ショーウィンドーに映るのは。①
お試し初デートに出掛ける藤村君と鈴村さん。
藤村君は色々とシミュレーションして準備万端です。
けれど、思い通りにはいかないこともあり・・・。
俺は藤村晴人。
初デートの朝を迎えている。
とうとう来たぜ、初デート。
はやる気持ちを抑えて散歩着を脱ぎ、シャワーを浴びてデート服に着替える。
兄貴からもらったちょっとカッコつけた洋服にとがった靴を履こうかと思っていたが、ひなたからかわいいっぽい格好のほうが好きって言われたからセーターとジーンズとダッフルコートにマフラーをぐるぐる巻きにすることにした。靴は一緒に買いに行ったとき、ひなたが絶賛していたつま先が丸いショートブーツにする。
ひなたはかわいい格好をしてくると言っていた。俺と会うときはだいたい制服か散歩着か家着だけど、ひなたはどんな時でもかわいい。けれど、かわいいワンピースをきたひなたはきっと超絶にかわいいはずだ。初デートの緊張に加え、超絶にかわいいひなたとデートするという嬉しい緊張感に手汗が出る。
そうだ、ハンカチを持っていこう。手をつなぐときに手汗なんてかいていたらドン引きされる。
ハンカチ、イケてるやつ、あったかな。
ハンカチ、スマホ、財布。よし、忘れ物なし。
いつも遊びに行っている街よりちょっと遠い街に行って、まず映画館で午後から始まる回のチケットとって、映画が始まる時間まで買い物とかランチとかして。
映画見ながらポップコーン食べてたら手があたってゴメンっていうベタな展開やりたいから、ポップコーン買うの忘れないようにしないとな。
んで、映画終わったらパンフ買って、パンフ見ながらお茶して、何か初デート記念の品を買って帰る、というのが今回のシミュレーションだ。
できるだけ手を繋いで、できれば今日は恋人繋ぎってやつまでいきたい。
恋人繋ぎ・・・。いい響きだ。
ランチもうんざりするほどリサーチした。
映画館の近くの店で、イタリアン、洋食、中華、和食、カフェ。どれをリクエストされてもばっちりだ。
でも、まあ、できればイタリアンがいいと思っている。まだひなたと一緒にいったことないし、この前じいちゃんばあちゃんと一緒に行ったからメニューの感じとか店の雰囲気とかトイレの場所とかもバッチリだし、味も良かったし、値段も高すぎず安すぎずだった。
現金もおろした。何があってもいいように3万。あんまり張り切ってるように思われたくないから財布の札入れには1万だけ入れて、あとの2万は財布のかくしポケットに別々に入れてある。
ひなたは割り勘にしたいというかもしれない。その場合、どうするかも考えた。多分、ひなたは一度口にだしたらそうしないと気が済まないだろう。だから、最悪、ランチだけは奢らせてもらおう。ホントは初デート記念品も俺が払いたい。っていうか、ホントは全部俺が払ってカッコつけたい。
ひなたは普段、俺と出掛ける時は絶対に割り勘だ。お互い働いていないからお金の支払いは対等にっていう気持ちも理解できる。でも、今回は初デートだし。そういうところもスマートにできるといいな、と色々シミュレーションはしてある。
よし、準備万端、時計も10時5分前、丁度いい。俺はコタロウの頭をなでた。
「いってくるぜ、コタ。」
コタロウはシロッと横目で俺を確認し、興味なさそうにあくびをした。
ひなたは予想以上のかわいさで玄関に立っていた。
黒いウールのコートにグレーのワンピース。コートの中に薄いピンクのカーディガンを羽織っていて、黒い靴に黒いニーハイソックス。
髪はいつもはだいたい、ざっくり後ろでひとつにまとめて縛っているけど、今日は内側にカールしていて、三つ編みが編みこまれている。
・・・なんてかわいいんだろう。
出掛けたら他のやつに見られるかと思うと、このまま自宅デートに変更したいぐらいだが、そうもいかない。
あ、ひなたが俺に気付いた。まずは気の利いた一言を掛けたい・・・。
「おはよー。って散歩の時にもう言ったね。」
ひなたがにっこり笑って俺に手を振りながら言った。
・・・。
出ばなをくじかれた。
おしゃれしたひなたの笑顔がかわいすぎて頭が回らない。
えーっと、今日もかわいいね。今日はいつも以上にかわいいね。そういう格好もいいね。えーっと。
「あ、そのブーツやっぱりかわいいね。」
「あ、ああ。」
だめだ。完全にタイミングを逃した。
「行こうか。」
・・・結局、褒められなかった。
くよくよするな、俺。
とりあえず、手を繋ぎたい。
「ん。」
ひなたの顔をちょっと見て手を出してみる。
ひなたがちょっと照れくさそうに手を繋いだ。
よしっ!
「なんか、デートっぽいね。」
ひなたが小さく笑って言った。
「おお。」
幸せだ。
これまでの俺の人生で今がいちばん幸せだ。
とかみしめていた時だった。
災いが歩いてきた。