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王宮に

ユーノが住む町から馬車に乗ってしばらく行くと王宮の敷地に当たる森の入り口に入る。


「エド、あとどれくらいかかるの?」

隣に座っているエドに話しかける。ずいぶん揺られてお尻が痛い。レイブンは御者席の後ろで二人の乗る客席とは別の部屋だ。


「ヴォルフヴァルトは広いですからね。あと、一時間かかるかもしれませんよ。」


「…そんなにかかるの?…お城って本当に広いのね。」

馬車の窓から外を仰ぎ見る。常緑樹が深い緑の葉を繁らせて森を黒く染めていた。




それから馬車に揺られて一時間。深い森の中に白く浮かび上がる城が現れた。


「着きましたよ、ユーノ様。」

レイブンがちらと後ろを振り向いて言った。大きな白と金色の彫刻で飾られた門が開いて馬車が路を進んでいく。


「扉を開けてもまだ家の中じゃないのが不思議ね。」

木が生い茂った森とは変わって、中は花の色でまるで春のようだった。花壇や噴水があちこちにあって、少し向こうには紅葉する小さな林もあって…


「ユーノさん、おっこちちゃいますよ。」

気が付いたらずいぶん身を乗り出していたみたいだ。


そしてやっと馬車から降りることが出来た。足元がふらついたが、そこはそつなく側に居たレイブンとエドが支えてくれた。


「すみません…。」

通された部屋はシンプルな家具が並ぶ山小屋風と貴族が呼ぶ部屋だった。


「申し訳ありません、ここでしばらくお待ちいただけますか。」

レイブンは伺ってはいるが返答は求めてないんだろうと思ってうなづいておく。


「ユーノさん、僕もアイツの面倒見に戻んなくっちゃ。じゃあね。」


エドもそう言って、気付くと部屋にはユーノ一人になっていた。

特にすることもないので部屋の真ん中にある応接セットの花柄ソファに腰掛けた。めまぐるしい今日一日の展開に思わず独りきりになるとため息が漏れた。



(わたし、本当に…こんなところで何してるのかしら…。)


これからエドのご主人様に会って、何かお話しをしなくてはいけない等、考えることはたくさんあって、緊張もしているのだけど、それでも窓の外にはのどかにちょうちょなんかが飛んでいて、割とそんなことはどうでもよくなってきたような気がする。


(とにかく、犬を見つけてくれたっていうお礼が言いたいだけなんでしょうから、ご主人様がいらっしゃるのを待っていればいいのよね。)


それでも口からはため息が出てくるのだった。



それから十分も経たぬ内に部屋の外からひそひそと声が聞こえてきた。

「あの人が?間違いないの?」

「だって、エドが連れてきたんでしょ。」


「?」

ユーノが廊下に続くドアを振り向くと家具にもたれてこっちを見るメイドと目が合った。


「あ、ちょっと!」

「何してんの!ばか!」


ドアの向こうにいる何人かの別のメイドが彼女を嗜めるが、本人は気にせずソファに座るユーノを品定めするように見てくる。

白金に近い金髪は自然にカールされていて、琥珀のような瞳には長い睫毛がびっしりと囲んでいる。


「ふぅん…。」

超美人のメイドはユーノの周りをくるりと一周してにんまりと笑った。

「貴女がねぇ…。」


「…あの、わたしが、何か?」

メイドはうふんと返事とも付かない声をあげ、楽しそうにユーノを見るばかりで答えてはくれない。なんだか不安になってくる。


「あの」

もう一度聞こうと口を開きかけたが、ドアが閉まる音で我に返る。


「あら、もう来ちゃったの。つまんな~い。」

金髪のメイドはドアにぶつかった少女と(ドアが閉まったと思ったが彼女がドアにぶつかった音だった)その後の黒髪のメイドを見て残念そうに呟いた。


「何が『つまんな~い』よ。あんたに頼んだドレスはどうしたのよ?」

黒髪のメイドは金髪メイドを叱るが、金髪さんはまったく気にしていないようだった。


「ドレスよりヴォルフラウのほうが気になるでしょ~。それに、本人を見ても無いのにドレスなんて選べませ~ん。」


「言い訳しないの、ヘレナ。ミーアは…こんなに仕事してるのに、あんたときたら…。」

ミーアと呼ばれたドアにぶつかった赤毛の少女は抱えきれないほどの箱を持ってまだふらふらしていた。


「ミーアはやりすぎよ~。」

ヘレナと呼ばれた金髪メイドはけらけらと笑った。あっけにとられて三人を見ているユーノに気付いた黒髪メイドはこほんと咳払いをしてユーノに向き直る。


「失礼いたしました…私、ユーノ様のお世話をさせて頂きます、メイドのシェールと申します。」

「あ、よろしくお願いします…」

次に抱えた箱を下ろした赤毛の少女がやってきた


「わたしはミーアと申します、何でも言いつけて下さいね。」

「あたしはヘレナ~。」

ヘレナはひらひらと手を振って、シェールにぱちんと手を叩かれていた。


「よろしくお願いします…って、お世話って何ですか?」

なんだか大変なことになってきたような、不安がふつふつと湧いてくる。


「これから、ユーノ様には国王陛下に謁見していただくことになります。」

シェールは真面目な顔で言った。冗談ではなさそうだ。


「え、ご主人様ってエドの…、え、国王陛下…?」

「王宮でご主人様って言ったら、そりゃ陛下でしょ~。」

ヘレナはあっけらかんとした言い方で、彼女が言えば冗談のようにも聞こえる。


「それで、陛下と謁見されるユーノ様の身だしなみを、整えさせていただきに参りました!」

ミーアが箱から色々な道具を取り出しながら気合を入れる。


「えぇえー!」

ユーノは驚きのあまり、ソファを立ち上がり、テラスまで飛び出した。



「観念しなさ~い!」

面白半分にヘレナが追いかける。


「わ、わたし、無理っ。無理です!そんな、謁見だなんて…!」


「そんなことありませんよっ。わたしたちが、見目麗しいレディーにしてさしあげますから!」

ミーアが化粧筆を持って追いかける。


「そういう問題じゃないです!」

テラスと庭を区切る柵に追い詰められるとメイド三人がユーノを包囲した。


「…そもそも、犬を見つけたお礼を頂くのに、身だしなみが必要なんですか…?」

そこまでみすぼらしい格好をしているつもりはない。むしろ家庭教師をしていることもあってか、親御さんが不快な思いをしないよう小奇麗にしておかなくてはと気を張っているくらいなのに。


「その話しの続きは私がしよう。」

メイドと4人でもみくちゃになっているテラスに声がかかる。

庭から老年の男性がやってくる。傍らにはリンデがいた。


「陛下…」

メイド三人は頭を下げたまま部屋を下がる。ユーノはぼんやりとして立ち上がることが出来なかった。


(このひとが…)

国王陛下は歳を召していたがまだ姿勢はしっかりとしていて、その瞳も輝きを失ってはいない。未だ現役で国政を動かす良き王である。


「少し、お時間をいただけるかな?お嬢さん。」

「は、はい…」


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