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序章 3 ≪北の大地≫

「キルシィあぶない」


ドン


「あ、アレス・・・」


アレスの手が、キルシィの肩を押す。魔物が振り下ろした棍棒がアレスの腕に

振り下ろされて千切れ飛ぶ。意思を失ったゴミくずの様に千切れた腕が空中を

舞って少女の顔にアレスの血を浴びせながら、足元に転がった。


「キャアアアアア・・・」


足元の腕の根元から肘にかけて、ツブレて骨が砕け所々突き出して血が付いて


巨大な棍棒が目の前のアレスがいると思われる場所を遮っていた。


そして地面へ振り下ろされた、それは土砂を巻き上げてキルシィの体を土砂毎


左へと吹き飛ばした。


「≪チェロット・ヒール≫」


腕を失った痛みで一瞬意識を失ったアレスが自分の傷に魔法を唱えると


傷はふさがった。そして片腕を失ったまま、腰の短剣を取り無駄と知りつつ


魔物の腹部に目掛けて突き刺した。


そして、奇跡が起きる。魔物は動きを止めて後方へと倒れ込んだ。


「や、やったのか?」


魔物より小さな彼は、目の前で倒れた、その魔物の顔までは見えない為


そのある筈の顔がなくなっている事に気がつかなかった。


血を流し過ぎた状態で無理に動いたせいかアレスも意識を無くし前つのめりに


その場に倒れて込んだ。


「失いし腕を蘇生させよ、治癒≪アンティビオティコ・ヒール≫」


何処からともなく、青い魔法陣がアレスを覆う様に現れ近くで潰れていた


腕が引き寄せられると、彼の元の位置へと移動して何事もなかったかの様に


皮膚が骨が正常な元の姿へと変わる。袖が無くなっている事が違いと言えば


違いになった。


アレスは薄れる意識の中、馬の背に乗せられ、その馬の頭の方を見ると


子供の様な、それでいて美しい笑顔の髪の長い少女が心配そうに振り返って


此方を見ていた。しかしある筈の場所に馬の顔は見えなかった。


再び目を覚ますと、アレスはキルシィと二人森の泉の側で木を背にしていた。


「うっうぅぅぅん」


「キルシィ、おきたかい」


「アレスここは?」


「信じられないけど・・・」


彼は見たままをキルシィに話して聞かせた。


「体が馬で、首から上が女性なんて信じられない」


「ハッキリと見た訳じゃないけど、ほら、僕の腕も」


そう言って彼が無くなった筈の手を見せた。


確かに、引きちぎれた腕を見ていたキルシィは、不思議な事は不思議として


受け入れた。


「その半馬の女性は、肌が白かったの?」


「うん。僕たちを落ちないように抱えてくれてた巨人の少女は

 僕たちと同じ色だったよ」


「巨人なのに肌が白かったり黒かったりって・・・」


二人は、村に帰る事にして歩き出した。


この泉は、村の飲み水として何度も汲みに来ているので村が近いことは


分かっていた。


村に着くと、二人は村長たちに出来事を報告すると一人の長が口を開いた。


「それはケンタウレじゃな」


「ああ、ケンタウレかなるほど・・・」別の長も納得した顔をする。


ケンタウスと呼ばれる半人半馬の魔物には女性はいない。


かれらは岩と砂を蹴り雌馬と交わり生まれてくるが、女性は生まれなかった。


しかし、ケンタウロスの様な姿をしたケンタウレは妖精としてならいる。


サテュロスと呼ばれる状態を指す。正確には彼等に決まった姿は無く。


必要なら全身を羊に変えたり、走りながら何かするときは、シカの足のまま


上半身だけ人の姿に戻す。魔法を唱える時などがそうである。


見た目は似ていても、それは魔法で変化した結果というものだった。


つまり女神や妖精が、魔法で半分だけ変身させて二人を泉へと運んだと


言う訳である。その事から泉に住む女神なのではという意見が大半をしめた。


もちろん事実は違う。魔法で移動させている時に夢馬の背にあたる部分だけが


近くにあったから見え、夢馬に跨る零体であるイツキの背の部分が微かに


見えたのだ。どちらも半透明な為に、一つの物に見えたと言うのが正しい。


ただ、彼等は小人であり小さい為に夢馬の背は広く尻尾より前に位置する


場所に浮いていたに過ぎない。






森林の外れ、荒野と瓦礫の広がる大地。

巨人族ギュルベル・ラフェルシュオ城壁の外に約五万の軍勢が犇めいていた。


「王よ。現在、わが軍は敵の魔法攻撃に苦戦中です」


「ジオールのヤツめ。魔法なぞ、女子供の使う術なぞ使いおって」


「しかしながら、なかなか侮れぬ状況です」


「まったく黒小人が、厄介なものを・・・」


