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異変の始まり3

終神さんから挿絵を頂いた為、それの掲載に合わせて更新しました。

終神さん本当にありがとうございます。


またこの作品を読んで下さっている方、応援して下さっている方、心より感謝しています。

『…………連くん本当は気付いているんでしょ? 私が嘘をついているってこと』


 この言葉を咀嚼(そしゃく)しきるまでに数秒の時間を費やした。

 もしここで何かを飲んだり食べたりしていたならば、間違いなく吹いてしまっていただろう。そうならなくて本当に良かった。しかしそのことに安堵してはいられない。夕菜の不意打ち発言に対してどう返したらいいかだ。おそらくここで動いて何か掴まなければ、機会チャンスはもうない。

 分かっていても一体何て言えば良いんだ……! 考えろ! 考えるんだ! 白樫連!

 時間も永遠に待ってくれるほど優しくない。どうするどうするどうする……!?

 ──…………考えがまとまらない。こうなったらまとまらなくても言うしかない!


「……気付いてた。それにしても、どうしてそう思ったんだ?」


 正直に返す。今はきっとこれでいいはずだ。


「だ、だって……さっきの連くんの目…………ずっと私を疑ってたから……」


 夕菜は視線を落としてそう言った。

 まさか!? と思い、目を見開いてしまう。

 平静を装っていたつもりなのに夕菜にはばれていたのか。だが今更後悔しても遅い。ばれてしまったことはもうどうにもならない。


「……そうか」

「私ってそんなに嘘をつくの下手かな?」

「下手じゃない」

 これに関してははっきりと言える。普通は夕菜が改心したとしか思わないだろう。


「でも連くんにはバレちゃったし……」

「付き合いが長いからだろ」

「だからかー。やっぱ連くんは誤魔化せないなー」


 納得した感じに言い、意気揚々と自分の席へと戻って行った。それがどこかバレないで欲しかったと残念がっているように見えるのは気のせいだろか……。

 その時俺は自分が犯して過ちに気付いてしまい、肩を落とす。

 ──……そう……本当は何なのか聞き出せなかったのだ。聞き出せる機会チャンスを逃してしまった。もう機会チャンスが巡ってくるのは無いと思った方がいい。全く情けない。何かしら動かなければと思って、考えがまとまらないまま動いた結果がこれかよ。情けないランキングとかがあったらランクインしているレベルだ。


            †


 そのまま朝のSTが始まった。担任は急遽休みであるらしく、副担任が入ってきた。大事なことを連絡をしているだろうが、俺の耳にまで届かず、内容はそのまま流れていく。


『あーあ。やっぱり無理矢理にでも聞きに行った方が良いか……』


 そうは思っているが、行動に移すというまでが出来ない。聞くのが怖いのかもしれない。夕菜に対してはそれなりに何でも聞けるものだと思っていたのだが、出来ていない。

 俺ってこんなにも弱かったんだな……。

 心の中でそう自嘲した。敢えて情けないではなく、弱いとしたのは自分はこういうのに多少なりとも強いと思っていたからである。それが見事に打ち砕かれた。

 ……全く惨めなこと極まりないな。


            †


 朝のSTが終わっても俺は放心状態だった。

 ただただ時間が過ぎて行くのだけを感じるしかない。

 それを破ったのは夕菜だった。


「連くん話があるの……」と言って無理矢理俺を引っ張って行った。


「なあ夕菜。何処に連れて行く気なんだよ」


 そう言ったが、夕菜は何も答えなかった。

 その強引に連れ出す夕菜を見て、俺は『俺と違って強いな夕菜は。』と微かに羨望していたのかもしれない。 夕菜に連れて行かれた先は屋上だった。

 登校した時にはまだ少し怪しかった程度の空も陰鬱(いんうつ)な空へと変わり、その空が今にも落ちてきて俺達を包み込んでしまいそうだ。

 まるでその空はこれから起きることを予期しているかのようである。

 ようやく夕菜が俺の手を離した。

 そして夕菜はフェンスの方へと歩いて行った。まさか夕菜は……!

 そこで思考を止めた。想像するだけでも嫌なことであったからだ。


「大丈夫だよ。自殺はしないから」


 夕菜もそういう連想を俺に抱かせない為にそう言ったのであろう。その一言で俺の一抹の不安は拭われた。良かったと思い、安堵すると途端に二つの疑問が生じた。 一つ目はここが普段立ち入り禁止になっているということだ。気持ちが落ち着いた今ならその異常さがよく分かる。戻って出入り口を見てみると、見事に鍵が壊れている。

