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二話

「起きて下さい、起きて下さい」

「んん……」


ま寝ていたいと思う男は、頬に受ける刺激にぼんやりと目を覚ます。目の前にはコートを着た少女が覗き込んで、顔をペチペチしていた。


「君は……?」

「私はフェイです。貴方は?」


男は上半身を起こし、ゆっくりと記憶を思いだす


「俺は、長堂ちょうどう

「ここで何をされていたのですか?」

「んーと、滝行に来て……光ったと思ったら気を失った、と思う」

「見慣れぬ顔立ちですし、旅の修行者ですか?」

「そう、俺は修行者だ。旅のな」


修行者という言葉に何か思ったのか、立ち上がり自信ありげに言った。

急に目の前で立ち上がった長堂に、フェイは顔を赤らめる


「いやっ! 前を隠してください!」


男は全裸であった。


「え、いや、ちょ、これは、いや、うん、服がその辺に置いてたはず」


両手で前を隠し、前かがみになりながら辺りをきょろきょろと見渡し、ひょこひょこと探し回る。とてつもなく情けない後ろ姿である。


「あれ、おかしいな……滝のすぐ近くにおいてたはずなんだけど、ひょっとして上流の滝から流されちゃったのかな」

「この山にはこの滝しかありませんよ」

「でも、覚えてる限りじゃ、俺が滝行してたのはこの滝より5回りぐらい小さくて、滝つぼも膝まで浸かるぐらいだったんだよなぁ」


長堂の目の前に広がる滝は、丸太の1本や2本、流れてきてもおかしくない大きさで、水しぶきも激しく、身体を濡らすほどである。


「記憶が混乱しているのかもしれないですね」

「そうかなぁ……まぁ、そういうことでいっか!」

「では、私のコートをお貸しいたしますので、村へ行くと良いでしょう。川を下っていけば半日かからず辿り着きますので」


そう言ってフェイがコートを脱ぐと、その下には長堂が見たことの無い服装で、白と青で揃えられた着物を重ね着されていた。外国人のようであるフェイが着ても、違和感が感じらず、しっかりと着こなしていた。

長堂は綺麗、凄い高そう、と単純に考え、片手で前を押さえながら、へこっと頭を下げ、コートを受け取った。


「ありがとう。これで何とかなりそうだよ」


後ろを向き、着ようとするが、体の大きさの違いから、主に重要な下半身が隠れそうに無かったので、腰で巻いた。

腰で巻かれたコートを見たフェイは眉を少ししかめた。


「いえ。それよりここは神聖な場所である上に立ち入りも禁止されております。そして私は儀式に入るので、早々に立ち去っていただきたいのですが……」


フェイは淡々と長堂に告げた。


「えっ、ここってそんな場所だったのか! 本当に申し訳ない!」


長堂は頭をかいて、頭を下げた。余所者が勝手に入り込んで、その上全裸で滝行したあげく、勝手に溺れて、巫女様っぽい少女に全裸ご対面である。石を投げられておかしくない。


「もうここには罰するような力も、修行で手に入る力も残されておりませんので、御気になさらず。さぁお帰りください」

「そっか、それじゃあ……」


と、長堂は去ろうとするが、何かが引っかかり、歩みを進めようとしなかった。

長堂は背中に早く行けというオーラを感じながらも、考え、振り返り、言う。


「儀式って生まれてこのかた見たこと無いんだ! ちょっと見て行ってもいい?」

「ダメです」


即答の返答をもらうが、長堂はそれでもすがりつく様に、食い下がった。


「ちょっとだけ」

「ダメです」

「……」

「ダメです」


長堂は一歩も引かないフェイを見て、考え、一息呼吸をし、踏み込む覚悟をしてから喋り始める。


「なんだかさ、楽しく儀式をする者の顔じゃない気がするんだよね。こう、追い詰められたというか、しなきゃいけない、みたいな、さ」


まるで就職活動中の俺みたいだ、と心の中で長堂は言った。

フェイの感情の見えない顔が、少し曇りながら返事がある。


「……そう、ですか」

「俺ってさ、直感を信じてたりするんだよね」

「……」

「その直感がさ、なんだかほっといたらまずい気がしてね。それも命にかかわるような」

「……修行者様は、儀式についてどこまでご存知で?」

「何となくでしか知らないかな。だけどさ、今はさ警察もあるし、法律もあるし、君が死ぬようなことはないよ」

「"ケイサツ"とはいったい何ですか……?」


フェイは首をかしげて聞いた。その様子に、長堂はニュース沙汰になるような事件に巻き込まれた予感しかしなかった。


「えっ……もしかして、監禁されて暮らしていたとか?」

「いえ、隣町に行った事もありますし、行動を制限されていたことはありません」


その答えに、長堂は少し躊躇いながらも聞いた。


「もしかして、そのもしかしてさ……。車や、飛行機、それと――日本、地球って言葉はわかる?」

「分かりません」


長堂は、うわー、と呟きながら空を見上げた。

その様子を見たフェイは


「言葉遊びはもう止めましょうこれ以上、私の覚悟を揺さぶらないでください。貴方は貴方の故郷へお帰り下さい」

「いや、知ってしまった以上は……首を突っ込ませていただく!」

「私が今日、役目を果たさなければ、次の者が明日にも生贄となります。どうかご理解を」


フェイは父にもそのように言って、家を出てきたな、と思い出しながら、滝壺に歩みを進め始めた。


「ちょっと待てって!」


長堂はフェイの腕をつかみ、引きとめ、フェイの顔を見ると、何かを悟っている目をしながらも、それでも笑みを浮かべてお辞儀をする。


「ありがとうございます。長堂様はお優しい方なのでしょう。その優しさを生き残る者達に向けてあげてください」


フェイはそう言って、長堂の指を1本ずつはがそうとするが、力強く握られたその手は離せなかった。


「どうか、分かって下さい。先祖の方々が乗り超え、紡いで来た道です。ここで絶える訳にはいきません」

「ダメだ!」

「幼子のような我侭はお止め下さい……」

「俺が何とかしてやる!」

「お気持ちだけで十分です。本当に、本当にありがとうございます……もう行きます」

「いいか! いいか! 黙って俺について来い! 俺がお前を救ってやる! なんとかなる! なんとかする!」


そう言い切った時、長堂の体が発光しはじめ、噴水のように体から光が勢いよくあふれ出した――!


「な、なんだこれ!!」

「これほど大きな魔力……いったい何が」

「ま、ま、ま、魔力だと!? これ、どうしたらいいんだ!?」

「そ、そんな私にも分かりません!!」


二人が混乱してあたふたしていると、


「うっせええええええ!! 俺の寝床で騒いでるアホゥは誰だ!!」


耳が痛くなるほどの大音量で怒鳴り声が辺りに響いた。

二人は咄嗟に、声の方を見ると、滝つぼから半透明の男が現れ始めた。


「幽霊だと!?」

「精霊様ッ!?」


声が重なるも、フェイの方が何やら知っていそうなので、長堂はフェイをつつきながら、「精霊って何?」と聞くが、フェイは目を見開いて停止したままで返事は返ってこなかった。そうしてる間に、半透明の男は全身を滝壺から出ており、水面に浮いており、口を開く。


「なんだその力……、お前はいったい何者だ?」

「えっと、逆に聞きたい。なんだか分かったら混乱していない」

「変な力を持つ男と、……その連れか?」


長堂はチラっとフェイの方を見て、まだ放心状態だったので、代わりに元気よく答えた。


「1人目の妻だ!」


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