プレゼントは靴下の中。①
クリスマスを前に藤村君が・・・。
俺は藤村晴人。
17歳のクリスマスを間近に控えている。
俺の家と幼なじみのひなたの家の間にはヤマモモの木が植えられている。
その木にプレゼントの入った大きな靴下をつるしてプレゼント交換をする、という習慣が始まって今年で13回目。最初のプレゼント交換は母ちゃんが亡くなって初めてのクリスマスだった。
俺が5歳だった11月の下旬、母ちゃんが亡くなり、俺はあまりの衝撃にいつまでも飽きずに落ち込み続けていた。保育園にも行きたくないと駄々をこねたが、家政婦のリツコさんに玄関まで肩に担いで連れて行かれ、玄関を開けるとひなたが待っていた。
「はるくーん、ほいくえんいこー!」
ひなたが行くところに俺は行く。
誰が仕組んだ作戦なのかは知らないが、毎日ひなたが迎えに来てくれるんだから保育園に行かざるをえなかった。朝起きると母ちゃんがいないことに毎日落ち込むが、ひなたにつられてなんとか日常生活を送る、というだましだましの日々だった。
そんな、とある土曜日の朝、母ちゃんに甘やかしてもらう夢を見た俺は、目が覚めた時の現実が受け入れられずにすねていた。
「ハル、朝ご飯できてるぞ。」
「いらない。」
「どうかしたのか?」
「・・・かあちゃんのごはんがたべたい。」
「・・・。陸人はもう食べ終わったぞ。ハルも早く食べなさい。」
「いらない!」
お腹はすいていたけど、なんとなく、意地を張りたかったんだと思う。ベッドの上で膝を抱えて壁に向かって座り、おでこを膝に乗せて、うずくまっていた。だんだん涙が出てきて、声を殺して泣いた。
親父は時々様子を見に来たけど、何も言わなかった。
土日の昼ご飯はリツコさんが来ないので、いつもひなたの家族と一緒に食べるようになっていた。
この日もひなたが俺を迎えに来た。
いつもの俺だったら、ひなたが来ればすぐに出ていくのだが、この日は泣いてしまっていたこともあり、すぐに出ていけなかった。
心配したひなたが俺の部屋に来て、
「はるくん、ひるごはんだよ。」
と言ったが、俺は動けなかった。
「いらない。」
「おなか、すいてないの?」
「すいてない!」
ぐーーーーーー。
すいてないはずの俺のお腹の虫が大きな声で鳴いた。
ひなたは床の上に正座して、俺の顔を覗き込んでいたけど、どうしていいかわからなかった俺はそのまますねていた。
俺を呼びに行ったままなかなか戻らないひなたを心配して春子おばさんが来た。
「ひなた?ハル君?どうしたの?」
「あ、ママ。はるくんね、おなかすいてないんだって。」
「そう?でも、ハル君、朝ご飯も食べてないってパパが心配してたよ?」
「・・・。」
「はるくんね、さっき、おなかぐーってなったから、ほんとはおなかはすいてるとおもうんだけど、おかしいね?」
「ハル君、お腹がすいてると元気がでないんだから、ご飯たべなきゃ、ね?」
「いらない。」
「なんでいらないの?」
「なんでも。」
「さっき、おなかぐーっていったよ?」
「いらないったらいらない!」
全身から拒絶のオーラをだした、と思う。
だが、春子おばさんは両手で俺の両頬をギュッと挟んで俺の目を見据えて言った。
「ハル君、いつまで落ち込んでるの?香澄さんがハル君のこと心配で天国に行けないでしょ?ご飯たくさん食べて、母ちゃん、俺は大丈夫だから心配すんなよ!って言ってあげなきゃでしょ?」
「・・・・・・。」
「ほら、おひさまの横で香澄さんが心配そうに見てるよ!ハル君、香澄さんに大丈夫だよって言ってやんなよ!」
俺は大丈夫なんかじゃない、そう思って声が出なかった。
「ひなた、ハル君と一緒に香澄おばさんに大丈夫だよって言ってやんな。」
「かすみおばさん、はるくんにはわたしがついてるから、しんぱいしないでねーっ!」
ひなたが太陽にむかってそう言った。
俺にはひなたがついているんだ・・・。
なんだか頑張れそうな気がしてきた。
「ハル君?」
春子おばさんが続きを促すように俺の名前を呼んだが、なかなか声が出なかった。
その時、ひなたが俺の手を握って
「せーの!」
っていった。
「かあちゃん、おれ、おれ、がんばるから、しんぱいすんなよ!」
ひなたの手がいつも俺の心のスイッチを押す。
「香澄さん、ハル君は元気に頑張るから、心配いらないよ!よしっ!さあ、ご飯だよ!」
そう言って立ち上がった春子おばさんは、目にいっぱい涙をためていた。