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馴れ初め

「クローネと喧嘩でもしたの?」


唐突にかけられたロゼッタの言葉にユーノはすぐに返答ができなかった。


クローネは何も言わないけれど、ずいぶんしょげてるようなのよね。」

ロゼッタは準備したポットでユーノの分のお茶も淹れてくれ、二人で飲む。

ポットの中にはセルヴィナが入っていた。


「…ユーノはわたくしの出身を話したことがあったかしら?」

「直接おうかがいした事はございませんが、確か西方の子爵家の出身だと聞いております。」


ロゼッタはカップに口をつけたままで笑う。その姿はまるで少女の様でとても二十一歳の息子を持つ女性には見えない。


「わたくしは十二人きょうだいの末っ子でとても甘やかされていたの。わがままで、やんちゃで…よく屋敷を抜け出して冒険の旅をしていたわ。」


冒険好きは幼いころからの様で、供や護衛を振り切って一人馬に乗り駆けたそうだ。

昔とちっとも変ってないのよ。と舌を出すロゼッタにユーノは素直に笑う。



「ある日、森を馬で駆けている時に狼の群れに出会ったの。ピストルを持っていたから、それで威嚇したのだけれど、狼たちは怯まずにこちらに向かってきたわ。」

ユーノは数日前に見たのと同じような状況に身震いをした。


「そこに一頭の狼を連れた男性が現れて狼の群れを追い払って下さったの!…それが、わたくしとフィーリップの出会い。」

まるでおとぎ話のような展開に驚くユーノにロゼッタは笑う。


「でもその後は最悪だったわ!『保護区で狼にピストルを向けるなんて馬鹿か』ってものすごい剣幕で怒られて、わたくしも腹が立って言い返して…大喧嘩になったわ。」

ユーノが目を丸くしたのにロゼッタはまた笑う


「仲の良いお二人が喧嘩をするなんて…驚きました…。」

「わたくしはわがままで気が強いし、フィーリップは頑固者で、会えばいつも喧嘩ばかりだったわ…。でも、出会った時に連れていたのは当時の選定狼で、わたくしは知らない間にヴォルフラウになっていたの。」


「会うたびに喧嘩ばかりの大嫌いな男の所に、狼に選ばれて嫁ぐだなんて馬鹿らしくて。それに、決して身分の高くないわたくしがゆくゆくは王妃になるなんて恐ろしく思って、何かの間違いよとフィーリップに詰め寄ったわ。」


ユーノが手にしたお茶は温くなっていた。

「…でも、フィーリップはわたくしを妻にするのだと頑として譲らなかったわ。…そうなるとわたくしもムキになって家出をしてみたり、夜会に各国の美しい方を招待したりして色々と抵抗したの。『わざわざ嫌いな人と一緒にならなくたっていいでしょう?』って。」


ロゼッタの微笑みが悲しげなものに変わる

「…その時フィーリップのショックを受けた顔を見て、ああ、わたくしったらこの人の事本当は好きだったのねって気づいたの。

そしてこんな広い国でたった一人の愛する方と巡り合わせてくれた狼にとても感謝したのよ。」


ユーノは俯いて、カップで揺らめく水面を見つめていた。

「身分や印象にとらわれないで本当に必要な、王の妻になる人を、狼たちは見つけてくれるのではないか…フィーリップはそう言ったわ。」

口を湿らせる程度にお茶を含むと、いつもは爽やかに感じるセルヴィナの味が酸っぱくて、目の奥がつんとなる。


「もしも、ユーノがクローネと喧嘩したなら伝えておかないとね。と思ったのよ。」


父王陛下はそうおっしゃっていたかもしれないけれど、殿下は違う。

あの時見せた思いつめた顔はきっと「嘘をつきたくない」と言った方へ向けて。


それはきっと、あの白金の髪の美しい人。


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