手に分かれるよ!』


 シロに回り込ませて俺が追い立てる。常に俺が風上に立つように追いかけ潜ませたシロの匂いを気づかせない。以前、役割を逆にして試したけど俺には確実に仕留める瞬発力が、シロには風向きを気にする頭がなく失敗に終わった。

 そして俺の体力も限界に近づいたとき、木陰から飛び出したシロの牙が猪をとらえた――



 俺はこの森で狼の群れの中で育てられた。なんでも俺は赤ん坊の頃に森に捨てられていたらしい。人である俺を群れに迎い入れてくれた群れの(おさ)には頭が上がらない。種族の違いから苦労することも多かったが、俺が拾われて少しして生まれたシロと一緒に本当の兄弟のように育ててもらった。

 それと、俺が今まで無事成長できた最大の要因が…



「エルねぇ!見てよ、シロと猪獲った!!」


「ナギ!!すごいわ!でもケガはない!?」


 このひと、エルシィ姉さんだ。俺が拾われた後にこの群れに訪れて俺の世話をみてくれている。「ナギ」という名前もこのひとがつけてくれた。

 森の色の髪と瞳をしていて、耳がツンとしている。本人曰くハーフエルフは人里の生活に馴染まないのだそうで、ほとんどの時間、俺たちの群れと行動を共にしている。


「平気!それよりも俺、魔法が使えなくても狩りができたんだ!」


 そう、俺は生まれつき魔力がない。狼たちも風を纏うなど魔法を操るし、人間は普通、それよりも高度に魔法を駆使するらしい。対して俺は狼より体が弱く、操る魔力すらない。

 幼いながらもどうして自分が捨てられたのか理解できた。


「ええ、すごいわ。本当に…」


 エルねぇは泣きながら俺を抱きしめて頭を撫でてくれた。ちょっと照れる。

 エルねぇの見た目は10年前から全く変わらない。もう10年もすれば見た目では俺のほうがお兄さんになってしまうのではないだろうか。


「シロも、えらい。」


 エルねぇはシロも抱き寄せてその白い毛並みを撫でた。シロもじゃれるようにその手にすり寄る。シロの毛並みは群れの中でも最も白く柔らかい。俺とエルねぇの一番のお気に入りだ。


「それじゃ、狩りを成功させたお祝いにプレゼントをあげよっか?」


「ほんと!?」


 前にプレゼントとして手袋のように装着する鉤爪をもらっていた。牙も爪もない俺ににとっては狩りには欠かせない武器になっている。

 そして狩りの必需品であると同時に、大好きな人からもらった宝物だ。


「ほんと。でもまだ準備してないし、渡すまでもうちょっと待ってね。」


「まつ!」


 また宝物が増えると思うととても待ちきれないが、わがままを言ってエルねぇを困らせてもつまらない。楽しみに待つことにしよう。




 ――――――少し時間が飛んで次の日の夕方。森の中は地獄と化していた。


『敵襲だ!!敵の数は40以上!狙いはわからん!!』


『子どもたちを集めて守れ!戦えるものは人間を迎え撃つぞ!!』


 おとなの狼たちが遠吠えで敵襲を知らせている。すでに敵は森に入り込んでいるようで各地で魔法の炎や雷が森を蹂躙している。

 俺とシロはエルねぇを探して森を走り回っていた。


「エルねぇ!!どこぉ!!?」


 なかなか見つからない不安と恐怖で涙があふれそうだった。


「ナギ!!こっち!!」


 ようやくエルねぇと合流した時には、もう半べそだった。


「エルねぇ!みんなが襲われてて…」


「わかってる。早くこっちへ!シロも一緒でよかった…」


 エルねぇは俺の手をとって一直線にどこかへと向かい始めた。それは騒ぎの方とは逆方向だったが、エルねぇはなんでも知っててたくさん魔法も使えるので、きっと俺の想像もつかない方法で敵をやっつけるんだと思っていた。


「ナギ、シロ、よく聞いて。もう森も群れのみんなも助からない。」


「え?」


 しかし、エルねぇの話は俺の想像とはかけ離れたものだった。

 たどり着いた場所には魔法陣が作られていて、話し始めたエルねぇの顔はちょっと怖かった。


「敵の狙いは私。そして、やつらは関わったものは一切逃がすつもりはない。古の狼の魔物であろうと。」


 どうしてそんなことがわかるのかという疑問も言葉にはならなかった。


「でもナギの存在は知られていない。ナギだけなら逃がしてあげられる。」


「俺…だけ?」


 シロは?群れのみんなは?



「でもね、魔力のないナギは人の社会のなかじゃ生きていけない。」


 それは…捨てられたことからもわかってる。



「そこで、魔力はあるけどここから逃げられないシロ。ふたりを合わせる。」


 合わせる?


「力を合わせるってこと?」


「それもあるけど…」


 エルねぇはやっと少し笑ってくれた。



「ナギの体にシロを宿す。」


 また真面目な顔になってエルねぇは魔法陣を指した。


「そういう術があるの。そのあとは私が転移魔術で森の外に飛ばすから近くの村を目指して。」


 俺とシロはわけが分からぬまま、魔法陣に入った。そこから何があったのかよく分からないが、エルねぇはこれからのことを説明してくれた。この森でのことやエルねぇの術のことは話しちゃいけないこと。人の社会では周りに合わせて生きなければならないこと。ごはんはしっかり噛んで食べること。

 覚えきれないほどのことを教えられたけど、エルねぇは額にキスをして、最後に、と前置きをして言った。



「ナギは賢いから、人間の社会でもうまくやっていける。シロはナギのこと守ってあげてね。最後に待たせてた私からのプレゼント。私の術をひとつあげる。前に見せたはずだから術名だけで発動できるよ。術名は――――」


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