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そこに住まうもの達 2 ≪森林妖精≫

二人はいったん木の根の穴に戻っていた。

毛布を二折りにして山の部分を短剣で丸く切り抜くとセダはアイリに被せて

開けた穴から妹の顔を出させると両手を横に開かせて包む様にして腰辺りに

紐を巻き付けた。簡易防寒服。妹は獣化できる訳ではないから全身を毛で

覆ったりすることもない。これから北西に向かうには、夜には少しまだ肌寒い

毛布は移動中の野宿の時、そのまま寝袋代わりにもなるだろう。

オルセスから渡された袋の中に入っていた干し肉はこの三日間で殆んど

無くなった。だから狩りをしながら二人は西北に向かう事にした。


セダは全裸になると四つん這いになる。やがて、そこには銀色の大きな躯体の

オオカミとなった兄がいた。


「荷物を背負ったら乗れ」

「はい」


兄の毛は別に銀色ではなかったが、獣化した場合にだけ色が変色する。


「あ、あの・・・重くないですか」

「ん?今の俺には鳥の羽1枚程度にしか感じないぞ」


その言葉の意味も解さない様な素振りで兄は走り出した。

実際には兄が避けながら走っているのだが、アイリにとっては、まるで

木々達が、自分たちの進む事を損なわないように避けてくれているかの

様に、森が割れていく。


アイリは兄の背に顔を埋め、体を寄り添わせた。こうしている方が走り

易いと昔から言われているのを思い出した。


「ねぇ。おにいちゃん」

「なんだ」

「西北のどこに行くの」

森林妖精(シルヴィ)の所だ」


夕暮れまで走り続けたセダは、太い木の枝に飛び乗ると人に戻り野営の

準備に取り掛かる。太い枝に紐をかけて枝と枝の間にネットのように編み

込んで扇型のハンモックを作る。さらに地面まで届く2倍程度の長さにして

二折りにした紐を一度、枝に通してから、双方同じ長さのの位置にまず団子

結びをして片方の紐を団子から20センチ位にまた団子を作ると、左右の

反対の団子の上で、20センチ位の所に作った団子を合わせて縛り下に

力が入ると団子が引っかかる様にする。交互に紐と紐と間に2本の紐が

付いた紐梯子になっていく。それをつたって地面へ到着したセダは薪にする

枝を拾いに周辺をうろつき始めた。


そんな兄を簡易ハンモックの上で横になりながら見ていた妹は、紐の隙間

から近くに川を見つけて、下に降りて向かって行った。

セダは枝を拾いながら、妹が移動している事を知覚して、その動きを確認

する為に立ち止まっていた。


「ああ、水か」


そう呟いて、落ち枝拾いを続けた。

もうこれくらいでいいかと木の下に戻ると、妹が石を組んで待っていた。


「良くできているな」

「えへへへ」


嬉しそうに笑う頭に手を乗せて撫でる。

その石が囲む中央に枝を置き、ポケットから火の水を数滴たらすと


「炎」


と、唱えた。火の水に引火し枝を燃やして火が付く。

枝を3本取って先を紐で縛る。これを2つ作ると、火の横に立てた。

それに長めの枝を乗せると、火の上の枝に水が入った袋を垂らす妹。


皮袋で水を包み、上を縛った物だ。水は皮をつたって染み出てくるが

この状態で火にかけると、皮は燃えずに水が沸騰する。


沸騰したら少し火から話して、閉じた上の横に穴を開ける。

そこにコップを入れてお湯を取り出して、紅茶の葉を包んだ網袋を

入れて持って来る。


「はい。おにいちゃん」

「おっ、ありがとう。良い香りの紅茶だね」


嬉しそうに、今度は自分の分を作りに行く。


「そっか川ならシペがいるかな」

「細かったから、ちっちゃいのは居るかもだけど」

「じぁ、そろそろ寝るか」


軽く干し肉で夕食を済ませると、妹を先に寝かせて、再び獣化して

狩りに出かけた。獲物を咥えて川に行き内臓を捨て、水で洗い流す。

肉を切り出して、火の上に掛けると火力を調節する為に炭になった

ものを残して、枝をどかす。その上に十分隙間をあけて枝を組み

じわじわと火が回る様にすると自分も木の上に行き、紐梯子を

上に引き揚げてから妹の横に転がる。





☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆





森林妖精(シルヴィ)の村は、そこから彼の足で1日の距離にある。

深い森の中、霧が立ち込める場所にある。

それもその筈である。彼らは地に家は作らない。木々をツタで結び、空中に

