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来賓

城に戻ると、きたる建国式典の準備の為か、城内は人々が行き交っていた。

クローネはすぐに医務官の処置室に連れていかれて治療を受ける。


ユーノは慌ただしく賑やかな城内よりは静かなところがいいだろうという事と、万が一うつる病気ではいけないとユーノがうなされながらも主張したので、出会った頃に過ごした離れで療養することになった。


ユーノはその後医務官の診察を受け、冷えと疲労からくる熱と診断が下り、式典の準備に駆り出されているメイド3人が空いた時間を工面して交代で世話をしてくれたお蔭で3日もすれば熱も引いて、なんとかベッドから起き上がることが出来た。




時を同じくして、式典に招待した国内外の貴族たちが続々と城へやって来る。

各方面から集まった馬車が列を成している中、金の彫刻で飾り立てた豪華な馬車が王宮の門の前で止まる。


来賓の出迎えと名簿の確認をしていたレイブンは馬車から出て来た人物を見て微かに眉を顰めた。


「これはリヒテンシュタイン侯爵。お越しになるのは一週間先とお伺いしておりましたが。」


先ほどの表情とは打って変わってのにこやかな笑顔で声をかけたレイブンを侯爵はじろりと睨みつけた。


「吾輩がいつ来ようが貴様には関係がなかろう。使用人風情が口を出すとは…。此処は吾輩の家だぞ!」


侯爵は現国王の姉の息子に当たる人物で父王のいとこになる。この城が彼の家ということはあながち間違いではないのだが、政に無関心で博打と酒好き。挙句、金と使用人の扱いが荒く、彼は北方にある侯爵領にいわば追い出されたと言ってもいいぐらいの仕打ちを受けている。にもかかわらず、自分勝手で高圧的な態度を改めることもなく周りに当たり散らす侯爵を横目にレイブンはそっとため息を落とした。



「…恐れ入りますが閣下と姫のお部屋の準備を急がせますので、しばらく別室でお待ちください。フィーリップ殿下と奥様もご挨拶に参ります。」


完璧な礼を見せたレイブンを無視して侯爵はどかどかと室内に入る。わざとなのか?と思うほど泥にまみれたブーツを、落とした視線のままでレイブンは見る。


「まったく…。慰問だなんだと申し出ておいて吾輩に挨拶もなくとんぼ返りをするとは。フィーリップもとんだ愚息をもらったもんだ。嫁の血が悪いとこうなるのだ。」

「…。」

レイブンは眉間に寄った皺がどうしても解けず、顔を上げることが出来なかった。



「お父様。いつまでもここにいたら足が痛くなってしまうわ。早く中に入れて下さらない?」

侯爵の後ろから彼の愛娘、ヘンリエッタがやってきた。賑やかな色合いの侍女たちを大勢引き連れて来たので、予定していた部屋割りを変更しなくてはいけないと、レイブンは内心げんなりとなった。


ヘンリエッタは少女のような顔を妖しい微笑みで彩る。

「やっと社交界にデビュー出来るのですもの。望みがかないましたわね。」




「ユーノ、具合はどうかしら?」

離れにフィーリップとロゼッタが見舞いにやって来た。


「こらこら、まだ寝ておれ。」

ユーノが慌ててベッドから下りようとしたところを止められる。

「熱はもう下がったと医務官から聞いたが、わしはこれから来賓の方々に挨拶に行かないといけないので長居はせんよ。」


ロゼッタはユーノの額に手を当てて熱が下がったのを確認したあと、乱れたシーツを整えたり、お茶の準備をしてくれたりと世話を焼いてくれ、恐縮してしまう。


「フィーリップ。わたくし、ユーノとお話してから参りますので、先に行っておいて下さる?」

ぱたぱたと部屋を行き来するロゼッタをフィーリップはベッドの傍にある椅子へ座らせた。

「いいや、挨拶はわしだけで十分だよ。お前も連日の準備で疲れてるだろうから、ここでユーノとゆっくりしておれ。」

では行ってくるかな。と部屋から出て行った。



「…ごめんなさいね。なかなかお見舞いに来れなくて。離れじゃずいぶん寂しかったでしょ?」

「いえ、そんな。殿下や皆さんにご迷惑をかけて…それに奥様たちのお手を煩わせてしまって申し訳ないです。」


「メイドもみんな忙しくて、たまにしか行ってやれないって嘆いていたわよ。」

「いいえ…そんなこと…。」


離れにいたいと主張したのはユーノだ。

熱を出してしまいうつる病気ではいけないからと言い、皆ユーノのわがままを聞いてくれた事に罪悪感を感じる。

特にシェール達メイドには負担をかけてしまっている。


それでも、以前のようにクローネと隣り合った部屋で過ごすことは出来なかった。


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