ライバルは飼い犬。②
ライバルは飼い犬はこのお話で終わります。
藤村君と鈴村さんは今後も続く予定です。
「コタロウ」の世話は初めこそ兄貴、俺、ひなた、駆の4人でしていたが、だんだんひなたが「コタロウ」を一番かわいがるようになった。俺の家の犬だけど、ひなたが朝晩「コタロウ」を散歩に連れて行き、エサをやり、土日にはャンプーとブラッシングをしてくれた。
ひなたのいるところに俺はいる。
したがって、「コタロウ」の世話は俺とひなたの仕事になった。
この頃から困った現象は起こり始めていた。
ひなたは、俺に会いに来るのか、「コタロウ」に会いに来るのか。
だんだんと「コタロウ」に比重が傾いていると感じるようになった。
俺に「おはよう」というよりも先に「コタ!おはよう!」と言い、俺と別れた後、
「コタ!バイバーイ!」と言う。
ひなたが家の前を通ると、必ず「コタ、元気?」と声をかけるのに、俺のことを気にしている様子はない。家の前を通ったら必ず呼び鈴を鳴らせとは言わないが、せめて俺の部屋の窓ぐらい見てくれてもいいじゃないか。
そうだ。俺はひなたの声が聞こえれば何をおいても窓際に駆けつけ、ひなたの姿を確認するのだ。
それなのに、家の前を通るひなたと目が合うことはない。
この前、一緒に「コタロウ」のブラッシングをしていた時、
「今更だけど、コタの目ってすごい二重だよね!まつ毛も長いし、目元は涼しげだし、鼻筋は通ってるし、イケメンだ!あれ?メンじゃないかな?オスだからいいのかな?」
って言ってたよな。俺だって、奥二重だけど、二重だし、まつ毛もそこそこ長いし、けっこう告白とかもされるし、イケメンなはずだけど、ひなたに褒められたことなんてないぞ。
しかもその後、ひなたは「コタロウ」の体をワシワシしながら、だきだきしたんだ!
抱き抱きだぞ!
どういうことなんだよ!
俺だってひなたに抱き抱きされたいぞ。
あげく、そのあと、「コタロウ」はひなたの頬をベロベロしたんだ!
ベロベロってどういう事だよ!
俺だってひなたをベロベロしたいぞ!
あー、俺、コタロウになりたい・・・。思春期後半の妄想甘くみんなよ!
だめだ。
こんなんじゃ、ますますひなたの前で挙動不審になる。
最近、色々な限界を感じて告白を考えているせいか、ひなたに対する態度がギクシャクしてしまっている。
俺にとって絶対に負けられない、今までの人生とこれからの人生をかけた大きな勝負がここにはある。
俺って鼻筋通ってないのか?
涼しげな目元って努力したらなれるのか?
「コタロウ」より気にしてもらうにはどうしたらいいんだ?
「コタロウ」より愛されるにはどうしたらいいんだ?
どうしたらひなたは俺を抱きしめてくれるんだろう。
どうしたらひなたにキスできるんだろう。
目下のライバルは自分の飼い犬。
あ、いや、言っておくけど、俺だってお前のことが大好きだよ、コタ。
ただ、ひなたの愛情はお前にあげるわけにはいかないんだ。
がんばれ、俺。
俺の青春はまだまだ続く。