ジオールが使う槌から発生する雷は兵の動きを麻痺させる能力があり


その槌は彼が黒小人に作らせたものであった。巨人族の王、シュリフルにとって


忌々しい武器を作った黒小人族への報復として皆殺しを命じた矢先に、ジオールが


攻め込んできたという状況だった。


黒小人族狩りに向かわせた者にすぐさま引き返す様に命じたものの今しばらく


数で劣勢な上に兵たちが、その魔法の武器で硬直している処を一方的に


殴り殺されていた。反撃も出来ずにただ、固まった様に動かない敵を打ち倒す


それは巨人にとって卑怯者がする事であった。


「あんな下劣な武器で勝ったつもりか、ジオール」


シュリフルは自分の背丈ほどの金剛棒を手に王座から立ち上がった。


「お待ち下さい陛下。ここは今しばらく・・・」


「待てぬ。今、同胞が無残に嬲り殺しにあっているのだぞ」


「しかし、御身にもしもの場合・・・」


「女神のような力無きものが使えば可愛げがあるが、己の未熟さを

 補うための魔法なぞ使う、恥を知らぬものに負けはせぬ。

 どけぇ~」


「退きませぬ」


「邪魔建てするな。命がおしくないのか」


「我が命なぞ。おしくありません」


「なにか策があるのか」


「お許し頂ければ。禁呪の術を使いたいと思います」


「ふん。魔法は弱いものが使うのだ。我に卑怯者になれと申すか」


「すでに相手が使う以上。卑怯とは言い難いと思われます」


「ん・・・確かにな」


そうして提案された禁呪の術とは、霧の巨人を呼び出すものであった。


この世界の始まり、かつて魔法文明が頂点を迎えたと言われた、そんな時代


戦争が起こり、一人の賢者が空のかなたより霧の巨人を呼び寄せ。


世界を滅ぼした。その霧の巨人が横たわった場所こそ、このティアであり


その術が禁呪となった由来である。


「しかし、それでは世界が破滅するのではないか」


「そこで、霧の巨人の呼び出すサイズを小さくするのです」


「敵だけが滅ぶ程度にか」


「さようでございます」


「おもしろい。やって見せよ」


すぐさま、巨人族の術者30名が儀式の塔に呼び出された。




遥か南、巨人族ギュルベルと敵対する勢力の国がある別の大陸に突如


轟音と共に雲柱がいくつも立ち上った。


それは雲を貫き空から降って来た隕石が地表へと到着し爆発と共に


町を破壊し蒸発した大地が雲となってまるで巨大な数本の霧の巨人の


足が大地を踏み荒らしたような地響きと熱波による二次災害が更に


多くの町を飲み込み瓦礫と化していった。


女神たちは、すくさま呪文を詠唱して防御にあたったが、全てを無効化できずに


多くの同胞を亡くした。


報復としてギュルベル王都に向けて爆炎の巨人を召喚する秘術が使用された。


それはヘリオスクラウンと呼ばれ、100万度以上の熱の塊だった。


その結果。ギュルベル王都は一瞬で消滅蒸発しさらに熱は大地をマグマに変え


地殻に穴を開けた。流体である内部へと熱は浸食し突然外壁を無くした対流は


球体から歪な形へと変化して内部へと向かっていた圧力が一部だけ薄れた場合


中心の流体が持つ運動エネルギーはその一点へ集中する。


湧き上がる圧力による熱で山という山から噴火が始まり、大地が裂け新たな山を


作り出す。しかし、その山もマグマに飲み込まれ溶け出して液化を始めていた。


突如限界に達したそれは、全体の4分の1程度大きな部分を崩壊させて砕けた。


もはや敵も味方もなかった。


草木も水も一瞬にして灰となる。100万度には遠く及ばないが液化した大地は


軽く5000度は超えていた。


穴が開き自転がゆっくりとなったティアは公転の軌道からゆっくりとズレ始めた。


移動しながらも少しづつ破片をまき散らし、元の3分2まで質量を減らした時


テルルと呼ばれる惑星に衝突した。


惑星同士の衝突は元の3分2とはいえ、衝撃と爆発は完全に惑星を破壊した。


そしてその一部はぶつかった衝撃でゆっくりと割れ、その反動で大気の中を


移動した。ティアのコアであった部分の大半はテルルと同化したが、その時


はじかれた部分に残ったものが、新たに集まり始めた。


既に瓦解し始めていたとはいえ、これだけの質量が衝突した爆発はテルルと


呼ばれる星の大気のほとんどが二酸化炭素から成っていた事も在り、大気に


酸素を持たないため、摩擦による消滅も少なく地表へと降下した事が原因で


少なくない量のティアの破片を、その周辺へと舞い上げさせていた。


元々瓦解して飛び散った破片と、新たに衝突で飛び散った破片はその場に


留まることなく移動を開始する。


