追憶2
お久しぶりです!!
完全復活ではないですけれど、投稿できる環境が作れたので、投稿させていただきました。
今回はほのぼのとした話です。それではどうぞ!
もう察しがついている人がいるかもしれないが、夕菜と母の性格は似ている。見比べてもほとんど遜色がない。
だから「何これデジャヴ?」という反応は正常である。
でも、実際はそう思わせる現象で満ち溢れている。故に俺が日々を繰り返されると思ってしまうのだ。
どこで得た知識かは覚えていないが、人は年を経る毎に時間の感覚が薄れていくという。
なら、もし常に新しい経験をその身に享受していればそれは起きないはずだと思う。
話は変わるが、今俺は夕菜と二人で歩いている。だが、勘違いしないでいただきたい。
そう、ここは夢である。大事なことなのでもう一度……ここは夢である。
それでも尚、ここが現実であると思い、二人の男女が街中を歩き、戯れるリア充展開(俺は脳内お花畑化現象と呼んでいる)を羨ましいもしくは消え失せろという思考に至った大馬鹿野郎には即刻、人生に終止符を打ってもらいたい。
だってこれは、俺の頭の中で起こっているのだから。
客観的に見れば、一人の青年の痛々しい妄想劇という感じだ。
結果として、ついつい本音が漏れてしまう。
「……これが現実だったらなー」
「え? 現実だけど?」
きょとんとした様子で夕菜は返してくる。
「……いや悪い」
「変な連くん」
「……っにしても暑いな」
「七月だからね」
「七月!? 七月か……」
「そんなに驚くこと?」
「七月なのに暑すぎるだろ。これなら八月でもいいくらいだ」
「たしかにね。ここが都会だからかもね」
「そうだな」
俺の住む街は夕菜の言った通り都会と言っていい。だが、正確には大都会という感じだ。
中心部は高層ビルが立ち並び、それに相乗して飲食店などがひしめいている。一日歩いても全てを網羅することは出来ないだろう。現に地元人の俺はどこに何があるとか全く分からない。
このまま目的地が定まらないまま、暑い街中を歩き続けるのは嫌だ。何より夕菜にも悪いので聞くことにする。
「どこ行きたい?」
「そうだねー。……服が見たいかな、もちろん連くんのおごりでね!」
「誰がお前なんかに奢るかよ」
「けちー」
「さっきの仕返しだ」
軽く歯見せて、そうあしらう。
「はいはい」
夕菜は口もとをゆるめて返答し、「ほんと素直じゃないな」と小声で付け加える。
「今何か付け加えたな」
「素直じゃないなーって。だってここまでずっと私の手、つないでくれてるもん。ちょっとドキドキしちゃったー。なんてね?」
気さくな口調で俺をからかう。
なので、「もう一生おごってやらねー」と反論してやりたいが、一応夕菜の手を繋いでいるのかを確認する。
そこでそれが本当だと分かると、顔から火が出るような思いになる。
「帰る!」
慌てて自分の手を夕菜の手を離す。
「あーあ、言わなきゃ良かったなー」
残念がる彼女を尻目に踵を返して早歩きで行こうとする。
今すぐ死にたいぐらい恥ずかしい。ましてやこれが俺の夢の中とすれば尚更だ。
だが夕菜に腕を掴まれて引き止められる。
「だーめ!」
「帰る!」
「だめ!」
「帰るったら帰る!」
「だめったらだめ!」
そんなやり取りが何回か続くと、何だか可笑しな気持ちになった。
気持ちを落ち着けため、ハァと息を吐く。
それと同時に笑いがふつふつとこみ上げてきて、笑い出す。 それにつられたのか、夕菜も次第に笑い出した。
†
一分間ぐらい笑い続けた俺達は、その光景を怪訝そうに眺める道行く人達の視線が気になった。しかもそれが段々と痛くなっているように感じ、どこかの店に逃げこむことにした。
だがその店は高級店だったらしく、値札を見た俺達はその金額に目が飛び出そうになり、「私たちにはまだ早いね」と真顔で夕菜が言い、お互い頷いてその店を出た。
