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お茶会


「ユーノ様、お体の調子はもういいのですか?」

「ええ。もうすっかり。」


ユーノはエドが世話をする狼の子供たちが飼育されている小屋で手伝いをしていた。広場で遊ばせている間に、小屋の掃除をしておく。

柵に囲まれた広場で跳ねまわっているのは、生後数か月から一年ほどの狼の子供たち。ふわふわでころんとした毛のかたまりが原っぱを駆けているのを見ていると心が和んだ。



体調不良から回復したと報告に行かないと、そして、彼の見舞いに行かないとと思っているのだが、面会を控えていると聞いたのを理由に彼の隣の部屋に戻ることをいつまでも先延ばしにしている。ユーノは小さくため息を吐いた。


殿下の隣に、誰かが立っているのを見たくないのだ。


だからといって自信をもって「彼の婚約者」と言えない己の弱さに視線は下を向く。

『狼たち』に好かれているのであって、決して彼から好かれてるわけじゃないのに、彼から好いてもらいたいだなんて自分勝手な自分。



「ユーノ様、どなたかこちらにやって来ますよ…?」

エドが言った先に目をやると華やかなドレスを着た一団が小道をそぞろ歩いてやって来る。



「ごきげんよう。ユーノさんとおっしゃったかしら?」


「!」

日傘を差した侍女を先頭に一段と華やかな衣装を着たヘンリエッタが細い指に似合わない鎖を引くとその鎖の先に黒い狼が繋がれていた。


「リンデ…?どうして!」


リンデは鎖に引かれているとはいえ、威嚇する様子もなく大人しくヘンリエッタに従っていた。エドの驚いた言葉を受けて


「ああ、この子?先ほどお友達になりましたのよ。」

「嘘だ。リンデは…殿下の選定狼なのに…。」


そこでヘンリエッタは扇を振ってエドの言葉を制し、同時に侍女に茶会の準備を指示した。


「そう。その『選定狼』について、ユーノさんにお聞きしたいことがございますの。」


ヘンリエッタ付きの侍女と使用人たちが素早く用意したティーテーブルには紅茶と焼き菓子が並べられた。ヘンリエッタは上座に座り、ユーノに座るように椅子を示したので、礼をとって着席した。


「このお茶は特製ですの。どうぞ召し上がって?」


朗らかな口調で勧められたのでユーノは恐る恐るカップに口を付けると、レモンを皮ごと入れて煮込んだような酸味と後に残る苦味が口の中に広がり驚いたが、吐き出すわけにもいかずに小さく咳込んだ。ヘンリエッタはその様子ににっこりと微笑みながら穏やかに会話を続ける。


「そう、それで聞きたい事と言うのは…わたくし『選定狼』について何も父から教わってなくって、お兄様に叱られてしまったのよ。妻になるのなら知っていて当然の事だって…。」


ヘンリエッタの傍らに伏せているリンデは鎖に繋がれたまま大人しく目を閉じている。ユーノの後ろに控えているエドを振り返って見るが、エドも信じられない、といった表情を浮かべるだけだった。

やっぱり、彼女がほんとうのヴォルフラウだったのだ。殿下の隣に立つにふさわしいお姫様。



「お兄様の…いいえ、クローネの家庭教師なら、わたくしの家庭教師でもあるわよね。色々と狼について教えてちょうだい。」


ユーノは返事もできずにただ口の中の苦味を飲み込むことしか出来なかった。ヘンリエッタは綺麗な紅色の唇を三日月の形にして美しく笑っている。


なんて美しい方なのかしら。この人が殿下の隣に立つにふさわしい人…。


「わたくしは庶民の生活に興味はないけれど、クローネがどうしてもというならずっと家庭教師として此処にいてもかまわないわよ。そうね。子供が生まれたら話し相手くらいしていただこうかしら。」



だからこれからも仲良くしましょうね?と言われて、ユーノは自分が返事をしたかどうかも分からないまま、ぼんやりと離れの部屋に戻っていた。


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