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魔王アルギュロス

その頃王都から東北方面を進軍する部隊があった。


「やっと、ここまで来ましたな」

「長い道のりだった」

「此処がアルクトス様の故郷なんですか」


先頭に立つアルクトスの横にまだ若い兵士がひょいと顔を出して聞く。


「ああ、我が姉上の国だ」

「一緒に、この道を再び戻る日が来ると信じて来たかいがあったというものじゃ」


老兵となったキュリオはアルクトスとの逃れて進んだ道を思い出していた。


「そういえば、ここらで風呂を作りましたな」

「そうであったな」


あのとき、今の4分の1に満たない兵であった。現在、その数1万3千。

その内1万は工兵であり戦う為の部隊ではなく、先頭の3千が純粋な戦力と

工兵部隊の護衛である。辺境王アルクトスとなるまでに15年もの時間を費やし

ここまで来た。現在は補給路の確保の為の進軍であった。


「全軍待機」


片手を上げて馬上よりアルクトスが指示を出す。


「おお、ここが温地の沼ですか」


前方に広がる沼から湯気が立ち込めていた。すぐさま工兵たちは作業に取り掛かる

木を伐り広場を作り出す。その木を使い食糧庫や宿舎を建てていく。


辺境の本国から真っすぐに伸びた道を通り、輸送馬車で次々に運ばれる食料。

そして第二陣の兵2000が到着する。それで5000の戦力が用意される。


温地の沼へ入ると4本の杭が立っていた。横に張った紐は朽ちて無くなっていたが

兵士たちの中の数名が駆け寄って懐かしむ顔をしていた。


「マントを並べたのが昨日の様に思い出されますな」

「ああ、ここ、ここにさ・・・」


アルクトスはまだ、岩が風呂の様な形に残っていた。水を引いた木は無く溝が

残って、その溝に水が今も流れていた。


「工兵達に此処を整備するように言ってくれ」

「入りますか」

「ああ、よい癒しになるだろう」

「整備が終わり次第、やらせましょう」


温地の沼をすっぽりと囲う様に砦を作り始めた工兵達は沼の西側に居住区を

作成し始めていた。沼の横にある丘の湧き水を居住区へと引き入れる。

共同水場を作ると、いよいよ風呂へと取り掛かった。塀を作っていた部隊が

今度は馬屋の作成に入る。簡易のテントが張られアルクトス達は会議となる。

工兵による作業は約2週間で完了する予定だった。


「約2週間後、作戦開始だが予定はどうか」

「ただいま、塀の作業が全体で2日遅れています」

「わかった」

「それと、今後のルート警備の問題があります」

「あの噂は本当でしょうか」

「調査によると勇者は1人になっているとの事です」


そこにテントの垂れ幕を開けて入って来るものが居た。明かりに映し出された

その顔はティロスだった。そう治療師なら、疑いもなくいろんな村に行ける。


「おお、ティロス」

「お久しぶりです。アルクトス様」


アルクトスの声に、ティロスは挨拶をして開いている場所に座る。


「ティロス殿、勇者が倒れたというのは、ご存知ですか?」

「はい。少なくとも1人は目の前で致命傷だったと思います」

「それは上々」

「しかし、倒したのは獣人の様な魔物でした」

「敵となる可能性は」

「分かりませんが、私が拾った獣人とも親しいようです」

「ここは慎重に見る必要があるかも知れんな」

「ここまで来て」

「なあーに。15年も待ったのだ。あと少し待とうが大した問題では無かろう」

「うむ」

「どの道この砦が完成しなければ始まらん」

「確かに、弓にしろ食事にしろ補給が必要ですからな」

「それと報告ですが、奴らの魔法は魔石から魔力を奪う事で成り立っています」

「それは、入手できないか」

「独鈷と杖、辺りなら可能です」

「任せる、可能なら・・・いや、無茶はするなよ」

「分かってるさ」


ティロスは立ち上がってテントから出て行った。


「使えそうなら数が欲しいが、そうでないなら対策を考えねばな」

「ところでアルギュロスの復活の真偽は進んでるのかアロン」

「それなんだが、確かに巨大な銀狼に跨る少女は確認できたのですが」

「ん?」

「行動を追うと、アルギュロスとは思えない点が多く」

「どんなふうにだ」

