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追憶

あれ?なんで、夕菜がいるのー!?

それもそのはず。

そこは……。


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 「……くん……ぇんくん……連くん」


 ──声が聞こえる。あの夢で聞く声とは違う声が。

 深い暗闇の中、俺はその声に耳を傾けていた。

 ──…………夕菜か?

 そうだとすると、さっきまでの出来事は夢。

 それはどんなにいい事なんだろう。あれが夢であれば、全て嘘。

 いつもの現実が戻ってくる。戻ってくるのは少し憂鬱だが、こっちの方が耐えれる気がする。


「もー連ってば!」 


 その一声で、暗闇の中に大きな光が生まれ、すぐさま俺の意識を吸い込んだ。


「……んぁ……」

「やっと起きたー。もう約束忘れないでよ!」


 状況が飲み込めなかった。約束なんてした覚えなんて無かったはずなんだが。

 そこには上は白のワンピース、下は黒のニーハイといういかにも夏らしい格好をした夕菜が立っていた。

 部屋。紛れもなくそこは俺の部屋だった。

 夕菜が付けたと思われるエアコンが絶賛稼働中である。まあ、寒いからな。

 にしても夕菜の格好は寒すぎやしないか、とそんな考察を次々と展開していく。


「何? さっきから人をまじまじと見つめて。あっ! ……またぐだぐだと余計なことを考えているでしょ?」


 右手の人差し指を唇の近くに添えて、軽く首を傾げて俺に問い掛ける。

 その問い掛けによって、俺の胸に何かがグサッと刺さった。


「悪いかよ」

 唇を少し尖らして俺は言い放った。


「悪いとは言ってませーん」


 悪いじゃなかったら何があるんだよ! と思うもののなるべく考えないようにしよう。

──ただ、苦手だな……。

 心の底からにじみ出る言葉。普通の人なら何も考えないで言うのが楽だろう。

 しかし、俺はそうではなかった。

 いつからこうなってしまったのだろうか。俺にも何も考えないでものを言っていた時期があるはずだ。いつからこん……。


「……んぐっ!」


 そこで俺の思考は一つの刺激によって絶たれた。


「痛ってぇ」


 俺がおでこの痛みでそこを押さえていると、感じの悪い顔で俺を嘲笑った。


「デコピン攻撃。どう? 効いたでしょ?」

「加減を考えろ」

「考えるからいけないんだよー。ほんと連くんってばどうしてそうなっちゃったんだろうねー?」

「気を付ける」


 こういう所はやたらとするど、おっと。考えないように、考えないように。

 咳払いをして、俺は夕菜に話題を振った。


「で、約束って?」

「え!? まさかそれ本気で言ってるの?」


 夕菜が不愉快そうにムッとする。今にもはち切れんばかりだ。


「……本気です」


 自分の不甲斐なさから夕菜と目も合わせられず、声も大幅にミュートする。


「ひどい!」

「わ、悪いって」

「悪いと思うならどうして覚えてないの!?」

「仕方無いだろ。覚えてないものは」

「仕方無い? 今日という日を仕方無いのたった一言で台無しにするわけ?」

「そ、そうだ! 記憶が、記憶が無くなったんだよ!」


 すると夕菜は呆気に取られて頓狂な声を上げる。

 どんなに見苦しい言い訳をしているんだよと自分でも思ってしまった。

 が、ここでその打開策を考えると……うん、またやられそうだな……。

 ──なら、押し通すしかない!


「ほらあるだろ? えっと何だったかなー。そうそうあれだよあれ!」

「…………」


 まさにカオス。どんどん事態がドロ沼化していってるぞ。


「……あーなるほどー」


 おっ! 今の言葉だけで分かってくれたか!

