小田翔真は知っている。①
藤村君と鈴村さんの関係をずっと見守っていた小田翔真。
小田翔真視点でちょっと小話です。
俺は小田 翔真。
高校3年。
運動神経抜群の人気者だ。
人気者ではあるが、残念ながら愛している彼女がいる。
彼女の名前は原田 紗彩。
俺と同じでかわいくて性格もいい人気者だ。
彼女は頭もよく、私立の進学校に行ってしまったので高校は違うが、中学2年の夏に紗彩から告白されてから高校2年までは順調に付き合っていた。ちょっとしたことで一度の別れを経験したのち運命的に復縁し、今に至っている。俺たちの運命の話はいずれまた機会があればじっくりしたいと思う。
俺と紗彩の仲は復縁後、ますます超順調で、明日も花見ピクニックを予定している。
そして、俺には保育園から一緒の幼なじみが二人いる。
まずは藤村 晴人。
運動も勉強も出来るが、人見知りで協調性がなく、一匹狼タイプ。
ハルは、あまり言いたくはないが、背が高くイケメンで学年一、いや、多分、学校一目立っている。
もう一人は鈴村 ひなた。
運動も勉強も普通だが、人当たりが良く、ちょっと天然の呑気者だ。
ヒナはとびきり美人とか、超かわいいという感じではないが、色白でかわいいタイプで、困っている人をほっとけない長女気質。さらに言うなら、両親が共働きだから母親のかわりに家事をしていて、自分だけでなく、弟の分の弁当も毎朝自分で作る女子力の高い子だ。
何かにつけて目立つハルと違って、ヒナは、クラスで目立つタイプ、地味なタイプと分けた場合、両方に適度に友だちがいるごく普通の女子高生。
ヒナと付き合いたいとか、そういう気持ちになった事はないが、大好きで大切な幼なじみだ。
保育園から小学校、中学、高校と同じなのは俺とハルとヒナだけなんだから、十分幼なじみと言えると思うんだが、ハルは「幼なじみはヒナだけしか認めない。」といつも俺を仲間外れにする。
まあ俺は、家が隣同士のハルとヒナみたいにいつも一緒にいるという訳じゃないから、ハルからすれば、幼なじみとは言えないのかもしれない。
あれは小学生になり、男女を意識し始めた頃だった。
俺はある事に気付いた。
ハルはいつでもヒナの様子を気にしていて、男子でも女子でもヒナが他の誰かと楽しそうとしていると不機嫌になった。
ハルはあまり喋らないし、表情もあまり変わらないので誰も気付いていないようだったが保育園から一緒の俺はそれに気付いていた。
それまではなんとなく、独占欲の強いやつだな、と思っていた。
でも、ハルの家の庭で、俺とハルとハルの兄貴、ヒナとヒナの弟、そしてハルの家の犬のコタロウとで遊んでいた時。
ハルは俺とハルの兄貴が仲良くしていても平気だ。俺と犬のコタロウがじゃれていても気にしない。でも、俺とヒナが話していると邪魔してくる。ハルの兄貴とヒナが話していると、ハルは俺と遊んでいても心此処にあらずでずっと二人の話を聞いて様子をうかがっている。ヒナがコタロウとじゃれているとコタロウをヒナから引き離す。
ハルの独占欲はヒナにだけ向いている。
!?
俺はハルがヒナの事を好きな事に気付いた。
でも、ヒナは全く気付いていないようだったし、ハルは隠しているみたいだったから、小学生ながら大人な俺は黙って見守っていた。
そして小学校4年のバレンタイン。
ハルが学年一の美少女、みゆちゃんの友だちたちに体育館の裏に呼び出されていた。
みゆちゃんが告白するらしい、と噂になっていたので、俺は何人かの友だちと告白現場を覗きに行った。
「藤村君、好きです!」
二つに分けた髪の毛を頭の横の高い位置にかわいいゴムで縛っていつもよりかわいく見えるみゆちゃんがうつむいて告白した。
俺たちは息をひそめてその様子を茂みの影から見ていた。
ハルはクールに言った。
「俺、そういうの興味ないから。チョコも受け取れない。」
みゆちゃんの事が好きな俺の友だち、健太がハルのクールな態度に怒って出て行こうとするのを、俺は必死に止めた。
「でも、せっかく作ったから、せめて、受け取って。」
みゆちゃんは涙目でハルにチョコを渡すと少し後ろ(茂みの影に隠れている俺たちのちょっと前)で待っていた友だちのところに走り寄って声を出して泣いていた。
みゆちゃんの友だちたちはハルを睨みつけて「ハル君、ひどい。」「ちょっとかっこいいからっていい気になってるんじゃない?」とハルに聞こえるような声で悪口を言った。
ハルはそれを聞こえていないかのように無表情で受け流し、振り切るように教室に向かって走っていった。
その様子を見ていた俺の友だちたちは、ハルの事を許せん!と怒っていたが、俺は複雑だった。
ハルはみゆちゃんの告白にいい顔をして頷くことだって出来たはずだ。
でも、ヒナを好きなハルはちゃんと断った。
みゆちゃんがハルを好きになったのはハルのせいじゃない。
俺だったら、みゆちゃんに告白されたらみゆちゃんの事を好きじゃなくても付き合っていただろう。
学年一の美少女の彼氏というのは鼻が高い。
ヒナを好きでもみゆちゃんと付き合うというのは魅力的な話だったはずなのにハルはちゃんと断った。
ハルは間違ってない。
「でもさ、これでみゆちゃんは他の男に目がいくからさ、チャンスなんじゃね?」
俺はそう言ってみた。
「俺みたいに運動イマイチな奴でも大丈夫かな?」
健太が言った。
「健太は運動できなくても勉強できるからさ、勉強で頑張ればいいんじゃね?あ、でも今度の長縄大会は上手に跳べるほうがいいよな。よーし、今日から特訓しようぜ!」
健太は勉強ができて面倒見もよくいい奴だが運動神経がイマイチで、今度開催されるクラス対抗長縄大会の練習でも縄に引っかかる常連組だった。
みゆちゃんと俺たちは同じクラス。みゆちゃんも健太と同じであまり運動が得意ではなく、引っかかり常連組。だが、健太が上手に跳べるようになれば、みゆちゃんに長縄上達のコツなんかも教えられるだろうし、健太がみゆちゃんに見直してもらえるチャンスだと思った。
「よし!翔真、これから特訓してくれるか?」
健太が俄然やる気になった。
その後、俺たちは毎日放課後に長縄の特訓をし、健太は引っかかり常連組から抜け出し、みゆちゃんに自分が身に着けたコツを伝授し、仲良くなることに成功していた。
と、このように?子どもの頃から大人なw俺は、運動も勉強もできてイケメンで背も高くてモテモテなハルに嫉妬心を抱きながらも、モテモテだから嫌いだという奴からはついつい庇う、という微妙な距離感で幼なじみと付き合っていた。
そんな俺の転機は中学2年の夏だった。