「明らかに戦いを回避する様に動いているのです」

「記憶を無くしていると言う事は、彼の性格なら平和を愛する筈だ」

「そうとも言えない点が、ドラダと言うより人そのものを適しているとの事です」

「ドラダの事だ。何かしたのかも知れません」

「それに関しては、おそらく魔石狩りだと思われます」

「どういう事だサルバ」

「魔石は魔物からも作れるそうです」

「そうなのか」

「それが都市の近くの森内で、嬲り殺すという方法で」

「なんだそれは」

「魔力の強い者をそうする施設があるとか」


「500用意して偵察。御呼び施設の制圧。破壊しても構わん」

「しかし、今。動きますと我々の行動が・・・」

「知って黙って見過ごせと」

「大義の前に・・・」

「もしも、これで遅れたとしてもアルクダは笑って許してくれるが

 見逃せば、軽蔑されるだろうさ」

「確かにアルクダ様なら、そうやもしれませんな」

「まずは偵察と制圧可能な数を割り出せ、偵察隊で可能なら実行せよ」

「ただいま」


それから5分もしない内にアルクトス命に従い、500人が選抜され目的地に

向かって行った。実質偵察に長けた者は10名となり残りは腕に自信がある

者達になっていた。それは偵察という名ばかりの制圧部隊だった。


施設に到着した部隊は、一切の偵察は行わず正面から建物の中へと進んだ


「これは、魔石のご要望でしょうか」


嫌らしい顔で店の亭主は近づいて来ると奥から悲鳴が聞こえて途絶えた

何も言わず、その声を聞いた者が奥へと駆け込んでいく。


「お客様」


振り向いた途端に亭主は自分の腹を貫いている剣先を見つめて息絶える。

男は、剣を引き抜いて冷静な声で言った。


「助けられるものは助けよ」


それは、今の行動からは矛盾しているかの様に聞こえたが、その対象は

あくまで被害者に対してであり加害者は含まれていなかった。


「なんだお前達」


鞭をふるっていた、音が突然侵入した男に声をかける。

それを、無視して鞭打たれた少女に駆け寄る。背中は何本もの蚯蚓腫れが裂け

青く血が噴き出しては固まった個所と、内出血で青紫に変色した腕や背中を見て

すかさずポーションを取り出して全体にかけた。

そして男の持つ、肉片がこびり付いた鞭を切り捨てた。


「ひっ」


「アルクトス様。東は制圧しました」

「御苦労」


「なにか言い残す事はあるか」

「な、なんなんだ。おまえら」


「ぐひっ」と潰れた声を出し剣が男の首を跳ね。地面へと転がり落ちる。


「檻の中に18名、保護しました」

「5名、ポーションを使いましたが2名ほど間に合いませんでした」


「あ、あ・・・」


後ろから聞こえた声にアルクトスが振り返ると少女が震えながら此方を見ていた。


「間にあったか。安心しろ助けに来た」


少女を抱えると、部下に渡す。


「治療と保護が出来そうな部屋はあったか」

「どこも不衛生です」

「後も残さず焼き払え」

「お待ちください」

「どうした」

「此処は残して、我々で管理し少女たちを渡しに来る者から保護しましょう」

「良い。では、100人ほど残して全軍帰還せよ」

「はっ」


アルクトスの電撃作戦で保護した魔族を抱えて砦へと引き返した。


「誰か、この中で話せる子はいないか」

「・・・」

「我々の中には、いませんでした」

「どうしますか」

「話せるものを探す間、身振り手振りで行くしかないだろ」

「とりあえず、食事とテントの用意。それと施設を砦内に作ろう」

「はっ」

「アルクトス様、お待ちしておりました」


「ティロス。おお、済まんがあの話はもういい」

「そこで、彼女を連れてきました。リオと言います」


「彼女は」

「勇者の一人を倒した者です」


「ぅきぁ、カぃナへてあ」


リオは、走り出して男を跳ねのけて少女を抱きしめて男を睨み付けた。


「なにをした。この子に何をした」

「何と言われても、ただ飯を・・・」


男の手には、お椀が握られていた。その中には彼等の食事が入っていた。

そのお椀を奪い取る様に手にしたリオは、匂いを嗅ぎ指に付けると口に

運ぶんで口の中で確かめると吐き出した。


「殺す気」


「如何した。説明しろ」