 そう思ったのも束の間。


「ははん。じらしプレイかー」

「なぜ今の問答でそうなる!」

「まず覚えているはずの約束を忘れたとして、私をとことん呆れさせる。ナーバスになった私をじっくりと煮込んで、最終的にはハッピーにさせる寸法……。実に奥が深い」


 突如悟りを開き始める夕菜に俺は水をさす。


「それ自分で言っちゃっていいの?」

「あぅ……」


 夕菜がたじろいでいる間に俺は時間を確認する。目覚まし時計は八時半を差していた。


「八時半か」

「えっ!? もうそんな時間!?」

「ほら」


 そう答えて俺は目覚まし時計を指す。


「連くん早く着替えて!」


 夕菜がかすが、俺には懸念があった。


「学校に行くとかじゃないだろ? だってお前私服だし。かす必要あるのか?」

「今日は連くんにエスコートしてもらうんだからたっぷり時間がほしいからね」

「無駄に理にかなってるな」

「じゃ、私は下で待ってるから」


 軽目に言い放ち、夕菜はその場を後にした。


「さてと。着替えるか」


 着替えようとクローゼットを開け、そこから服を出そうとする。

 勿論冬服をだ。


「にしても夕菜の奴おかしいよなー。冬だというのに夏服なんて着て……あれ?」


 疑問の声がそのまま漏れる。

 そこにあったのは冬服でなく、夏服であった。


「どんないたずらだよ」


 文句を垂れながら冬服を探す。

 探している時に偶然にも下に落ちていたエアコンのスイッチを見つける。


「あ、そろそろ切るかー。っておい!どういうことだ!?」


 表示されていたのは冷房、二十八度であった。

 つまりおかしいのは夕菜でなく、俺であるのだ。

 始めから分かってたそんなことぐらい。ただ可能性があるならそちらに賭けてみたくなった。あれが嘘だという空虚な妄想に取り付かれてしまったせいであろう。


「ここは夢なんだな」


 吐き捨てるように言った。

 そして渋々ながら着替えだす。夢であるとはいえ、何時までも待たすわけにはいかない。

 その時ふと気付いてしまった。 不安と期待が俺にこう言わせる。


「どうやったら戻れるんだ……」


 このまま一生夢のなか生きるのか?俺は……。

 そう思い始めると、腹から笑いがこみ上げてくる。一種の喜びであったのかもしれない。ここは夢であるが、目が覚めない限りここは現実となる。

 改めて辺りを見回す。視界は朧げでなく、はっきりとしている。

 先程まで意識していなかったが、触覚の方はどうなのだろうか。確認するまでもなかった。


「そういえばさっき夕菜にデコピンされたっけ……」


 された箇所をさすって痛みを思い出すように言った。

 すると色々やっていたせいか、下からはやす声が飛んでくる。


「ねぇ早くー」

「悪りぃ、今行く」


 自分の体を奮い立たせて、いや正確には意識か。

 恐ろしいくらいの早技で着替えを済まし、ドタドタと音を立てて下へと降りた。


 下に降りると、夕菜がムスッと「遅い!」と言って責める。


「待たせてごめん」

「待ったよー。でも謝ったから許してあげる!」


 その言葉だけでも心にくるものがあるのに、柔和な表情というおまけ付きだったので俺の胸の高揚を加速させる。

 ん? その表情が段々と歪んで不敵な笑みへと変貌しているのは気のせいだろうか。

 無論気のせいではなかった。

 右手を俺の顔の近くに持ってきて、指をデコピンしようと中指を親指に収納している。

 無言で「されたいの?」と言っている感じだ。

 当然「されたい!」と思うわけないので、


「またなってたか」


 そんな自責も含めた声を発した。

 うんうんと頷いて俺の顔から指を離すと「行こ?」と言ってドアを開けようとする。

 だが、俺はその場から動かなかった。


「何か忘れてる気がするんだよなー」

「何を?」

「えっと……」

「私、連くんの部屋見てくるね」


 夕菜はそう言い残して上に向かうが、俺の耳には届かなかった。


「……んー、あっ! エアコンか!」

「そうだボケ」


 俺が気付くと、いつの間にか戻ってきたらしい夕菜に罵倒され頭をはたかれる。


「……言っとくけど、付けたの俺じゃないからな!」


 反論するものの浅はかすぎる反論であった。


「たとえ付けたのが私であっても最後まで使ってた人が後始末はきちんとする!」

「…………」

「まさしく今の時代はエコの時代! 電気の無駄遣いは少しでも抑えないとねー」

「ぐぬぬ……」

「ごめん嘘嘘。悪いのは私だよー。気付いてくれてありがとね」

「……あぁ」


 その時、俺の謎のバロメーターが一気に急上昇する。

 ここが夢の中であるというせいもあるだろう。

 そんな気持ちを押し込むように夕菜の手を引き、外へ出た。

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