始まりの朝
俺にとって、出会いとは別れの始まりである。
これは大きいことでもなんでもない。
これは本当の話なのだから。
『君と出会えてよかった。私の分まで生きてくれ』
『お前がここで死んでどうするんだよ。お前は俺達の希望だろうが』
過去に言われたことを俺は無意識のうちに頭の中で反芻していた。
希望とか生きてくれとか俺には荷が重過ぎる。
現に今もこうして失敗している。
俺なんかには荷が重すぎるんではないだろうか。
「お兄ちゃん、朝だよ」
俺が起きるとショートカットの髪に人懐っこい目をした妹が俺の上にいた。
岬友梨亜は俺の妹で現在中学2年生である。
見てくれはいいのだが、いかんせん腹黒い。
そしてあざとい。
そんな彼女の一面を知っているため、俺としては妹が苦手なのだ。
「早くしないと、机の3番目の下に隠してあるエッチな本のことをお母さんにいいつけちゃうぞ」
「わかった。今起きるよ」
妹とのこのやり取りももう何回目になるだろう。
俺はボーっとしている頭を叩いて、無理やり意識の覚醒に入る。
「友梨亜。今日はいつだ?」
「12日だけど。」
「違う。何年何月何日って俺は聞いているんだ。」
「はぁ?お兄ちゃん頭おかしくなっちゃったの?」
本当にこちらを見てくる妹がバカなのかを疑うようなことを言ってくる。
こいつは常に俺のことをそう見ているんだろう。
全く心外である。
「いいから。今はいつなんだ。」
「分かったから。今は20xx年5月12日だよ。本当に大丈夫?」
「わかった。ありがとう、友梨亜」
「とりあえず、エッチな本はお母さんにいいつけるからね」
そう言い妹は俺の部屋を出て行った。
あぁ、俺は本当に戻ってきたんだ。
6年前のこの日に。
あの惨劇が起こる1年前に俺は戻ってきたんだ。
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