野を作る。そのせいで、その下は昼でも暗い森になるのだ。

ツタとツタが絡み合い、それを木が支えその上に枯れ葉が舞い、やがて腐葉土と

なって、そこに木の枝から根が複雑に伸びて絡まり、またそれを木々が支える。

木と木が枝から伸びた根でネット様に絡み合い腐葉土を支える。

そして腐葉土に蓄えきれない水分は、ゆっくりと腐葉土を通過して一番下のツタの

下部に集まり、雫となって地面へ落ちる。それは湿気と霧になる。

森の奥、上空に浮かぶ、腐葉土の大地が彼等の住む村がある場所だった。


彼等の体長は平均50センチ前後、長寿の為90センチくらいになる者もいるが

妖精の羽を持つと言われているが、実際には体重が軽く飛んだ時の滞空時間が

長い為に、目に見えない羽があると考えられたからだ。

そしてそれに一役買っているのがトランポリンの様な木の根とツルと腐葉土の上を

跳ねて歩く為にそういう話になったのだろうと思われた。

そう、歩くというより飛び跳ねて移動するのだ。

それを見た何者かが、そう勘違いしても責める気にはなれない。


もしも現代人が大きなトランポリンの上に立ち、移動しろと言われたら歩くより

飛び跳ねていく事を、大半の人は選ぶだろう。それと同じ事である。

そしてトランポリンを知らいな人が見たら、やはり飛んでいると表現したろう。


「姫姉さまぁ~」

「何をそんなに急いでいるのですかチム」

「獣に乗った人がこちらに真っすぐ向かってきます」


ポンポンと5,6人のシルヴィ達も後から同じように駆けつけた。


「姫様、ご報告が」

「人が来るというのでしょう」

「はい」

「それで、その者はどの様な姿なのですか、シルフィ」

「はっ、少女の様に見えました」

「バリレ」

「はっ、ここに」

「バレイ、たしか話では男だった筈では」

「おそらく、予言とは別の者かと」


また、ポンポンと飛んで一人が駆けつけた。


「姫様、獣と娘はおそらく東の階段に向かっています」


バレイが口を挟む様に口を出した。


「間違いなく此処への道を知る者でしょう。

 あちらからなら、東の階段が一番近い。そう知っているとみて

 間違いないかと」


「では、話をしてみましょう。サック、念のため用意は怠らないように」

「はっ、では失礼します」


女王シルクスの前にテーブルと座席が用意されて行く。

そして、その後ろ木の陰に弓を構えた17名が居た。その一人は先ほど

サックと呼ばれた者だった。


シルヴィ達の持つ弓には矢は無い。矢は弓を引けば現れる。

それを持つ者の魔力を使って現れる。それは現実の矢とは異なり白く

実体のない、言わば光の様なもので弓の使用者の能力によって火の矢、

水の矢、雷の矢、水の矢、毒の矢、麻痺の矢と、いろいろ変化する。


更に、その下の枝には10名の銀の鎧を着た者達が、刃のない剣を手に

待機していた。刃のない剣の刃もまた同じように持つ者によって変わる。

右手の扇型の何かも、魔力を注ぐことで丸い光の盾となり魔法、物理共に

使用者の能力によって防ぐ事が出来る魔法のアイテムだった。

その彼等の任務は、弓隊の護衛である。


彼女達、シルヴィは戦いを好まないが、別に戦えない訳でも弱くもなかった。

単に好戦的ではないだけで、ここには女と子供しかいない。

子供のうちは男もここにいるが15歳になると下界に降りて暮らす。

女性は子育ての関係もあり、集団で行動するが、繁殖期以外の日は男性は

纏まらずに森のどこかに散って暮らしている。

唯一、例外の繁殖期になると男性は自身で作ったハープを持って現れて

愛の歌を歌い、女性を誘う。その歌が気に入った女性が応えて子を産む。

その為、自衛手段としてシルヴィは魔法を使えるものが多く、大抵の場合

10歳になるころには弓を引けば矢を放つ事も出来るようになる。


「さあ。そろそろ、お茶会の仕度をしましょう」


その女王シルクスの声で、テーブルの上にお菓子や果物が飾り立てられた。

妖精達の歌声に、草花達が花を咲かせて辺りを花畑へと変えていく。

花の香りに、彼女達が踊り出す。その踊りも飛び跳ねる様に空高く舞い上がり

空中で回転しては、跳ねまわるものだった。


目に入った、その光景に思わず「すごい」と漏らすオオカミの背に座るアイリで

あった。オオカミのまま、セダは王女の前にゆっくりと歩き出す。

内心、妹と違い彼は慎重だった。彼には隠れた者達を知覚する能力があり、この

平和なそうな、お茶会は、彼には見た目ほど平和なものではなかった。


万が一の時は、妹を庇いながら脱出する算段を考えながら、おそらく用意されていた

