うそつき
目を開けた時、周りは湿った土や石がごろごろしている場所だった。少し高い所からケニスとエドがこちらを呼ぶ声が聞こえる。同行している騎士が引き上げるロープの準備をしてくれているようだ。
どうやら小規模な地滑りに巻き込まれたらしい。あまり高低差がなかったのと、下流にまだ木々が生い茂ったところがあったのが幸いだった。
そして、ユーノの体をとっさに抱きかかえてくれた人がいた。
「殿下…!」
ユーノを抱いたまま気を失っているようで、揺すり起こそうとすると負傷しているのか、苦しそうに呻いた。
ハンカチで顔に着いた汚れをぬぐうと、クローネの瞼が開いて菫色の瞳がこちらを見て、細められた
「ユーノ…平気…?」
痛みで青ざめた顔で彼は力なく笑う
「はい…。殿下が、殿下が庇って下さったおかげです…!」
「そうか…。」
クローネは安心したようにため息をついたが、背中も打っているようで痛みで呼吸は浅い。
「よかった…傍に居ることが出来て。」
クローネが伸ばした左手を咄嗟に取る。ほんの数分前に差し出された手を取っていればこんなことにはならなかったのにと後悔する。
「殿下…ごめんなさい。」
取り合った手には指輪が光っている。
嘘つきの塊のような指輪。
周りの人、パパやおじいちゃんに結婚するなんて嘘をついて
殿下は本当に結婚するべき人がいるのに、わたしと結婚するだなんて嘘をついて
わたしは
わたしは本当はずっと、殿下の傍にいたい
彼の傍で何か力になれたらって思ってる。
彼の傍で笑っていたいって思ってる。
思ってるだけで何もできてない嘘つき。
わたしは嘘つき。
わたしは、彼が好き。
「ごめんなさい…!」
ユーノは救助の騎士が下りてくるまで、気を失ったクローネの手を放さなかった。
クローネの怪我は右肩の脱臼が一番ひどく、他は打撲で済んでいた。だが、予定されていた被災地への訪問は中断になり、薬草の運搬と医師の手伝いを兼ねて被災地へ向かうケニスと別れてクローネはユーノとエドと共に城へ戻るこにとなった。
道中、馬車の中でユーノは高熱を出してしまった。
熱にうなされながらもずっと「ごめんなさい」とつぶやくユーノをクローネは痛ましく思いながらも彼女の額の汗を拭ってやることしかできなかった。