「で、どうしよっか?」
夕菜にそう問われて、どうしようかなーとなったが、ふと思い出したことがあったので、それで答える。「お前、さっき服が見たいって言ってなかったか? どうせならそこにしないか?」
すると、途端に夕菜の表情が明るくなり、子犬のような目つきで俺に懇願してきた。
「うん! すっごく行きたい!」
「決まりだな」
「決まりー! 連くんお手柄だねー。このこのー」
そう言って、俺の体を肘でつつく。
それに対し、空笑いで応答した。
「どういたしまして」
話が終わり、移動すると思いきや夕菜は全くもって移動する気配がない。
「……行かないのか?」
「え? 連くんがつれてってくれるんじゃないの?」
「俺が知ってるわけないだろ!」
「ほんと肝心なとこがだめだなー」
──……毎朝俺に起こされてる人に言われたくないんですが。
「いい? 男の子ってのはね、女の子をリードしてあげなくちゃいけないの。舞踏会とかでもそうでしょ。男の子が女の子の手を取って……こんな感じにね? だから男の子は、女の子の行く店をリサーチしてデキるってとこを見せなきゃ」
──毎朝俺に起こされてる人に言われたくないんですが。
「……聞いてる!?」
「へいへい、聞いてますよー」
「なにそのふぬけた返事は!?」
「だって何か煮え切らないからさ」
「煮え切らないって?」「お前が言ってるのってデートのことだろ? それなのにそんな説教じみたこと言っちゃっていいのかなーなんて」
「どうして?」
「雰囲気が壊れるだろ。だからそういうことが言えるってことは、これがデートの内に入らない、って思うと煮え切らなくなるのも当然だ」
「な……」
素朴な疑問とからかいを混ぜつつ言う。
すると夕菜は言葉を失い、口籠もる。
しかし次に発した言葉は、思いっきり彼女をからかったものだった。
「ずっと俺はこれをデートだと思ってたんだが。夕菜は違うのか? ……もしそうだったら悲しいな」
「…………」
何も言い返してこない。ちょっとキツかったか……。まあ、こんな夕菜を鑑賞するのも悪くないな。……あ、やっといつもの調子に戻った気がする。
でもあれだ。軽くからかったつもりが、これでは空気が悪い。
「なんてな。そんなこと思ってねーよ。俺達は幼馴染だし、今更そんな風に思ってあれだろ?」
「…………はは、今更だよねー」
少し乾いた感じに笑い、その後わざと明るく振る舞う。
「素直じゃないのはお互い様か」
そう小さくぼやくが聞かれていないことを願いたい。
何も反応が無い辺り、どうやら願いが叶ったのかそれは聞こえていなかったようだ。
しかも「行くよ!」と言って、すたすたと先に行ってしまった。
「全く子供だなー。ま、服の一つでも奢ってやるかな」
両手を後頭部に置きながら、思ったことを口にする。
そして俺はその後を追いかけた。
†
「なーまだかー」
俺はカーテン越しに、その向こうにいる者に言い放った。
返答はない。ただ、「むむー」という呻き声だけが聞こえてくる。その呻き声の主は当然、夕菜である。
服を見に行くことになった俺達は、この街でもかなり大型のデパートに入った。その中の店を見て回って、これで三軒目である。 ちなみに二軒目では「デザインはいいけど……せっかく連くんにおごってもらえるんだから保留にしとく!」と言って、何も買わなかった。いい加減早く決めてほしいものだ。
正直言って、女子の服なんてどれが良いとか分からないし、見て嫌にならなければ……と思っている俺は間違っているのだろうか。
まあ、男の俺が考えても分かるわけない女心というものだろうけど。
何にせよ早く決めてほしい。若干の苛立ちでつい声を上げる。
「試着室に入って、何でそんなに時間かかるんだよ!」
すると、唐突にカーテンが開く。
「やっと着替え終わ……」
目に飛び込んできた光景に、俺は言葉を失った。