テルル星表面の温度は500度前後であったがさらに上昇していく。


舞い上がった破片は、大気の外へと押しやられたものがテルルを覆い太陽を


遮る事で、高温と低温な部分が生まれた。


ティアの外壁には多くの水分を含んでいた為に、温度の変化によってそれは


水へと戻って行った。そして元々テルル自身が持っていた水分と合わさり


地表には泥が出来た。







森の泉に立って、それを見ている人たちがいた。


「こ、これは」


「キルシィ、夢でも見ているのかな」


「アレス、私も同じ気持ちよ」


「夢の世界っていうのは、あながち間違いではないけどね」


夢馬は肉体は運べない。それは逆にすれば肉体でないものは運べるのである。


彼等、黒小人族の村に住む者達が死を迎える直前に零体をベルナとイツキが


協力してこの夢の世界へと運んだ。


イツキは光の矢をテルルの泥の海へと投げ入れた。


それは周囲の水素を集め、二酸化炭素と結合させる魔法、炭素固定術。


同量の水素と二酸化炭素から、大量の水が作り出されて行く


大気中の水素を使い切ると、魔法は停止した。


作り出された水は大気中の二酸化炭素を溶かし炭酸の海を作り出していく


海を作った事により、隆起した部分。つまり陸地が出来た。


また、この時水と共に炭素化合物が大量に作られたことはイツキは知らなかった。


ある物は、集まり、ある物は沈殿し塊となっていった。


イツキは、その陸地に現れると、呪文を唱える。


「我が求めに応じて姿を現せ、召喚穴(アペルトホール)


手を入れて弄っていたイツキが、するするとジオールが使っていた槌を取り出した。


余りにも重いので、手を滑らせて大地に激突した場所が穴となった。


「あっ、しっぱいしっぱい」


「どうするの」


「んー丁度いいかな」


海の水を呼び寄せて、ジオール槌毎沈めるとブクブクと泡が立ち込めて来た。


再び、炭素固定術を唱えて発生した水素を使って空中の二酸化炭素から水を作る。


予定では透明な透き通った綺麗な水になると思っていたイツキは首を傾げた。


「あれ?」


「なんかドロドロしたものになっちゃったね」


その中央では、休みなくジオール槌から放電が続いていた。


「酸素を作ろうと思ったのに、うまく行かない」


「んー、水から水素と酸素にして、

 水素と二酸化炭素で水に戻そうと思ったんだけど」


「夢馬ちゃんから、教わった通りにやっている筈だよねぇ」


「間違ってないと思うけどな」


「ヒヒヒーン」


「此れで良いってさ」


「そうなの?」


「この泥を使ってキルシィちゃん達の新しい体を作れるんだってさ」


と、ジオール槌が沈んで溶け出したマグマが小さな島になった。


それを見た夢馬ちゃんが大きさも丁度いいとベルナと話し出して


夢馬ちゃんの指示に従って、キルシィやアレスの体を粘土細工のようにコネて


なんとなく人ぽく頭と体と腕と足を、その島の上に作っていく。


それと一緒に棒もいっぱい作って行く、二人はいつしか粘土遊びの感覚で


一杯並べると、夢馬ちゃんが夢の世界の泉の周辺を呼び出した。


棒には木が重なり、泥人形にはキルシィ達が重なっていく。


指示された場所には、植物や人や、動物たちがいる位置だった。


元々の素材とは違っていた為に、黒小人族である肌が黒いキルシィ達は


黒い肌ではなくなっていたが、こうしてこのテルルの住民として復活した。


しばらくは、この周辺にしか木も酸素もない為、ドーム状に結界を張り


島の周りを囲む湖にから立ち上る霧によって外界から隔離された。


それはまるで、深い霧に霞む大地の存在を隠すように・・・。




この場所はやがて、屈斜路湖と呼ばれ最初の土地は中島と言われるようになる。


それは、その地に住んでいた小人族の言葉で、泥沼の水が流れ出た後に


残った湖という意味で付けられた。そしてこの地を含む陸地を北海道と


呼ぶには、まだ数十億年という途方もない未来の話である。



「ねぇ。そろそろ帰ろう」


ベルナの提案に、イツキは頷き、夢馬ちゃんの背に乗ると何か思いついたように


にんまりとした微笑みを向けた。


「いい事思いついた」


「なに思いついたの?」


「我が求めに応じて姿を現せ、召喚穴(アペルトホール)


と、呪文を唱えたイツキは夢馬ちゃんに続けて言った。


「この先って私の部屋じゃない。

 この穴とおったら、近道にならない?」


「ヒヒヒーン」


「それは名案だって」


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