そこに住まうもの達 5 ≪討伐依頼≫
哲也はレベル30になるとドラダ王に呼ばれ謁見の間に来ていた。
「おお、勇者殿お待たせした」
しばらくすると王は、そう言って玉座に座り片手を上げて何か指図する。
近くの者が近づいて来ると赤い石の乗ったものを自分へ向けた。
「これは?」
「魔核石と言うものです」
その者はそれを受け取ると元の位置へと戻って行った。
「その剣の柄の所に、魔核石を入れる場所がある」
言われてよく見ると3つ確かに何か入りそうな部分があった。
「赤魔核石はレベル30から使用可能となる」
哲也は剣の穴に魔石を入れてみた。赤く一度光ると石はまるで、初めから
在ったようにきれいに埋まり込んだ。
「魔石は魔法を封じ込めた石と説明すれば、ご理解いただけますかな」
神官レギナが横から説明を始める。
「炎系の魔力を持つ赤魔核石も使用する事で強さを増します」
哲也は武器を腕輪に戻す。腕輪にすると腕輪の横に魔石が付いていた。
ステータスを確認すると、爆炎斬というスキルが増えていた。
「なるほど、炎の剣になったと言う事か」
「それで、今回。御呼びしたのはこれとは別に依頼したいことが
ありまして、最近各所に出没する黒い魔物を討伐して頂きたい」
「黒い魔物?」
「冒険者によって討伐を試みましたが、失敗に終わり多くの犠牲者が
出ましたので、勇者殿に依頼が来た所です」
「分かりました。では他の者と向かいます」
哲也は他の二人を誘って、黒い魔物の討伐に向かって行った。
そして、彼らが出かけたのを確認した神官レギナはほくそ笑んでいた。
「しかし、神官殿。冒険者に死亡者は出ておりませんが?」
その横の騎士風の者が呟く様に神官に告げる。
「犠牲者とは敵わないと言う事ですし、それに不殺だかしりませんが
まったく折角捕まえた牝奴隷を開放している厄介な魔物ですからね。
このところ魔石の入手もアレのおかげで儘ならず困っていたのです」
「勇者殿では根絶やしにしてしまうのでは?」
「まあ、仕方ないでしょう。アレは放置する訳にいきませんので
適度に間引いて活用したいと言うのもおかしな話ですからね」
「確かに魔物から救えと言って呼び出したのですからな」
「今度の勇者も、魔物を狩りつくせば絶滅するとは思っていないようですね」
巫女服の女が口を挟む。
「ポップが如何のとか聞きましたので、勇者の世界では本当に沸き出る様に
魔物が現れる世界なのでしょう」
数日後、勇者により黒い魔物とその巣らしい場所を壊滅討伐に成功したとの
報告が神官の元に届いた。
「やはり、熊獣化族は絶滅しましたか」
「予想通りでしたな」
騎士風の男は相槌を打つように答えた。
その横で巫女服の女が言う。
「しかし、牝を数十匹捕まえたと聞きました」
神官はしばらく上を見て思案してから口を開いた。
「仕方がないですね。似た種と交配させて雑種として残せるか試しましょう」
その言葉で巫女服の女が、にやりと笑い。
「丁度、手元に数匹の犬系の雄が居ますので早速楽して見ましょう。
熊と言えば、祖先は犬科と同じと聞きますので、人犬系の雄を用意して
互いに幻惑の術でもって同族と思わせれば済むと思います」
そう告げて巫女服の女が、すっとその場から離れていく。
「仮に養殖できるようなら、いっそのこと増やし続けさせるのも良いかも
しれませんね」
「流石に、それでは、食費や施設などの経費が嵩みます」
「それもそうですね。あくまで勝手に増えてもらうのが理想です。
万が一の時ですよ。出来る様にして置くと言う事です」
「しないのと、出来ないは全く別の事ですからな」
「特に妖精族系は養殖出来れば、魔核石が自在に手に入る事になるので
多少のリスクは大目に見ますよ。シシアさん」
シシアとは既に、この場に居ない巫女服の女であったが神官は告げた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
シシアは自分の研究室へと足早に戻った。
「現在の箱庭の状況はどうなっている」
「はっ、出産率は40%まで上昇しましたが、生まれてすぐ魔石化する
のが約7割ほどで生存率はさらに5割程です」
「それは交尾させた6%しか成功していないと言うのではないか」
「はっ」
「今のところ優秀な雄を3体用意しろ、多種交配実験用だ」
「では、若く生きの良さそうなものを御用意させます」
「今回は薬は使わずに魔法で行う。リーベストランクとアネステジーアが
使用できる者を探せ」
「魅了系は巫女達にいるでしょうが、麻痺となると薬師系ですね。
現在の都市には薬師系はなかなか」
「見つけ出して連れて来い」
「はっ」
「返事ばかりではなく実績を見せてほしいものだな」
「も、申し訳御座いません」
「いや、お前に言ったのではない」
「神官レギナ様ですか」
「何か成果が欲しいところだな」
「あの方は、現場を分かっていないのですよ。環境を構成して・・・」
部下の愚痴りをシシアは片手を上げて止めた。研究員らしき白い着物を羽織った
男は、頭を下げて持ち場へと戻って行った。
「どうしても見つからない場合は、睡眠魔法で代用するしかないか」
出産室に着いた男は、生まれたばかりの子犬へ光を射てると魔石へと変わる。
ラインに乗って来る子犬へ次々と光を射て魔石へ変えて行き、予定の魔石が
揃うと残りの子犬には何もしないで、ラインを通過させていく。
初めの内はあくまで死産の魔石であったが、研究室からでる魔石にノルマが
いつの間にか課せられるようになり、こうして魔石にしないと予定の数が
用意できない位に、シシア達の研究は成功しつつあったが、こう要った事情を
シシアと多くの研究員達は知らないでいた。
絶滅保護を理由に作られた施設は今や、魔石製造工場へと知らぬ間になって
それも研究員数名しか、その事実を知る者は居なかった。
「しかし、熊なんて繁殖低いのと交尾させるなら、このままの方が魔石の生産
効率いいだろうが、上の考える事は分からんな」
そして予定のない子犬を3匹、適当に魔石に変えると懐に仕舞い込む。
「まあ、俺は今日で任期が終わる。二度と会わんだろうが元気でな」
それは誰に言った言葉なのか、その場には彼以外の人間は居なかった。
男は同僚達に挨拶をして研究所を後にする。
2年。そう彼が問題のない子犬を殺し続けて2年である。
初めは、もう助からないと分った子を苦しまない様にするのも手が震えた。
しばらくして、手の震えも無くなるころ、ノルマが足りない事を叱られた。
先輩から、ノルマの数だけ先にやっておくんだよと言われ、最初理解出来な
くて、次第に意味が分かると、それならと小遣い程度に余分に魔石を作った。
そして自宅の部屋に3つ持ち帰る日々。
今日の3つを足して1098個の魔石の入ったものを背負い袋に仕舞い込む。
アルクの加護から離れた場所に行く事だけは決めていた男は、護身用に独鈷を
買い求めた。3種類の独鈷を買い。都市の外へ出る。
そして買った1つの独鈷を握りしめると男はその場から消えていた。