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大人の女性にするために

 次の日の昼休憩に屋上に向かうと、そこには見なれない顔があった。


「沙耶、お前どうした?」


「沙耶ちゃんには大人の女性としてのたしなみを覚えてもらうために、私が連れてきました」


 自慢した顔をする美雪だが、隣でうなだれている沙耶を見ると嫌な予感がしてならない。


「美雪。お前キャラクター崩壊していないか? 学校ではおしとやかで清楚なキャラで行くとか昔言っていたよな」


 そうだ。前回アウトブレーク起きる前は清楚でおしとやかだったはずだ。

 それがアウトブレーク後、こんな性格になるとは思ってもみなかった。

 もっと冷たい奴だと思ったんだがな。


「雄二は清楚でおしとやかだった方の私が好きだったの?」


「まさか。俺は今のお前の方が好きだよ」


 昔の美雪より今の美雪の方が人間味があっていいに決まってる。

 俺がその言葉を言うと彼女は俺に向かって最高の微笑みを浮かべてくれた。


「せっ、先輩。沙耶のことも忘れないでください」


 小さい体を全力で動かしている沙耶はこっちを向いてくれと言わんばかりにアピールしていた。

 そういえばこいつのこと忘れていたな。


「で、今日は何で沙耶がここにいるんだ? お前はいつも理化準備室にいるだろう?」


「それは……」


「まぁまぁ、それよりもごはん食べましょう。早くしないとお昼休み終わっちゃうし」


 そう言われ、美雪の用意したビニールシートを見るとめずらしく重箱が重ねてあった。

 俺の予想していたのとは違ったな。

 美雪なら個別にお弁当箱に分けて持ってくると思ったのに。

 これは俺にとっては意外だった。


「ほら、見てみて。美味しそうでしょ」


 そういい。美雪があけた重箱の中身はたしかにすごかった。

 唐揚げ、卵焼き、おにぎり等のお弁当定番のおかずのほかにも魚の煮付けやポテトサラダもある。

 俺の好きな物がほとんどである。

 さすが美雪だ。

 俺の好みを全て把握している。

「さぁ雄二、食べてみて」

 せかす美雪に何故か息をのむ沙耶。

 美雪がせかすのもわからないが、沙耶が息をのみ、硬い表情でこちらを見てくるのは分からない。

 この弁当には毒か何か入っているのだろうか。


「いただきます」


 そう言い、まずは俺の大好きな唐揚げを一つはしでつまみ咀嚼する。

 うん美味しい。

 外はサクサク中はジューシー、その上味付けもシンプルで俺好みの味だ。


「うん。すごくおいしい。これなら毎日食べたいぐらいだよ」


「本当ですか? 嘘ついているんじゃないですよね」


「おい、そこでなんで嘘つくんだよ。これってもしかして沙耶が作ったのか?」


 沙耶は固まったままの表情でこくりとうなずく。

 あぁ、成る程。だからさっきからこんなに表情が硬かったのか。


「大丈夫だよ。本当においしいから。俺の為に作ってくれてありがとな。沙耶」


 そういい、彼女の頭をなでてあげると嬉しそうにこちらを見ながら笑顔でほほえんでくれる。


「ねっ。沙耶ちゃん言ったでしょ。雄二は絶対おいしいって言ってくれるって」


「うん。美雪お姉さんすごい。確かにお兄ちゃん喜んでくれた」


「でしょ。女の子なんだからこういうこともしないと」


「うん。明日もまた作りたい」


「分かった。明日も2人で一緒に作ろうね」


「うん」


「美雪、もしかしてお前が4時間目いなかったのって……」


「そうよ。沙耶ちゃんにお料理教えてたの。立派なレディーは料理が重要だからね」


 はぁっと俺はため息をつく。

 さっきの4時間目に美雪がいなかったのは沙耶とお弁当を作っていたからだったのか。

 全くこいつは何をやっているのか。


「さっきね、美雪お姉さんと一緒に家庭科室で作ったんだ」


「お前、よく家庭科室の使用許可通ったな。先生に何か言われなかったのか」


「雄二は私の外面が完璧だってこと知っているでしょ。」


 確かに美雪は清楚でおしとやかな優等生として校内では通っていたはずだ。

 それを逆手に取るとは美雪、恐ろしい子。

 もっとも、授業をサボって家庭科室使用の許可を与える教師もおかしいとは思うが。

 それも沙耶がいるから仕方がないのだろう。

 ある意味、沙耶の機嫌を損ねる=学園長の怒りと一緒だからな。


「それにさ、約束したじゃない。立派な大人の女性にするって」


 美雪はどうやら、沙耶との最後の別れのことを話しているようだ。

 そこまで気にしなくていいものを。

 美雪もおせっかいやきでその上律儀なものだ。

 きっと前の世界の沙耶との約束を果たそうとしているのだろう。


「だから、少しでも沙耶を立派な大人の女性にしなきゃね」


「あぁ、そうだな」


 俺と美雪は以前の沙耶との思い出に浸りつつ、今こうして生きている沙耶と一緒にご飯を食べた。

 今ここにいる沙耶は俺達から見ても明るく、眩しい笑顔を向けていた。


ご覧いただきありがとうございます


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