5年後 プロローグ(前編)
ちょっと他のがいきづまったため、こちらを書きました。
「先輩方、これを使ってください。」
俺のかわいい後輩である神山沙耶が唐突にそんなことを言い出した。
目の前にあるのは耳につける用のヘッドフォンと大きなパソコンが机の上には置いてある。
過去に戻れる装置、タイムリープ。
この機械をを見るのはもう何回目だろう。
思えば俺はこの無限ともいえるループに何度挑んできた。
失敗するたびに過去に戻り、またやり直す。
俺は後こんなことを何回繰り返さなければいけないのだろうか。
「沙耶、これは?」
分かり切っていることだがそれでも俺は彼女に聞かないと行けない。
これは決められた約束事なのだから。
「何って……先輩そんな思わせぶりなこと言わないでください。先輩ならこれのこと分かっているくせに。だから美雪先輩をいつまでも待たせちゃうんじゃないですか」
「お前はこんな状況でも相変わらずだな」
「それは沙耶ですから」
そういいながらこっちを見ながら舌をだし、テヘペロ☆とやるあたりさすがだと思う。
正直ぶん殴りたいほどうざいが。
今から5年前、俺らのいる所は北海道の化学研究所から流出したウイルスによって死の島へと変わった。
そしてそのウイルスは日本全土だけでなく、瞬く間に世界全土をむしばんでいく。
その中で、俺達は必死で生き延び、何とか感染者のいないこの島に辿り着き平和な生活をし始めたのだが、島を整備するのにはすごい大変だった。
それでも俺達は何とか作物を作り、狩りをし、何とか最低限の生活を整えて行く。
その間には色々大変なことがあったが、それでも楽しかった。
1年前には生き残った美雪との婚約も決定し、今では仲のいい夫妻として島では知られている。
沙耶曰く「あんなにアプローチをかけられて気付かない先輩は死ねばいいんです。」と言われてしまった。
後輩に罵倒されている俺を見て、隣にいる美雪は微笑んでいたしきっと彼女も幸せだったに違いない。
この日常に。
それが崩れたのがちょうど今から1時間前である。
島で謎のアウトブレークが起きてしまった。
何故、アウトブレークが起きてしまったのか詳しいことは全く分からない。
ただ、このころには必ずアウトブレークが起きる。
これは決定事項のようなものだ。
ただ今回は今までと1つ違うところがある。
「私達は過去に行けるけど……沙耶、あなたは」
「美雪先輩、そんな悲しいこと言わないで下さい。大丈夫ですって。沙耶もこの後絶対に続きますから。」
そう、美雪である。
美雪も今まではこの戦いで死ぬはずだった。
そして毎回この部屋には俺と沙耶だけが残り、俺だけがタイムリープをし過去に戻ることがこれまでの流れだったが今回は違う。
沙耶のはかない笑顔を見て泣く美雪。
彼女の心情を考えると俺としても辛い。
「先輩も何泣いているんですか。まるで子供ですよ。」
「えっ?」
沙耶にそう言われ、俺は顔に手を当てると、一筋の水滴が手に付いていた。
どうやら俺も泣いていたみたいだ。
もう大切な人の死には慣れたと思っていたのにいまだにこのありさまである。
「沙耶の為に泣いてくれるんですか? やっぱり先輩は優しいですね」
違う。俺は沙耶を利用していただけなんだ。
沙耶のことを騙して、こんなことをさせて、俺は最低だ。
「でも、我儘で傲慢で自分勝手な沙耶をここまで立派な大人の女性にしてくれたのは先輩ですよね」
「それは……」
「本当は責任を取ってもらいたいところですけど、今回は特別許しちゃいます」
そういい、こちらにウインクする沙耶は昔とは打って変わってもう今では立派な大人の女性だ
昔のあの非力な少女はもういない。
俺らが感傷に浸っていると、後ろの扉をたたく音が聞こえる。
「時間がありませんよ。先輩方、椅子に座って下さい」
「でも……沙耶が……」
「早くしてください!! もう扉が持ちません」
彼女の言葉に美雪も椅子にあわてて座る。
「年代は6年前の今日に設定します。アウトブレークが起こるあの日まで1年の時間があります。それまでに2人でできる限りのことをしてください」
「沙耶」
「先輩。沙耶をここまで育ててくれてありがとうございます。あちらに行っても沙耶のことを宜しくお願いします」
「あぁ、ごめんな。沙耶。本当にごめん。」
「沙耶……」
「美雪先輩。あっちの世界でも沙耶のことお願いします。立派な大人の女性にしてくださいね。それと雄二先輩愛しています。この世界で誰よりも先輩のことを愛しています。」
彼女のその言葉を聞いた瞬間、俺は暗いまどろみの中へといざなわれた。
ご覧下さいましてありがとうございます。
感相を頂けると嬉しいです。
3月から続く体調不良がようやく治ってきました。
こちらの小説もダーツ共々応援してくれると嬉しいです。