ショーウィンドーに映るのは。②
ショーウィンドーに映るのは。はこの話で終わります。
俺が人生最高の幸せをかみしめていた時、歩いてきた男。
俺たちの”自称”幼なじみ、小田翔真だ。
「お!ハル!お?ヒナ、何?二人で出掛けんの?」
もったいないと思ったが、俺はひなたの手をそっと離した。
「なんだよ、翔真。」
「俺は今からデート。お前らは?」
「映画。」
「まさか、白いロボットのアニメ?」
「・・・。」
「もう予約とった?」
「いや。」
「Wデートしちゃうか?」
「いやだ。」
「まあ、そうだよな。お前らはただの幼なじみだから、Wデートじゃないよな。」
「翔真君、今、誰とつきあってるの?」
「お、ヒナ、言うねえ。」
「だって、ちょっと前、紗彩ちゃんと別れたって言ってたでしょ?」
紗彩というのは俺たちと同じ中学の原田紗彩さん。美人で性格もよく人気者、なぜか翔真の事が好きで原田さんから告白して中学2年から高校2年の夏まで翔真と付き合っていた。翔真の初めての彼女だ。高校は原田さんは私立の進学校に進んだから、俺たちと高校は違ったが、二人の付き合いは続いていた。
去年の夏の終わりに翔真が「俺今、フリー。彼女募集中!」と騒いでいたのは俺もひなたも知っている。
だから、多分、二人は別れたんだろうと思っていた。そういえば、なぜ二人が別れたのか、翔真が今、誰と付き合っているのかとか全く知らない。
「紗彩とヨリを戻したんだよね。」
翔真は言いたくてしょうがない、といった感じで言った。
「そうか、よかったな。じゃあな。」
俺はとにかくこの最悪の事態から抜け出したかった。
「待て待て待て待て。ハル、お前、そこはちょっと突っ込んで聞くとこだろ?」
「何を?」
「いや、俺と紗彩の運命的な縁の話?」
「特に聞きたくねえ。」
「今後の参考になるかもよ?」
「ならねえよ。」
「つれないなあ。あ、ヒナは?ヒナは女子高生だから、恋愛話、興味あるだろ?」
「うーん、でも翔真君の話は長そうだから。ねえ?ハル君w」
「だな。」
「ヒナまでひでえな。っていうかさ、紗彩も気にしてたんだよな、二人の事。」
「気にするなって言っといてくれ。」
翔真は俺の手をひっぱると、ひなたに聞こえないようにささやいた。
「協力するぜ、ハル。」
「・・・。ヒナ、行こう。」
「おーい!どうせ同じ電車で同じ方向だって。なあなあなあ。」
「うるせえな。俺たちは静かな休日を過ごしたいんだよ。」
「ちょっとぐらい俺に興味持てよ、幼なじみだろ?」
「そうだったか?」
「おいっ。なあ、ヒナ、何とか言ってくれよ。」
「いっつもそう言ってるよねw二人とも。」
「お!今気付いたけど、今日、ヒナなんかすげえかわいくねえ?」
「見るな、翔真。ひなたが減る。」
「なんじゃそりゃ。髪型に気合を感じるな。あれ?まさか、お前ら?」
「ちょっとおしゃれしてみたかったの。よかった、気付いてもらえて。」
「翔真は気付かなくていい。ほら、ヒナ、こっち。翔真に見られると減るぞ。」
俺は翔真と俺の間にいたひなたの手をひっぱって、翔真から見えないように俺の横に移動させた。
「おい、ハル、何か俺に隠してることないか?」
「色々ある。」
ゴー。
大きな音と突風とともに電車がホームに入ってきた。
やばい、ひなたのスカートが危ない。ひなたのスカートが風にあおられないように俺の体の後ろにひなたをかばう。
よし、スカートOK。
ひなたの手を引いて電車に乗り、ひなたを窓際に導いて翔真にひなたが見えないような角度に俺が立つ。
遅れて電車に乗ってきた翔真が俺の背後からちょっかいをだす。
「なあなあ、ハル、どうなってんだよ?」
「何が?」
俺は翔真のほうを見ないでそっけなく返事をする。
「だーかーらー。二人の関係に変化を感じるんだけど?」
「気のせいだ。気にするな。」
「なあなあ、ヒナ、なんで今日そんなかわいくしてんの?」
「だめ?」
「だめじゃねーけど、気になる。」
「だから、気にするな、翔真。」
「あ、おい、ハル、ついたぜ。降りようぜ。」
「残念。今日俺たちの目的地はここじゃないから。じゃあな、翔真。」
「え?マジ?映画っつったらここじゃね?」
「今日はここじゃねえんだ。じゃあな。」
「ちょ、まじかよ、まだからかい足りねえ!」
「またね、翔真君。」
ひなたと二人で翔真に手を振る。名残惜しそうに電車から降りる翔真。よかった、今日のデートは人目を避けてちょっと遠くの街ですることにしていて正解だったな。
「ハル君、なんかドキドキしたねw」
「お、おう。」
「でも、翔真君、また紗彩ちゃんと付き合ってるんだね、すごいね。」
「だな。」
翔真の話なんて今はどうでもいい。
しかし、やっかいな奴に見られたな。
でも、ひなたはなんだか楽しそうだからいいか。
こじゃれた街のショーウィンドーに手を繋いだ二人が移る。
いつもよりちょっと遠いこじゃれた街で、お試しといえど初デートというシチュエーションにテンション高めのひなたと手を繋いで歩いている俺。
ショーウィンドーに映る俺たちはどう見ても恋人同士だ。
映画を観終わったら恋人繋ぎに挑戦しようと思っていが、テンションが上がった俺は勢いでひなたの指の間に俺の指を絡めて恋人繋ぎにする。
ひなたの顔は恥ずかしくて見れないけど、きゅっとひなたが指を絡めてくれたから嫌がられてはいないと思う。
もはや俺のテンションはマックスだ。
落ち着け、俺。
俺の青春はまだまだ続く。