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三話



「話をまとめると、ここは地球ではない。フェイは生贄になることでこの場を活性させるだけで精霊が目覚めるほどではない。精霊は世界の魔力が低下に伴い寝ていた。俺が摩訶不思議能力でこの場を魔力で満たした上に精霊を目覚めさせた」

「あっている」


川辺で長堂と精霊は向き合い、座して会話をしていた。フェイは精霊が恐れ多いらしく、少し離れた位置で土下座をしている。

長堂は己の体からほとばしる光を指差し、言う。


「これ、どうにかならない?」

「それはおそらくお前の"能力"だろう。どうにかできるが、それによって俺の力が戻ってきているから、今はそのままにしておいてくれ」

「わかった。それで地球に帰る方法は分かる?」

「いや、世界転移何て聞いたことが無いが、しかし探せば能力であるかもしれない」

「そうか……」

「世界転移の能力者を探して帰るよりも、まずは世界の魔力を満たして欲しい。世界の魔力が枯渇しかかってるのだ。何、世界を魔力で満たせば、おのずと能力者も覚醒して増える。この枯渇しかかった世界で探すよりはよっぽど現実味があるぞ」

「それで俺は何をすればいいんだ?」

「簡単なことだ。その状態で世界を歩いて回ればいいだけだ」

「世界一周の旅ってか……。バイクでも欲しいところだ」

「ま、俺の力が戻るまでここで数日は過ごしてもらうことになるから、ゆっくり考えてくれればいいさ」


精霊はあまり乗り気では無さそうな長堂を見て、


「うむ、そうだな、魔法を教えてやろう」

「数日間よろしく頼む!」


長堂は笑顔になった。


「そうか、やってくれるか。こちらこそよろしく頼む」


薄い青色で半透明ではあるが、触れることはできるみたいで、長堂と精霊はしっかりと握手を結んだ。


「そうだ、俺は長堂ちょうどう 楽斗らくとだ。何とでも好きなように呼んでくれ」

「そうか、俺は青の精霊と呼ばれていたが、そうだな、シル、とでも呼んでくれ、世界の救世主様」


ニヤニヤと笑うシルとは反面、長堂は引きつった笑みを浮かべて言う


「やっぱりそうなるのか?」

「まぁな。ま、気楽にやればいいさ」


そう言いつつ、精励はまだ土下座をしているフェイの方を向き、


「堅苦しいことは俺は好かん。女子も表をあげて会話に入ってこい」

「そんな、恐れ多いです」

「そうか、ならば命令だ。面を上げて近寄ってこい。世の情勢が知りたいのだ」


それでも迷っているフェイを見かねて、まどろっかしく感じた長堂は、立ち上がり、土下座フェイの横まで行くと、脇に手を突っ込み、無理やり立ち上がらせた。


「な、なにをするのですか! おやめください! 救世主様!」


手足をばたつかせ、必死に抗議するが


「もっとさ、楽しくいこうぜ!」

「よ、喜びに満ちておりますが、それとは別です! 精霊様はこの辺り一帯の守り神様なのです」


その後やり取りを続けるが、なんともならず、また土下座体制に戻った。


「まあ、仕方あるまい。そういう頑固者もいる。いったん一息つけるぞ。数日間過ごす住居を案内しよう。俺が昔使っていた住まいだ。封印していたので使えるだろう」

「おお、用意がいいな!」


そういって、シルと長堂が立ち上がったところで、フェイから声が投げかけられた。


「すみません、精霊様、救世主様。私は一度村へ戻り、皆へ報告に行ってもよろしいでしょうか?」

「そうか、行くといい」


と、シルが返事を返した。そしてフェイが森へと姿が見えなくなったところで、シルが、ニヤつきながら長堂に声をかけた。


「行かせていいのかな? あの女子、悪徳領主に手篭めにされてしまうぞ」

「……どういうことだ?」

「何てことは無い。ここでひとつ、とある悲運の女子の物語をしよう」


と、シルは、


「本来、ここの生贄になるはずだったあの女子は、ある日、領主が目をつけ、女子を妾にしようとして、生贄の話を強引に中断する。そして代わりの生贄が明日、来ることになる。そこであの女子は一人、領主の監視の目を潜り抜け、無断で本日、生贄に来たというわけだ」


シルのドヤ顔で語られた内容に、長堂は眉をしかめながら、返事をする


「何で、それが分かるんだ?」

「心を読むことぐらい分けないのさ。ましてや渦巻く悲壮な思いなどたやすく、な。まぁなんだ……さっさと行け小僧」

「――感謝する!」



 ◇  ◇




「これでいいんだ……これで……」


フェイは流れ出る涙を拭きながら、森の中、村へと歩みを進めていた。フェイは自分に言い聞かせるように口を開く。


「これ以上、近くに居てしまうと、ダメだ。あの領主のことだ。救世主だろうと何だろうと執拗に迫ってくる。中には殺された者も居ると聞くし、救世主様の迷惑になるわけにはいかない。いかないんだ……」


つらつらとダメな理由を挙げて、振り切ろうとしていた。それでも耐え切れなくなり、しゃがみ込んで大声で泣き始めた。幾分か経った時、フェイは急に後ろから声をかけらた。


「おい」


フェイは自分の泣き声で誰かが来ていることが察知できておらず、びくっと反応する。


「俺は、この世界の人間じゃない」

「……」

「けど、世界を救うために旅をしなければならないそうだ」

「……」

「旅の仕方なんてこれっぽっちも分からない。この世界の常識もこれっぽっちも分からない。金さえひとつも持っていない」

「……」

「一緒に旅をしてくれる者が欲しい」

「……」

「一緒に旅をしよう」

「……ダメです。私は旅をしたくありません」

「そうか、俺はフェイと旅がしたい」

「……ダメ、です」

「俺は救世主だそうだ。となるとだな、領主なんて虫けらだ。領主がどうのこうのなんて気にする必要は無い。前にも言ったんだが、俺にはお前が必要なんだ」


フェイが振り返って言う


「なんで領主のことを……」

「救世主は何でもお見通しだ――といいたいところだが、実を言うと精霊が教えてくれた」

「そう……ですか」

「まぁなんだ、深く考えるな、どっちの方が楽しそうだ。領主に手篭めにされるのと、俺と旅をするの」

「それは……」

「気楽に考えればいいんだよ、俺はそうして生きてきた、これからもそうして生きてやるつもりなんだ。だから、お前みたいなしっかりしたやつが居てくれると、旅も迷子にならずにすみそうなんだよ!」

「……はい」

「ついてきてくれるか?」

「はい!」



 ◇  ◇



次回 


「よし、じゃあフェイ、服を脱げ!」

「えっ?」


R-0です。


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