「はっ。保護した少女達に食事を与えようとして処であります」


「こんなに、気持ち悪いと訴えているのに無理やり」


「ん。その子がか」


「そうよ」


「言葉が分かるのか」


「え」


「この子達の言葉が分かるなら、親とかどこに行けばいいか聞いてくれ」


「それより、この子達は犬族なのよ。玉ねぎなんて殺す気なの」


「そうなのか、ムサラ、食べさせてしまった子の治療を優先しろ」


「はっ」


「今後の対応をこのお嬢さんに相談しろ」


「了解しました」


「すまんがリオさんだったかな、少し付き合ってもらえないか」


「わかったわ」


「すまないな。それと玉ねぎだけか?」


「食材を見せて」


「この中だと、ニラやネギもニンニクとか刺激物も、大人になれば平気だけど

 ハチミツも子供のうちはダメ」


「了解した。調理班作れるか」


「はっ、腕によりをかけて」


「それで話を戻すが、言葉が分かるのか」


「大体は、でも所々理解できない部分もあるわ」


「そうか保護したのだが言葉通じなくて困っていた。助かる」


リオは黙って食材の山を見ていた。そして振り返ると、ムサラに深々と頭を

さげて謝っていた。彼女は食料の少なさに気がついた。ここには万単位の兵士

がいた。その数と食料が見合うっていない事に、それはその後の数日で明らか

となる。アルクトスを含む、100人程度の兵達が他の兵と明らかに食事を

取る回数が少ない。もっもと食事に関して優遇されている者は工兵であり、

次は兵士や子供達であった。アルクトスに至っては日に1食しか食べていない

事を知った。


「食事されないのですか」

「しているよ」

「それは嘘です」


真剣なリオの目に押されてか、アルクトスは答えた。


「次の物資が届く間での短い間だけさ」


そう言って笑って見せた。あと真面目な顔つきになって


「それに、殆ど砦は完成した。これで1万の工兵は祖国へ帰る

 新たに砦内に作った菜園からも秋には収穫出来よう」


それは子供達と女兵士が主だって、今後の事を考えて始めたものだった。

30名ほどが自活できる程度の小さなものだった。

そうこうしている間に物資が運ばれて来ると共に工兵が減り砦には5千の兵士と

非戦闘員が500程となった。そして最初に制圧した施設に連れられてくる者達を、

保護し続けて、現在。砦内の保育施設は42名の子供達が暮らしていた。


朝日が昇るころ、リオは何時もと違う気配に目が覚めた。


「全軍進め」


号令と共に、砦の5千の兵達は次々と出発していった。

城壁都市ドラド王国の目と鼻の先に全軍を布陣させて、簡易テントを張り

アルクトスはかつての自国軍の紋章を旗に靡かせて王都に対して圧力をかけた。


突然現れた、旧ドラド国正規軍の旗頭アルクトスの紋章を棚引かせる軍隊の出現に

街は蜂の巣を突いた状態であった。


「ドラダ様、敵はアルクトスと思われます」

「そんなことは、旗を見ればわかるはぁ~」


激怒した王の手にあったワインカップがローブを纏った男に投げつけられて、

彼の顔と肩をワインが濡らし、カランと地面へと転がった。


「兵だ、兵を用意させて東門と西門から出撃。南門の敵に対峙せよ」

「ここは籠城が得策かと」

「馬鹿か、貴様。あのアルクトスが、布陣を構えテントを張ったのだぞ」

「それが?」


「ルト殿はご存じないかも知れませんが、アルクトスと言えば軍神と謳われた

お方で戦場でテントを張った事はありません。つまり、これは長期戦を覚悟した

と言う事だと思いますが」


「ふん、若造が。サウル氏はまだ若い文献など良く目を通しておいでの様だ

 しかし、城攻めは3倍の兵力を必要とする。わが軍は2千の兵士で迎え打ち

 明け方、新たな2千の兵士と交代すれば、やがて疲労するのは敵となり

 程よく疲れ切らせた所を一気に叩くのがよろしいかと思います」


「レギナ殿は如何かな」


「そうですね。王の判断が正しいと思います」


「な、なんと」


「恐らく、アルクトスは援軍を待つと思われます」


「援軍?」


「あの位置に布陣すれば、戦争状態と言う事は明白。しかも旗印を見れば

 つい先日の勇者問題もあり隣国が彼に手助けする可能性は高いと思います」


