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終わる日常


それから数日後


家庭教師の仕事はどちらかというと不定休で、日曜に急に呼び出されて子守のようなこともしたりする。本当の家庭教師としての仕事はもっと年配の女性の仕事のようだ。


今日は予定が入っておらず、急な呼び出しもなさそうだったので一人暮らしをしているアパートの通りを少しいったところにある本屋にユーノはいた。


街角にぽつんとある小さな書店。中は狭くて天上まである背の高い本棚にたくさんの本が並んでいる。


奥のレジには一人の老紳士が。


「おじいちゃん。パパは帰ってこないの?」

小さな眼鏡で新聞を読んでいたユーノの祖父ジョナサンが顔を上げる。


「さあな…今日は木綿糸の工場を取材するって言ってたがな…」


「じゃあ、そんなに遠くないからお昼ご飯食べにもどってくるかしら。」


父ジミーは新聞記者で、地元の小さな記事を書いている。決して収入は良くないが、家族で細々と生活できるくらいではあるのだから、幸せなものだ。とおじいちゃんはよく言う。


「じゃあ、3人分…。シチューでも作ろうか?まだセラム夫人から頂いたパンが残ってるし。」

ユーノが書棚を整理してほこりにまみれたエプロンを払っていると大きな音を立てて店のドアが開いた。


「こら、そんなに激しく開けたら積み上げた本が全部落ちてしまうだろう。」


「ご、ごめんごめん。それよりも父さん!…ああ、ユーノおかえり。」


「パパこそ、おかえりなさい。どうしたの?そんなに慌てて。」


ジミーはすごく慌てん坊だ。今も何故だか眼鏡が上下さかさまで鼻に乗っかっている。どうやってここまで落とさずに帰ってきたのか。


「そうなんだ、二人とも!さっきそこですごいものを見かけたんだよ。」


「すごいもの?」


「やっとお前もスクープってやつを取れるようになったのかい?」


「ああっ!写真撮るの忘れてた…!」


ジミーの大事な手持ちカメラは大事にしすぎて鞄の奥底にしまっている。


「それで?パパ、何を見たの?」

頭を抱えて後悔しているジミーの顔がぱっと明るくなって、「それがね…」と身を乗り出したその時


店の扉が静かに開いた。


「いらっしゃい…」

と中に入ってきた人に声をかけたジョナサンは声を失った。


中に入ってきたのは煌びやかな白い公務服を着た、銀髪の紳士だった。

あっけにとられて身動きの取れない3人をよそに銀髪の紳士は迷いのない足取りで店の中を歩く。ブーツのかかとが床を叩き、かつかつと音を鳴らした。


「突然申し訳ありません。貴女がユーノ・ブラガ様…で間違いありませんか?」


「は、はい…そうですけど…」

銀髪紳士はユーノの前で止まり、すごく綺麗な封筒を渡した。ひざまづいて両手で封筒を渡されて、ユーノはビックリして同じく床にひざを着いてそれを受け取った。


「私、国王宮付執事長のレイブン・ブロウと申し上げます。つきましては…ユーノ様に一刻も早く王宮に参上していただきたく使いとして参った次第でございます。」


「は、はあ…」

急すぎて何がなんだか分からなかった。なんで私が王宮に?


「あの、レイブンさん?」


「なんでしょう?」

銀髪紳士は真面目にきりっと受け答えをする。どこか冷たい印象の薄青い瞳がじっとユーノを見た。思わず後ずさりしてしまいそうになるのを堪えて聞く。


「あの、どうして私が…?」


「そのお話も王宮でさせていただくことになると思います。」

レイブンはユーノを促して馬車に乗せようとする。



「あ、あの。ちょっと待ってください。準備もしないといけないし…。」


「身の回りのものは王宮で準備させていただきます。どうしても必要なものがあれば後から続くものに渡していただければ届けさせていただきます。」

急かされるように馬車に追いやられる。


「ユーノ。」

ジミーがおろおろと周りを見渡す。


「ユーノさん!」

その時馬車から降りてきたのはエドだった


「エド?」


「ユーノ、知り合いかい?」

ジョナサンがユーノの肩に手を置いて留めながら静かに聞いた。


「ええ、この間…セラム夫人のパンを頂いた日に会った子よ。」


「すみません、急に…あの、アイツ、僕の犬…じゃなくて、僕のご主人の犬…なんです。」


「まぁ、そうだったの?」


「それで、ご主人にユーノさんの話しをしたら、『是非会ってお礼が言いたい』っておっしゃられて…。」

エドはもじもじと目の前で指をからませる。


今日はフリルの付いたブラウスに紺色のブレザーを着ていて、そうやって見ると貴族の小姓らしく見えた。


「なんだ、そういう事だったの…。」


「ユーノ。」

ジミーはおろおろしすぎて汗だくだ。


「パパ、おじいちゃん、ちょっと行って来るわね。お城に行ったらエドのご主人様とお話しして…、もしかしたら帰るのは明日になるかもしれないけど…、もしも家庭教師のお仕事の電話があったら来週まで待ってもらってね。」


「…ああ、分かったよ。ユーノ。…気をつけて行っておいで。」

やっと事情が把握できて安心はしたがジョナサンはユーノの肩に置いたままの手にそっと力を込めた。

ジミーは大きく息を吐いた。

「ユーノ、…うん、行ってらっしゃい。お土産は、いらないよ。」


ユーノは二人に微笑んでからレイブンの手を借りて馬車に乗った。


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