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馬車が行く

部屋に戻ってユーノはこの城にやって来た時に持っていたバッグを見つけ、荷造りをした。


離れのクローゼットにはユーノの私物はほとんど残っていなかったし、元より持ってきたものは少なかったので諦めることにする。バッグに財布が入ったままだったのでこのまま城を出て、街道で乗り合い馬車に乗れば夜までに町に戻れるだろう。




町に戻ったら、手紙を書こう。お祝いの手紙を。

すぐには書けないかもしれないけど、落ち着いたら。



零れた涙が指輪に当たってはじけた。

この指輪は母の形見だった。


唯一の婚約の証も彼の物ではない、曖昧だった自分の立場を痛感して、泣きながら笑ってしまった。


「クローネさま…。」

きちんと整えた部屋につぶやいた名前は霞んで消えた。



式典の準備などで人の出入りが激しいうちにそっと城から出た。荷物を運んだ馬車が数台街道を走っているので、町まで乗せてもらうように頼めば乗せてくれるだろうか。


「ユーノ様。どこへ行かれるのですか?」

どきりとして振り向くとエドが息を切らせて立ちはだかっていた。ユーノは答えられずに俯き、馬の足音と荷車の音だけが二人の横を過ぎて行った。


「ごめんなさい、エド。リンデが私を選んだのは…。きっと、勘違いだったのよ。」


「そんなはずない。リンデの鼻は本物だ。勘違いなんてするはずないんだ。…今までずっと、ずうっと、探してきたんだから。ユーノ様だけが、ヴォルフラウなんだ。」


「じゃあ」

じゃあなんでリンデはヘンリエッタの傍らで眠っていたのか。


「ユーノ様は、それでも構わないっていうの?」

「…」



また黙り込んだ二人の後ろからのんびりした声が馬のぽくぽくという足音と一緒に近づいて来た


「やあエド。それにユーノ様も僕を迎えに来てくれたのかい?嬉しいなあ。もう少し薬草について気になったことがあったんだけどね事故で負傷した患者さんも随分回復してきたし、他の皆もさすがにホームシックなのかな?一度城に戻って報告もしないとね。どうしたんです?鞄なんか持って?」


「ケニス先生。」

「ケニス先生も、ユーノ様を止めてよ。」

エドは飼育小屋で起きたお茶会の様子をケニスに伝えた。ケニスはぼさぼさ頭を掻きむしりながら話を聞いた後、ユーノの肩を掴んだ。


「ケニス先生…。ごめんなさい。私戻れません。」

「いいえ、ユーノ様。ここからお出になるならケニスがお供しましょう。」

「ケニス先生!何てこと言うんだよ!」


「どうせこの城から出るのであれば、ケニスを手伝っていただきたいのです。」

かみつくエドを無視して、ケニスは馬車の中にいた医師や学者たちを下ろし、彼らに城への報告を任せてユーノを馬車に乗せた。エドはケニスだけには任せられないと、ユーノと共に馬車に乗り込んだ。



「このまま北方領に戻ります。僕の疑問はどうやら早めに解決した方がよさそうなのでね。村の人はみなさん良い方ばかりで薬草の育て方などそれは素晴らしい技術を持っておりまして良い育て方を伝授して下さったのですよ。それにご飯が美味しかったなあ。少し北に行っただけでこんなにも美味しいご飯が食べられるなら少しくらい寒くっても僕は北に住んでしまおうかとも思ってしまいます。もちろんお城のご飯も美味しいんですけどね料理長に聞かれたら怒られてしまいますから言わないでくださいね。そういえば…」



手綱を握りながら喋り続けるケニスの声はだんだん城から遠のいて行った。


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