断章【2】
挿絵が完成したのでこの話投稿後はらせていただきます。
挿絵完成に合わせた連続投稿、どうかお楽しみ下さい。
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『…………白樫連と古谷夕菜に【リング】を渡しに行った者が何者かに襲われ、殺されました! 尚、【リング】はその者に二つとも奪われた模様です!』
根路と金持は、少女が言ったことを飲み込めずに無言で突っ立っていた。
しかし、少女の真剣味を帯びた青い眼差しで「白樫連と古谷夕菜に【リング】を渡しに行った者が何者かに殺されたのです……」ともう一度事実を告げ、ようやく根路の方が口を開いた。
「もっと詳しく説明してくれ……」
落ち着きを完全に取り戻した少女は事務的に応じ、自分の記憶をたどりながら説明を始める。
「はい。えっと、昨夜の夜頃だったと思います。私の元に一通 の連絡が入りました。文面からおそらく本当は良子さんに連絡しようとしてたのでしょう。で、肝心の文面なのですが──襲った者が打ったと思われます。見ますか?」
少女──蒼木なごみは灰色のフード付きパーカー、薄青のショートパンツというラフな格好であった。
なごみはショートパンツにあるポケットから携帯端末を取り出し、文面がどこにあるか探す。
ようやく文面が見つかったのか、なごみが小走りで根路の元へと駆け寄ると、同時に発育のいい盛り上がった部分も揺れた。
「自由さん、どうぞ」となごみは片手で前にかかっている綺麗な色をした金色の髪を耳元までかきあげて、根路に携帯端末を手渡す。
「ありがとな、なごみ」
根路が屈託のなく笑いかけお礼を言うが、なごみはどこか遠慮がちな表情をなった。おそらくなごみは、自分なんかが褒められてもいいのだろうか? と思っているのだろう。
それを根路は少し寂しそうな顔をして見つめた後、先ほどから黙ったままの金持を一瞥した。
「おーい金も……」
根路は、今はそっとしておいてほしいという雰囲気を作り出している金持の様子を把握し、呼びかけた名前を止める。
結果、根路はなごみと二人で見ることになった。
しかしなごみは、やはり遠慮でもしているのだろうか根路の方に来て見るのではなく、その場から根路と向かい合う形で見る。
『俺はセフィロトの樹から《能力》を授かった者だ。あんたらの方から俺に接触し、この武器を渡した。本当に感謝してるよあんたらには。俺に本能を思い出させてくれた。だから今回のことを招いた。この二つの武器はありがたくもらっておくことにするよ。一つ確かめたいことがあるしね』
見終わると根路は深くため息をついて「考えが甘かったなー」と反省の色もなく言った。
「それで自由さん。どうします? 私が白樫連に【リング】を渡しに行きましょうか?」
「んーなごみが行ってくれるのは嬉しいけどなー。もしなごみの身に何かあったら……と思うと私は口から胃が飛び出そうだよ」
クスリと笑いなごみの身を案じるが、なごみは淡々と自分の意見を言う。
「自由さんが私の身を案じてくれるのは嬉しいです。ですが、私達の仲間を殺した人物は白樫連のいる世界にいるのかもしれません。もし他の人を行かせて同じようなことが起こってしまったらと思うと……。だからこそ、《能力》を持っている私が行くべきなんだと思うのです」
根路は目を閉じて、なごみの言葉を一字一句噛み締めるようして聞いて──
「なごみがそこまで考えていたなんて知らなかったよ。これも成長というものなんだな……。うん、分かった。行っていいぞ」
「ありがとうございます」
深々しくなごみがお辞儀をし、し終わると踵を返してその場から早足で立ち去ろうとする。
しかし話はまだ終わってないと言わんばかりに、慌てて根路が呼び止めた。
「あー!! 待った待った!! 白樫連と接触するって言ったってどういう風に接触するんだ? ほらね、今回の事件もあったし、そういう所を考え直すべきなんじゃないかなと思ってさ」
「ちゃんと考えていますよ」
そこでなごみは一拍置き、
「……高校に行きます!」
なごみは根路の方へと振り返り、嬉しさが十二分に伝わる笑顔を見せる。
「高校? 手続きとかしないと出来ないだろ」
「手続きは金持さんにしてもらいました。ねー良子さん」
先ほどとは別人になったかのように、なごみは金持の頬に自分の指を押し当てる。
すると、金持もなごみのテンションが伝染したのか「もーなごみちゃんったらー」と明るさを取り戻した。
その時、おほん! というわざとらしい咳の音がして、なごみと金持の二人は音源の方を向く。