椅子の近くに妹を運び、腰を落とす。妹は背から離れて椅子の横に立つと、スカートの

裾を左右の手で、それぞれ軽く持ち腰を落として軽く頭を下げながら挨拶をした。


「はじめまして、東南の辺境、勇者オルセスの子。アイリです」


その言葉に、女王シルクスは微笑んだ。


「道理で、道を知ってらしたのですね。納得しました」


勇者オルセスは、かつて、この地に来た事があった。勇者の名に相応しい方だった。


「それでオルセス殿は息災ですか」


「父は逝きました」


突如オオカミが話しかけた事に一同の視線が、アイリの後ろに立つセダに集中した。


「これは失礼しました」


女王は席を立ち、セダの前まで来る。


「彼女が使役する魔物と思い、大変失礼しました。シルクスと申します」


そして、王女の前でオオカミから人へと変わって見せた。


「なるほど、確かに男性ですわね」


バリレの顔が引きつった。

その場の雰囲気が変わったことを察してセダは口にする。


「男性だと不味いことでも」


「いえ、なるほど、そういう事ですか。不幸とはこの知らせなのですね」

「それに関しては、私から・・・」


とバリレが説明し出した。


「約5日ほど前に、月読みの儀式を行っている時に人の男が不幸を運んで

 来ると予言がたち村の周囲を警戒していました」


すると、セダも納得した様に話し出した。


「おそらく、その予言は自分の事ではなく人間の剣士の事だと思います。

 それは父を殺した者達の事です。

 彼等は無抵抗なものまで、手に掛ける者達でした。

 それに人の男ではなく、自分は獣人の男です」


「分かりました。確かにあなたの意見の方が正しい予言の意味と捉えます」


王女は踵を返し、木に隠れる者達に手を振る。


「それで、その者達は、ここへ来る可能性が高い事を知らせに来たと」


「そうです。彼らは力を使うときに妖精の悲鳴が聞こえました。

 直接見た訳ではないのですが、おそらく何らかの方法で

 妖精を無理やり使役する方法を見つけたのだと思います。

 そして力を欲していると思われる言葉を発したと妹が聞きました。

 それから判断すると、ここへ力を求めてくるでしょう。

 それを伝えたくて来ました」


再びオオカミの姿に戻る兄元へと進むアイリ。


「では私達はこれで失礼します」


挨拶を済ませて、兄の背に乗ると階段へと向かう。


「お待ち下さい」


王女は、オオカミの背に乗るアイリに向かって何処からか弓を出して渡した。


「それを、かつてオルセス殿から預かった物です。

 約束の返却はもうできませんけど、責めてあなたに渡しましょう。

 それは女性にしか使えませんが、糸を張ればただの弓としても

 使えましょう。女神の祝福が在らんことを・・・」


「有難うございます」


二人は、そのまま階段を降りて立ち去って行った。


「姫姉様、あれは至宝の弓では?」

「オルセス様から預かっていたのですか」


そうバリレが聞くと、王女はにっこりとほほ笑んだ。


「嘘ですよ」


「う、うそですか?」


「はい。あまりにも、あの者達は幼すぎます。

 それに・・・あの弓は持つ者の力にもなりますが、守りにもなります」


「それで至宝の弓を与えたのですか」


「至宝の弓は役目を終えれば、ここに戻ります。

 それだからこそ、至宝の弓なのです。貸し与えられても所有者は変わらず

 私達のままなのですから」


「姫様」


「女王、今後の守りについてですが」


「そうですね。


「シルフィあなたに、任せます。それとサックあの者達を追って

 至宝の弓の位置が分かる鏡を与えます」


そして王女は丸い鏡を渡した。その鏡には青い点がどんどんと中心から離れて

いくのが確認できた。


「説明しなくても分るように、青い点が弓です」


サックは王女の呼び出したペガサスに乗って空に駆け上って行った。


「女王様、なぜサックを」


「ふふふ。そうですね適任者の中であの子だけが処女だったので」


「あっ、なるほど」


ペガサスに乗れる条件、それは乙女であり子供ではなく女性である事

そして任務から戦闘能力が優れたものとなるとサック以外いなかったのが

選ばれた理由だと知ったら、剣の修行でそれどころではなかったのだと

いう彼女を思い浮かべて笑ったのが、その場の全員だった。


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