隣の家にはイケメンが住んでいる。②
隣の家にはイケメンが住んでいる。はこの話で完結です。
そんなハル君も今年で17歳。
しょっちゅう女子から告白をされている。
「俺、好きな人いるから。」
と言ってことごとく告白を断っているらしい。
私たちは今も同じ学校に通っている。
私の学力とハル君の学力にはものすごい差があるから、本当なら同じ学校に通っているはずじゃなかった。けれど、ハル君は満員電車で通学するのが嫌だから、と私と同じ、家から歩いて15分の公立高校に通っている。
しかも、私たちは同じ部活に入っているから登下校も一緒。
ハル君が放課後に告白される時は
「すぐすむから待ってて。」
と言って、本当に5分ぐらいで帰ってきてしまう。
「もういいの?」
って聞くと
「ああ。」
とそっけなく言う。
ハル君は本当は情が深い人だと思う。
ただ、情が深いだけに、色んな人に立ち入らないようにしているんだと思う。
告白してくる女子に優しくしないことが優しさだと思っているのかもしれない。
その事について詳しく話したことがないので、はっきりとは分からないけれど、長年の付き合いでそんな気がする。
ハル君が「好きな人がいるから」と断っているという事も、ハル君本人から聞いた訳ではない。
ハル君に告白した子の友だちから
「鈴村さん、藤村君の好きな人って誰か知ってる?」
と聞かれて初めて知った。
そんな人がいるとは知らなかったので、ある日の下校途中、ハル君に聞いてみた。
「ハル君、好きな人いるんだって?」
「は?」
「好きな人って教えてくれないの?」
「はあ?」
「ハル君が、この前告白された時、好きな人いるって断ったって聞いたんだけど、そんな話聞いた事ないな、って思って。ハル君が好きになった人って誰?」
「お前さ・・・」
「?」
「好きな奴いるの?」
「え?私?」
「俺だってヒナの好きな奴の話なんて聞いたことない。」
「・・・。」
「ヒナが言わないなら俺も言わない。」
「・・・私は言わないんじゃないよ。」
「じゃあなんだよ?」
「・・・いないの。」
「いない?好きな奴?」
「うーん、いない、と思う。」
「いないの??」
「なんかね、あんまりわかんないの。好きって感じ。」
「わかんねえ?」
「うん・・・。とろいからかなあ・・・。」
「・・・落ち込むなよ、そこで。」
「だってもう17歳なのに、きゅうん、とか、したことないってどうなの?」
「きゅうん・・・。」
「ハル君は誰かに”きゅうん”とかするんだ、いいなあ。」
「・・・。まじか。」
「あ、今、あきれたでしょ・・・。ヒドイ。」
「・・・。」
「でも、ハル君はよりどりみどりだもんね。いいなあ。無限の可能性があるよね。」
「俺の好きな人はひとりだから、無限の可能性なんてねえよ。」
「あ、そうかw いいなあ、私も恋したいなあ。」
「・・・。」
「そんな事より!好きな人、教えてくれないの?」
「・・・。」
「ねえ?」
「・・・。」
「ヒントだけでも?」
「・・・。」
「だめ?」
「・・・・・・。」
「私の知ってる人?」
「・・・。」
「ねえ!」
「・・・教えてやんねえ。」
「え?」
「絶対教えてやんねえ。」
「ええ!?」
「ええ!?じゃねえよ・・・。」
「誰にも言わないよ?」
「そういう問題じゃねえ。」
「じゃなんで?」
「なんでも。」
「なんでもってなんで??」
「うるせえよ。」
その後、ハル君が言った「こっちがいいたいよ、なんでってよ・・・。」というつぶやきは、声が小さすぎて私の耳には届かなかった。
黙り込んでしまったハル君と一緒に家までの道を歩く。
気まずいな・・・。もっと家の近くで聞けばよかった。
そんなことを考えて黙って歩いていたら、ハル君の家の前についた。
「ごめんね、好きな人の事、しつこく聞いちゃって。言いたくないならもう聞かないから。でも、お付き合いとかするんだったら、あんまり私と登下校とか、よくないよね?別々に行くようにしようか?」
「・・・・・・ない。」
「え?」
「お前がそんな事に気を使う必要ない。」
「でもさ、もしかして私が邪魔しちゃったりしたらいやだし。」
「いいよ、そんな事気にしなくても。」
「だって、高校に入学したての頃もたくさんの人に聞かれたでしょ?なんで一緒に登下校してるのかって。」
「もう今は聞かれないだろ?」
「今はもう聞かれないけど、それはハル君と私が幼馴染なだけってわかったからでしょ?」
「で?」
「ハル君が好きな人に告白してから、私が一緒に登下校してるの知ったら、告白された人、いい気持ちじゃないと思うんだよね。」
「だから?」
「ハル君の恋がうまくいくためには、一緒にいないほうがいいんじゃないかって思うんだけど。」
「ヒナは俺と一緒に学校行くのヤな訳?」
「嫌じゃないよ。一緒に学校行くのは嫌じゃないけど、ハル君の邪魔するのは嫌。」
「じゃあ、邪魔じゃないから余計な心配すんな。」
「ほんとに?」
「ほんとに。俺は一人で登校して知らない奴らに話しかけられまくるのなんてごめんだからな。」
「ああ、そうか。そっちもあるよね。」
「ああ。」
「あ!じゃあ、小田君とかに一緒に行ってもらうようにしたら?」
「小田?あいつが俺の朝練に合わせて一緒に学校行くと思うか?」
「いかないね・・・。小田君、相変わらず運動部掛け持ちで朝練とか出てないもんね。」
「だろ。」
「じゃあ、私が一緒に行かないほうがいい時がきたら絶対はっきり言ってね?」
「・・・。」
「ハル君の恋の邪魔とかしたくないから。」
「わかった。」
「よし!ということで、この問題は解決ね。よかった。じゃあね、ハル君。」
「ああ。」
「あ!コタ!バイバーイ!!」
その後、ハル君が言った「コタ、バイバーイ、じゃねえよ、鈍感。」というつぶやきも、声が小さすぎて私の耳には入らなかった。
私の隣の家にはイケメンが住んでいる。
そのせいかどうかは分からないけれど、イケメンセンサーが不調で初恋もまだできない私。
がんばれ、私。
私の普通な生活はまだまだ続く。