「金持くん、君はもう大丈夫かい?」
根路がそう気遣うと、金持は若干振り切れてないのはあるようだがコクリと頷いた。
大丈夫、と根路は読み取り、話を高校の話へと戻した。
「それで金持くん。高校の手続きをしたっていうのはホントかい? だとしたらいつからなごみは高校に行くことになるんだ」
「なごみさんからそう頼まれたので、させていただきました。でも、今回の事件があったから……ではないですよね?」
金持は隣にいるなごみへと話を振る。
突然話を振られて、なごみはえっ!? 可愛らしい声を上げて驚くがすぐに平静を取り戻して答えた。
「はい、金持さんの言う通りです。私……学校というのに行ってなかったから……。前からすごく行きたいと思ってたの。それで《能力》を持つ者に【リング】を渡すという会議があった時、私は《能力》を持つ者が十一歳から十八歳の子供だというのを知った。しかもその中に私と同じ年の二人を見つけて、心の底から嬉しかったの。何にも関わりはないけれど……何でか分からないけれど…………仲間がいるんだって……思えたの……だから、だから」
次第になごみの目がウルウルとし、雫が一滴こぼれるとさらに一滴、また一滴とこぼれた。
泣き出すなごみの頭を金持が優しくさすってやる。
すると、根路は何か意を決したかのように息を吐き出した。
「……そうか……悪かったな、なごみ。よし、私も決めたぞ。あえて問題を蚊帳の外にしていたが」
根路はなごみと金持の顔見て頷き、こう告げる。
「古谷夕菜の件は私が受け持とう」
予想外の告白に金持が剥き出しの感情を露わにして根路に迫った。
「どうしてあなたが行くんですか! そういうことならこの私に押し付けて下さいよ! セフィロトの樹と【無】の境界線には結界が張られているはずです、もしその結界を越えようというものなら、ただでは──」
そこで金持の言わんとしてることを手で制し、根路は視線を落とす。
金持は根路が意図していることを悟り、震える声を出した。
「……根路さん……あなたもしかして……」
すると力が抜けたようにそこには普段の明るい根路の表情はなく──無理矢理口角を上げて笑う、愁いを帯びた表情へと変わる。
「…………いや、いいんだ」
それ以上根路の言葉に食ってかかることはなく、場は長い静寂に包まれた。
「金持くん、少し席を外してくれるかな?」
一言。
一言がその静寂を断ち切った。断ち切ったのは無論根路である。
根路が言った言葉を金持は無言の承諾をし、軽くお辞儀をしてその場を後にした。
『ありがとう……。本当にありがとう……。金持くん、このことは一生忘れないよ』
消えた一つの影に対して、根路は心の中で感謝の言葉を漏らす。
「なごみ、ちょっとこっちに来なさい」
根路の呼びかけに躊躇いを見せたものの、コクリと頷くと根路の目の前へとやってきた。
そして自分の頼みに素直に応じてくれた、なごみに優しく心の内に留めていた思いをさらけ出す。
「なごみ……。私と私の妻のすずめが《能力》を持つ者という理由で孤児だった当時十二歳のお前を養子として引き取ったと思っているよな」
「……」
「否定はしない。引き取った当初、私達はお前を人間としてではなく、道具として見ていた」
いつの間にか根路の耳は赤くなり、目はウルウルとしていた。
「本当にすまなかった」
「…………」
「だが、二年前のことがあってからだ。二年前の【チェンジ・ザ・ワールド作戦】ですずめと散り散りになってしまい、私の穴にはポッカリと風穴が空いてしまった。……心のよりどころがほしかった……。それからだ、お前のことを娘として見るようになったのは」
娘という言葉を聞き、なごみは瞠目する。
しかし、何も言えず根路の言葉を待った。
「気づくのが遅すぎた。その頃には私とお前とではすっかり壁が出来てしまった。今では私のことを自由さんと呼ぶ始末だ」
ブハッと根路は笑いだすが、すぐにそれは枯れた笑いへと変わる。
「……全く情けないことこの上ないよ、私は」
「…………」
「ただ一度でいいからお前にお父さんと呼んでほしかったな」
そこで根路の話は終わった。
再び静寂に包まれるかと思われた時──小さな声が聞こえた。
「……ぉさん」
その声の主はなごみである。やがてその声ははっきりしたものへと変わる。
「ぉとおさん、おとおさん、お父さん! お父さん!!」
なごみが自分のことをお父さんと呼んでくれるのに、根路はポロポロと自分の目から雫を落とした。
根路がなごみの元へと駆け寄り抱きしめると、なごみも抱きしめ返す。
「なごみ! なごみ! なごみ!」
根路は何度も少女の名前を叫んだ。