 ……夕菜が壊したのか? いやそれはないはずだ。よくは思い出せないが、夕菜は普通に出入り口を開けていた。これも夕菜に聞いた方が良いはずだ。

 よくよく考えれば、機会チャンスがまた巡ってきたのだ。これはもう感謝するしかない。


「……なあ夕菜。ここって出入り口に鍵がかかっているはずだよな……?」


 どうしたものなのだろうか。声が軽く震えてる。

 このあまりにも異質イレギュラーな状況に、これを頭の片隅で夕菜がやっていると思っているのだろうか……。

 夕菜は俺の質問に答えなかった。代わりにこう言った。


「……本当の事聞きたい…? 連くん」


 それを発している夕菜は俺の顔を見ていなかった。まだ言うべきかどうか躊躇ためらっているのだろう。

 しかし俺には聞かないという選択肢はなかった。


「ああ。聞かせてくれ」


 これで俺の逃げ場はない。逃げ場はなくなったが、逃げてしまうよりかはよっぽど良い。

 ──これで良い。これで良いんだ……。

 おまじないじみた感じで心の中にそう言い聞かせる。


「……連くんならそう言ってくれると思ってた。じゃなきゃ、わざわざこんな所まで連れ出さないもの」


 いつにもまして口調が真剣さを帯びているように聞こえる。

 これは俺が期待でもされているのだろうか……。

 ──期待……か。

 何かの本で見たのだが、期待とは諦めから出る言葉であるそうだ。ということは、俺はそれなりの存在として夕菜に買われているのか?

 嬉しいと思う反面、俺には重い肩書きだなと思う。

 その思いが蓄積されすぎてしまったのか、思わず口から言葉が出てしまう。


「……期待でもしているのか? 俺に」

「そうかもね」

「……買いかぶりすぎだ」


 夕菜の言葉に気恥ずかしさを感じ、頭を軽く掻きながら言う。

 ──随分と気前が良すぎやしませんか?夕菜さん。選りに選って、この俺にベットするなんて。


「買いかぶってなんかないよ。連くんなら本当にどうにかしてくれそうだもん」


 大層高く買ってるなと思い、何か返そうとしたが、何も言えなかった。

 なぜならその言葉に異様な圧力を感じたからだ。つまりおぞましいまでの使命感が俺に課せられている気がするのだ。

 よって何も言えないのは自然と無言の承諾になってしまうということだ。

 俺の返答がこのまま待っていても無いと見たのか、夕菜は続けた。


「…………実はね……私、脅迫されてるの」 それを聞いて俺は唖然とした。


自ずと「誰に?」と聞いてしまう羽目になる。時折深く考えないで言ってしまう自分が少し腹立たしくなってくる。

 当然答えは次の一言だけであった。


「…………言えない」


 その時、胸が痩せ枯れるのを誇張するかのように胸がキリキリと痛んだ。


「……分かった」

「ごめんね」

「いやいいよ。で、脅迫されているのとどう関係してるんだ?」


 少し深い所……つまり夕菜の気に障りそうなギリギリのラインで聞いてみる。

 しばしの沈黙。

 11月のせいか冷たい風が肌を撫でる。その冷たさは物寂しく痛いのだが、家を出る時に感じたのと感じが違う。

 ──やはりあれは季節のせいではないのか……。

 なるべく触れないで置こうと思ったのが、何故か出てきてしまう。

 ──もしかしてあの事件と夕菜が関わっているのか?

 仕舞いにはそんな連想にまで行ってしまった。ちなみにあの事件というのは朝やっていたニュースのことである。

 関係あるはずないのに……。

 ……それにしても夕菜がさっきから黙ったままだ。もう少し段階を踏んでから聞くべきだったと反省していると、ようやく夕菜が口を開いた。


 「…………親がね、誘拐されたの。そいつは私のストーカーで、最近よく連絡が来るの。『早く俺の言いなりになりなよ。悪いようにはしないからさ。』とか『古谷のことが好きなんだ!!好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ!!』とかね。まあ、内容だけ見て無視してたけど」

 出来るだけ俺に重く感じさせない為か軽く言っているのであろうが、顔が引き()っている。

 それ言うのも……いやそれを思い出すのもしたくなかっただろう。

 しかし現に今、夕菜は俺に話してくれている。改めて夕菜という人の強さを感じた。


「……でもそれだけでは済まされなくなったの。昨日の夜いつものように連絡が来たの。『どうやら俺の愛が伝わっていないようだな。俺の愛が本物だっていうのを分からせてやる。』ってね。以前も同じ様な内容が来てその時は翌朝ポストを開けたら手紙が入っただけだったから、今回も同じだろうって私油断してたの……。その油断が……その油断のせいで……あんなことを招くなんて……」


 そこまで言うと、夕菜は堪えきれずに泣き出した。夕菜の嘆きが空にまで伝わったのであろうポツリポツリと空も泣き出した。


「……夕菜」


 俺は慰める様に片手を夕菜の頭の上にゆっくりと置き


「雨が降ってきた。中に入ろう」


 そう言って、頭の上に置いていた片手を夕菜を支えるようにわざとらしく肩に掛け、夕菜を連れて屋上を後にした。

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