「あの馬鹿勇者が隣国で暴れた奴か」


「それと、西のリザードマン達は常に我等とは仲違いし続けてきましたが

 元々アルクトスとは友好関係でありました。アルクトスが立ったと聞けば

 加勢に今頃は既に向かっている頃でしょう」


「なるほど」


「つまり、我々には籠城など悠長に構える時間は無く、アルクトスの布陣を

 突破して西のリザードマンを牽制、そして東のウットガル軍を抑える必要が

 あると言う事です」


「うむ」


ドラダ王は頷いていた。


「恐らくアルクトス自身も此処までは読んでいると思います。そこで逆手に

 取り東陣4千、西陣4千で一気に挟み込む様に進み。それぞれ2千を南に

 そして城門を開き2千を持って北より打って出る」


「それでは城が空になるではないか」


「別に良いではありませんか」


「ドラダ王を護衛する者が必要であろう」


「いえ、北の2千を率いて頂ければ問題ないかと」


「2倍の兵力で包囲殲滅。いかにアルクトスと言えど、成す術もなく我が軍に

 勝利を齎すでしょう」


神官レギナの不気味な高笑いが木霊した。


「流石だな。良い。出陣の用意だ」


それから30分とかからずに、神官レギナの作戦は実行される。


東門、オルス、リンド。 西門、ホロセム、アットレ。


それぞれが2千を率いて、2部隊づつが門の外へと飛出していく。4千の兵の内

両方の門共に先頭を走る2千づつが騎馬隊であり、オルス、ホロセムが各々指揮

して駆け出す。残り2千づつの歩兵隊が、リンド、アットレの指揮下にあった。


そして南門にはドラダ王率いる千の騎馬隊と千の歩兵。計2千が城門を開く瞬間

を今か、今かと待ち構えていた。




その頃、ケウラの丘では実際にリザードマンの兵が3千が整列していた。


『将軍、アルクトスが軍を率いてドラドへ侵攻したとの事です』


『ほお。先を越されたな。しかしアルクトスには悪いが良い囮となるだろう』


『多少、筋書きは変わりますな』


『まあ良い。どの道ドラダの運命は変わらん。出来れば我の手でとも思った

 のだが、流石に彼奴とでは恨みの深さでは一歩引かねばなるまい』


『当初の予定の伏兵は如何しますか』


『今となっては無駄だな。此方に合流させろ。いや、まてドラドが城を出た

 その時を待って城内制圧と門を閉めてやれ』


『はっ』


『ドラダの慌てふためく顔が目に浮かぶは、わはははは』


その将軍の側に巨大な狼と少女がいた。将軍は少女との出会いを思い出して

ふと、その手に光るブレスレットの先に光る石を見た。


今から、3ヶ月前になる・・・。


両手剣を持つ勇者の不思議な武器に同胞が倒れていく中、大きな銀狼の背に

乗った少女が現れて、勇者と対峙した時、妖精サックが現れ少女と共に戦った。

その御蔭で助かった将軍は少女腕に光る石を見て頭を下げて言った。


「王女よ。ご壮健麗しく、臣下として嬉しく思いますぞ」


『王女?とか難しくて理解できないです』


『うむ。人の言葉は苦手ですかな王女殿。そのブレスレット。元はネックレス

 だったと思いますが、違いますかな?』


『確かに、ネックレスだったけど』


『その涙の石は間違いなくアルクダ女王の物。それを託されたのは幼き王女のみ』


母上そっくりに現れた時は、女王とアルギュロスかと思ったものだった。

かつてのアルギュロスも銀狼で背に跨り幼き女王が戦場を駆け巡ったものよ。

国が平和になり、その後アルギュロスは商人になった。


『人族の言葉なぞ、とうに忘れたものと思っていたがな。あれを見た時、即座に

 話せるものだな』


『ん?なにか』


『アルクトスに将軍職を譲った後、故郷に帰って隠居していたものを駆り出され

 こうして思えば、長生きはするものですな』


『竜帝将軍と呼ばれたお方が、何を言ってますか。あと500年は死ねませんよ』


横から、妖精サックが茶々を入れて来た。


『ふははは、愉快、愉快。ではかつて竜帝と呼ばれた戦い方をお見せしましょう』


ケウラの丘より3千を指揮して竜帝将軍クレスタが進路を東北へと向けて王都に

進行を開始した。


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